四十七話 遭遇
「生憎、覚えが無いな。俺はお前のようにゴチャゴチャと自分についてを考えたりはしない」
「……」
「ただ……お前には俺がそう見えている、という話で納得してやる。俺はそうは思わないが、お前にとって俺は同族なんだろう。好きに見れば良い」
「は……そうですね。結局、人の心の内は他人には見えません。私がそう思っているからそうだというのが、言葉の限界です。……少し気分が晴れました。こんな話をしたのは貴方が初めてです。貴方にはもう、晒せるだけの恥を晒したからかもしれません。とはいえ、ありがとうございました」
そう言い残し、アスリヤは背を向ける。だが俺にはまだ言いたいことがあった。
「お前の感覚を俺は理解できない。細かな点を上げれば人間なんてもんはそれぞれに違いしかない。そこに引っかかる感性が分からない」
「……」
「だがな、少なくともお前は客観的に見て良くやってる方だろ。仮にお前が死んだとすれば多くの人間がそれを惜しむ。自分に自信が持てないのは勝手だが、そういう周囲の評価は受け入れろ。それを力に変える心構えでいろ。依頼人のお前がここでいつまでもしょぼくれて精細を欠かれたら困るんだ、こっちは」
☆
その言葉には、何か特別な要素は無い筈だった。私の感覚を理解したのではなく、理解出来ないと突き放した上での賞賛。
『少なくともお前は客観的に見て良くやってる方だろ』
だけど、不思議と満足感がある。掛け違えたボタンを直すような。
――ああそうか。私は、私と同じような人間からの慰めが欲しかったのだ。
私の生き方の正しさを証明する。確かにそんな思惑もあったのだろう。だがそれ以上に、ただ認めて貰いたかった。
だって私と同じような人は、私に最も近いのだから。そんな人が私を肯定してくれる。それは何よりの慰めになる。
そんな人が、身近に欲しかっただけ。
――ああ、もしかして、この想いが。
☆
「カイナさん、私――」
背を向けていたアスリヤが振り返ろうとした瞬間、気配を感じた。俺はすぐさま立ち上がり、穴から武器を取り出す。感じた先は広間の奥。
「迷い込んだ、という体では無さそうだな。最近は来なくなったと思っていたが、人の悩みはそう簡単には尽きないモノか」
白い女だった。ランプのような道具から放たれる光が照らす、肌も服も髪も。そしてなにより、どう見てもその姿は子供のものだった。
そして、どこか空虚なその眼で俺達を見つめている。
「賢者を探しにきたのだろう。私がそうだ。……賢き者どころか、愚者そのものだがな」




