四十六話 疑念
「――ということ、です」
アスリヤの長い話が終わった。話の中で既に身体を拭き終え、アスリヤは寝転んだ状態で俺と焚き火越しに対面する形に戻っていた。
これまでの人生と自身が抱えている問題。話の内容を要約するとこんな感じだろう。
「私は良く、賛辞を受けることがあります。立派だとか、高潔だとか。でも本当はこんなものです。私はただ、こうすれば己の目的を達成できるかもしれない。なんて不確かで矮小な理由で戦っているだけです」
そこにいつものアスリヤの姿は無い。胸を張り正面から目を逸らさない、言わば監視者のような実直な振る舞い。それを忘れている。
最近、同じような姿を見た。だがあの時以上にコイツは素を晒し、意志を持って淡々と自分を晒しているように見える。
『あの人は大儀とか、正義の元に人々の前に立つんです。誰にだって出来ることじゃないですよ』
その吐露に、かつてコイツに尊敬を示したアイツの言葉を思い出す。
「自信が無いのでしょうね。だから感じなくてもいいことを感じてしまう。考えなくてもいいことを考えてしまう。理由もなく自分が愛されているとは思えない。だから目に見えて、皆に歓迎される成果を出そうとする。私は、いつまで経っても私を肯定出来ない」
「……俺を兵士にしようとしたのは、何故だか理解できているのか」
「恐らくですが……私と同じような生き方を貴方がすることで、貴方が私が理想とするような人間になることを期待したんだと思います。そうなれば、私のやり方の正しさが証明される。いつか私もそうなれると確信できる」
「――つまりお前は、俺がお前と同じく自分を肯定できていない半端者だと。そう言いたいんだな」
「……はい。始めに貴方に交渉を持ちかけた際に言った何かも、そこに由来しているんだと思います」
自分を肯定できていない。……そんな筈はない。俺は今の生き方を気に入っている筈だ。確かに子供の頃、漠然と見ていた将来では無かった。だがそれでも、俺は納得を――。
『カ、カイくん……』
ドクン、と胸が高鳴った。あの日の記憶が蘇る。俺の全てが崩れ去ったあの瞬間の、アイツの声が。
……いや違う。関係が無い。俺はもうそこは割り切った筈だ。俺は勇者にはなれなかった。でもそれはもう良いんだと、時間が納得させてくれた。
アイツが何を考えているのか知りたいのだって、ただ謎を取り去りたいだけだ。
――そうだ。俺は今の生き方を選んだ自分を、肯定出来ている。




