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四十二話 選択

 それは単純な疑問だった。傭兵として、この依頼をどうするかという話だった。


「死んじゃったら置いて行くしかないから良いんスけど、どうしようもない病気とか治らない何かだったら、考えないといけないっスよね。病気ならアタシらに移るって危険もあるっス」


「……」


「帰るだけならアタシのギフトだけで問題ないし、前金も貰ってるからアタシはそれだけでも良いっスよ。どのみち依頼人が動けないんじゃ、賢者とやらを探す意味も必要も感じないっスからね」


 ニタは言外にアスリヤをここに置いて行く、という選択肢を提示している。依頼人が傭兵に同行するような依頼の場合、依頼人に何かあった時の身の振り方を考えるのは必然と言っていいだろう。これは善意の行動ではなく、報酬を得る為の仕事だ。


 傭兵として、そして明日を生きる人間として。コイツは冷酷でもなんでもない。損得勘定を秤に乗せた、ただの選択の話をしているだけだ。


 ――そうだ、だからこそ俺はその選択は取らない。それは俺の生き方に反する。


「死なない限りコイツは運んででも連れて帰る。それに帰るにしても賢者を見つけてからだ。最悪俺達だけでも賢者は探せる。それでも賢者が見つからないなら、コイツから依頼はここまでで良いと言わせてから帰る」


「ええ、マジっスか」


「前金だけじゃ足りない。俺は無駄足は嫌いだ。何としてでもコイツはムラクに帰して、依頼料を払わせる」


「はー、相変わらず傭兵の鑑みたいながめつさっスねえ。まあアタシも満額貰えるのに越したことは無いから、そこまでぱっぱと見切りを付ける気はないっスけど。……じゃ、アタシもちょっと寝るっス。火の番お願いっス」


「ああ」


 ニタはそう言って荷物から取り出した布にもぞもぞと包まり、間も無く眠ったようだった。アスリヤほどではないとはいえコイツの消耗も大きい筈だ。さっさと休むのは正解だろう。


 ――と、ニタをみすみす寝かせたのが失敗だった。


「……とりあえず、何とか水だけでも飲ませるか」


 アスリヤを少しでも快復させる為に俺は動き出す。まずは水分補給の為の水を取り出した後、額に浮かんでいた汗を思い出し、布も取り出す。


「汗も拭いた方が良いだろ。ニタ、お前がアスリヤの看病を――」


 全ては遅かった。同じ女がやった方が良いだろうと声をかけようとした先からは、ただ健康的な寝息が響くばかりだった。

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