四十話 光明
猿の魔物との戦闘から体感で三時間ほどが経った。未だに景色に変化は無く、降雪の勢いは衰えない。ここの天気は降雪の勢いが強いか弱いかの違いしかないのだろう。ニタのギフトにも目ぼしいものは引っかかってない。
俺達はただひたすらに、前へ進んでいた。
「そういえばさっきの戦闘は反省点が多かったな」
「ああ……そうっスね……」
「足元に不安があるのは分かりきっていた筈だった。だが咄嗟にいつもと同じように動いてしまうのは、経験不足としか言いようがない。足場を踏み固める重要性を分かっていなかったのもな。お前らは、ここと似たような環境で戦ったことがないのか?」
「無いっス……というか雪なんて初めて見たっス……はは、最初はちょっと感動してたのも、随分昔のことに思えるっス……」
「……」
既に意識を保つ為の会話を俺主導でやってる始末だ。ニタの方はまだ余裕があるが、アスリヤの方は返事が来ず、傍から見ても限界が近い。休む時間も場所も無いこの探索では、必然と言ってもいい状況。
俺はこいつらに比べればまだまだ余裕がある。想定通り、限界が近いアスリヤを抱えて進むことは出来るだろう。
だがニタも危ういのは話が別だ。コイツがギフトを使えなければ探索の効率は一気に落ちる。マズイ状況だった。
「……緊急手段を取るべきか」
こういう状況になった時の緊急手段は事前に決めていた。足元の雪を掘り返し集めて硬め、雪洞を作りそこを拠点にする。遠い雪国育ちの傭兵から聞いていた手段。
三人が入れるだけの雪洞を作るのはかなり骨だろうが、今なら最低限の余裕はある。遺跡を探すのを一時諦め、その手段を取るとしたらこのタイミングだろう。俺はその場で止まり、振り返る。
「おい、お前ら二人共限界だろ。事前に決めていたアレをやる。上手く作れるかは分からない上に、作れたとしてもどこまで有効かは謎だが、とにかくやってみるしか――」
「ギフト……あ、あ、ああ!反応!反応あったっス!デカいっスよこれ!」
それを切り出そうとした瞬間、自主的にギフトを使ったのだろうニタから、いつぶりかの威勢のいい声が飛んで来た。その報告が意味するのは。
「方向は?」
「あっち!あっちっス!距離もそこまで遠くない!ちょっと歩けば着くっスよ!」
「待て!慌てるな!」
今にも駆け出しそうなニタを抑えながら、アスリヤに視線を移す。
「とりあえずコイツの言う場所まで行くぞ。気張れよ」
「……はい!」
黙々と歩くだけで変化の無かった表情に、活力が宿った。




