三十四話 賭け
「依頼に対する質問の話に戻る。……賢者とは何だ?」
「質問に質問で返してしまいますが、カイナさんはその言葉に聞き覚えはありますか?」
「……いつだか聞いたおとぎ話にそんなヤツが居たな。勇者が進むべき道に迷った時、どこからか現れて助言をする。そんな感じだった。それ以外には知らん」
「それで正解です。賢者は空想上のものではなく、実際に存在するのです。……始まりは数百年前。その時代に選ばれた勇者は強力なギフトを持っていましたが、扱いが難しく習熟に苦慮していました。そこで修行の為に向かった場所が永雪域です。修行を続ける中、彼は永雪域で謎の人間に出会い、ギフトに関する助言を受けました。以来、その時代の勇者が何かに迷った時、永雪域に向かいその者から助言を貰うというのが度々あったそうです」
「そこまで聞いた上でおとぎ話にしか聞こえないな。なぜ永雪域に人間が居る?なぜソイツはそう何度も勇者に助言が出来る?魔王の復活と勇者の出現の期間差を考えれば、最初の時点で寿命で死んでるだろ」
「ギフトですよ。少なくともエルシャではそう解釈されています。劣悪な環境をものともせず、数世代に渡って生き続ける……そういうギフトを持った人間だと言われています。中には神が人の姿を借り助言しているという見解もありますが、ともかく賢者は実在するということです。数々の勇者に対する助言も、王都に公的な記録として残っています」
「分かった、依頼人の意向だ。ひとまずその賢者とやらの存在は信じるとする。だがまだ疑問はある。お前は何の情報を求めてソイツに会いに行く」
「……勇者様の居場所です。他にも聞けるのなら聞きたいことはありますが、一番はそれです」
その答えを予想はしていた。そもそもコイツに関わる限り、いつまでも勇者の影はチラつくだろう。
「このまま、ただ探し続けても見つかる気がしないんです。それに――」
「なんだ?」
「……私が本気であることを示す為に伝えますが、くれぐれも内密に」
周囲を軽く見回した後、真剣な表情で手招きをするアスリヤ。それに応じ、俺は片耳を近づける。
「私以外の勇者一行の一人が殺されました」
「……」
「彼は、マクーレさんは私と同じく魔物の討伐に赴き、付近の村に滞在していました。丁度その辺りで動いていた別の兵士達が居たので、合流する手筈だったそうです。――そして、その兵士達が村を訪れた時には、マクーレさんと彼の指揮下にあった兵士は村ごと全滅していたと」
話を聞き終え体勢を戻す。再び正面から向き合った時、アスリヤは苦虫を噛み潰したように口元を歪めていた。
「マクーレさんは勇者様に次ぐ実力者です。彼が殺されること自体が異常なんです。もう一人の勇者一行とも連絡が取れていません。勇者様の失踪、先日の協力な魔物と謎の肉塊、そしてこの一件……今、得体の知れない何かが起こっている。……もう、私一人が尋常な手段で解決を望んだところで何とか出来る気がしないんです。でも勇者様さえ見つかれば全てが上手くいく。だからこれは、賭けなんです」




