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二十六話 レリア

「そういや例の殺し、解決したらしいな」


「噂はマジだったって騒いでたヤツが居たけど、結局勇者じゃなかったんだろ?拍子抜けだな」


「お前、それがホントだったら世界の終わりってヤツなんだからよ、拍子抜けで良いじゃねえか」


「違いない。で、そいつはなんで殺したんだ?」


「さあ?どうでも良いだろ。勇者がやったって話以上に面白いオチはねえって」


「つーか殺しに関係ないなら、結局その勇者はどこいったんだよ」


 事件解決の夜、酒場では一日の仕事を終えた傭兵達が腹を満たし、語らういつも通りの風景があった。


 早期に解決したこともありギルドの報せを受けた後の事件の余波は小さく、各々の酒の肴として消費されていく。今日を生き延びた彼らの顔は明るかった。


 その中に一人、場にそぐわない暗い表情で席につく女がいた。


「……」


 女――アスリヤは食事をしつつもその手は遅く、表情は硬い。


 それ自体は普段通りである。この場に居ない部下と食事をする時でさえ、私語は少なく実直な面持ちであることが常だった。


 違うとすれば、その裏で行われている思案がとりとめのない渦のようなモノだったことだろう。


(このまま、引き続き勇者様の捜索をするべきか……一度エルシャへと戻るべきか。だけどエルシャからの通達は何も無い。向こうでも何か進展があったとは思えない)


 理性がそれを正そうとする。勇者一行として、すべき行動をし続ける。その為の思考を。


(――なぜ、彼が死ななければならなかった)


 しかし、裡から湧き上がる思いは止まらなかった。思い出すのは同年代でありながら部下であり、真っすぐな視線で自分に付いてきてくれた男。


(勇者様を護衛していた筈の彼らも、報告を受けて向かわせた彼らも。なぜ、誰に、殺されたのですか)


 勇者一行ではあるとはいえ、まだ年若い自身を上司として慕い共に戦ってきた兵士達。


(勇者様、貴女は一体、今どこに居るのですか?何をしているのですか?)


 多くの謎を残し失踪した、自身が慕う勇者。


『だが話は通じるヤツだった。事情を理解した後は、お前の一方的な勧誘には終始否定的だったよ。……お前が内心で何を考えているのかは知らんが、少しは客観的に自分を見てみることだな』


(私は……単純に勇者一行の一人として彼を求めてるわけでも、更生させたいわけでもなく、私的な理由で拘っているのか?)


 そして、張本人から突き付けられた言葉から発生した、自身への疑問。


 自らの立場と解決の兆しを見せない問題、そして飲み下しようのない感情は、アスリヤの心の許容量(余裕)を静かに浸食していた。


(私は、何をどうすれば――)


「あら、全然手が進んでない。冷めちゃうわよ?」


「! ……貴女は?」


 思案を遮ったのは甘い声。アスリヤが振り返れば、そこには女が居た。


 着崩した給仕服をまとい、柔らかな所作で女――酒場の店員、レリアは微笑む。


「私、レリアって言うの。ちょうど休憩したいと思っててね。ご一緒していい?」

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