二十五話 顛末
彼はザムザという男でね。ギルドにも登録されている傭兵だった。
疑問かい?まあ、どう見ても女だしね。……そう、ギフトだよ。彼は【変身】というギフトを持っていた。名前の通り、様々な対象へと姿を変えることが出来るようだ。
当初彼はこのギフトを使って潜入や暗殺といったような依頼をこなしていた。実際、その手の後ろ暗いことをするにはうってつけのギフトだったのだろう。依頼の成功率は高かった。
だがある日から、彼はその手の依頼を受けなくなった。代わりに君のような武闘派が受けるような依頼を受けていたようだが、結果は散々だったようだ。
そりゃあそうだろう。彼は【変身】以外にギフトを持っていないようだし、目立った戦闘の技能も無い。多少ナイフの扱いは上手かったみたいだけどその程度だ。
そうして失敗続きの彼は、ついには依頼を受けなくなった。代わりに、酒場でギフトを使って芸のようなモノをやっていたらしい。
だがそれも長くは続かなかった。ネタが割れれば飽きられるからね。
それからの彼を知る者はあまり居ない。というより、認識されてなかったんだろう。
知らない内にころころ姿を変える人間なんだ。記憶の内に留めるのは難しい。ただ、それらしい奇行を行っている人物は何度か目撃されているようだったが。
……そして、彼は今回の殺人を思い立った。今この都市を騒がせている勇者とその噂。それに相乗りし、事件を起こしたんだ。
アスリヤ君の話によると本人と似ているのは雰囲気だけらしいが、これは噂を頼りに変身する姿を決めたからだろう。知人を騙せるだけの正確な勇者の情報が彼には無かったんだ。
――さて、なぜ彼はこんなことをしたのか。……まあ、もったいぶる程でもないか。
どうやら彼は目立ちたかったようだ。当初上手くいっていた依頼を受けなくなったのは、それでは目立てないから。受ける依頼の質を変えたのも、芸のようなことをし始めたのも。全てはそれが理由らしい。
なぜ目立ちたかったのか。ギフトと彼が歩んできた人生が関係してるんだろうけど、それを考えるのすら馬鹿馬鹿しい、人騒がせな男だよ。
今回の事件は、ともすればウチとエルシャの関係に亀裂が入りかねないモノだった。だから早期に彼を捕えられたのは本当に助かった。結果的にはギルドの膿を発見出来たとも捉えられるし、これで十分に対応が出来る。
それもこれも君のお陰だ。アスリヤ君の行動に対する臨機応変ぶりも流石だった。ギルドは今回の君の仕事ぶりを高く評価している。
もちろん、私も。以前の暗殺未遂に対する不安も完全に払拭出来たんじゃないかな。
約束通り報酬は弾ませてもらう。ギルドを代表して、感謝を。これからも手を取り合ってやっていこう。
☆
知るか、勝手にやってろ。




