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二十二話 追跡

「──カイナ、さん?」


 事件の犯人を追う過程で遭遇したのは、アスリヤ。向こうも警戒していたようで驚きの表情には強張りが見える。


「お前か。なんでここに居る」


「こちらこそ、なんで貴方が……」


 困惑の混じった警戒と敵意の狭間のような視線で、理解する。コイツの性格と立場。目的は恐らく()()()()だ。


「……俺と同じく兵士を殺した犯人が目的か」


「! 貴方も……?」


「仕事だ。ギルドの上の連中からのな」


 髭の男からは秘匿を頼まれているが、ここは素直に開示するしかない。何かしらの情報を基にここまで来たのであれば俺が犯人と思われかねない。


 それにコイツはイバラの関係者でありギルドとも繋がりがある。バラしても構わないだろう。


「事件があった直後にギルドから依頼があった。さっさと犯人を捕まえたいらしくてな。目撃情報と噂、お前も聞いてるだろ」


「……」


「依頼したのが俺なのは、相手が抵抗した場合のことを考えてなんだろう。噂が本当ならそこらの傭兵じゃ──」


「勇者様じゃありません」


 どこか鬼気迫る声音と表情で、アスリヤはそう遮った。その結論は俺が内心に抱いたモノと同じだが、なぜそう考えたのかという点は異なっているように感じる。


 沈黙。一拍置いて、問う。


「俺の事情は話した。お前は? 俺と同じく犯人を追って来たんだろうが、何を頼りにここまで来た」


「地道に目撃情報を集めただけです。ここ数日の縁もあってか、親身になって協力してくれた方が大勢居たので」


「なんで一人なんだ? 他の兵士はどうした」


「彼らは一カ所に集まって警戒を命じてあります。もし犯人の狙いは兵士というのが正しいのであれば、複数人で警戒を強めた彼らなら十分に迎撃出来る。少なくとも何も出来ずに全滅というのはないでしょう。そして彼らを避け、単独で動く私を狙うのであれば……同じことです」


「囮か」


「はい。罠を張りながらの捜索です。ギルドの方と同じく、私も一刻も速く犯人を捕まえたい」


 自身を囮にすることを厭わないその在り方は、先日の依頼でも見たコイツの生真面目さに起因するのだろう。


 だが今回は……それだけではない気がしていた。世の平和の為、規律の為。そういった大義の中に何かが混ざっているように、俺には見えた。


 髭の男が何も言わなかった辺り、これはコイツの独断でギルドは関与していないだろう。周囲への共有を行わない、もしくは行う暇すら惜しかったのか。


 一人で動けば罠になるということさえ、急いた自分を正当化する為の後付けのように──。


 ……いや、今はコイツの事を考えている場合じゃない。


「なら目的は合致しているな」


「……組もう、と?」


「それで何か不都合があるか? 捕まえた犯人の処遇はお前とギルドで改めて話せばいい。二人で動けばお前の罠は機能しなくなるが、今更だろ。ここまで来る途中で襲われなかったのなら。それに固執する意味はもう薄い」


「……」


「俺達が二人が別々で動いて、結果的に互い同士が邪魔になるような展開も避けたい。それに、もしお前にまで死なれると話が余計に拗れそうだ」


「──分かりました。同行しましょう。よろしくお願いします、カイナさん」


「ああ」


 差し出された手を握る。予定外だがこの段階で擦り合わせが出来たのは運が良かったと思っていると、握る力が強まる。


「ですが……私への気遣いは不要です。今回の私は貴方の雇い主ではありませんし、自分の身は自分で守ります。なので、以前のような己が身を蔑ろにするような真似はしないでください」


「俺が居なきゃ危なかったヤツに言われてもな」


「そっ、それとこれとは話が別です! ほら、早く行きましょう」


 手を離し、前へと進むアスリヤ。俺はその後ろに続いていく。


「──もし、仮に、仮にです。これは貴方の認識を正す為の話です」


 背を向けたまま、アスリヤは呟く。


「この事件の犯人が本当に勇者様なのだとしたら。勇者様が我々に敵意を持っていたとするならば。全てが無駄です。ただ、死ぬだけですから」

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