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二話 予定通り

 ギフトは俺達人間が神サマから授かる力のことだ。その内容は多岐に渡り、見慣れたもの、珍しいもの、似てはいるが細かな点が異なるもの等々、とにかく膨大な種類がある。


 だが一つ言えるのは、その内容がなんであれギフトを一つでも授かれた人間は特別視されることだ。


「カイナよ。今この瞬間、お前には三つのギフトが与えられた。その力に溺れぬよう、良く習熟し、皆の為に役立てなさい」


 十歳の時、村の慣習で神殿を訪れた俺は神官にそう宣告された。三つのギフト持ち、いわゆるトリプルなんてのは身近では聞いた事がなかった。


「三つ! 三つだ! 俺は選ばれた、特別な存在だ!」


 だから当時の俺がそう思ったのはしょうがなかったのだろう。神殿の部屋を出て村の皆に報告した時にも大層驚かれた。


「お。そっちも終わったかサフィ」


「……うん」


 その日、俺と同じように神殿を訪れていたヤツが居た。それが同い年で幼馴染のサフィだ。


「聞いて驚くなよ? 俺は三つだ! 村の奴らはトリプルなんて聞いた事がないってさ!」


「す、凄いねっ」


「だろ? で、お前はどうだったんだよ」


 俺がそう聞くと、サフィは困ったような表情で小さく頭を横に振った。俺はそれを見てやっぱりなって思った。


 遅れて神殿から出て来た時の雰囲気が暗かったし、なによりサフィはどんくさいヤツだ。


 主体的に動くのが苦手で、いつも俺の服の袖を掴んで付いて来るような。そんなヤツがギフトを授かれる筈がないって、俺はどこか見下してたんだろうな。


 その時のサフィの表情も仕草も、何もかもが偽りだったことを知らずに。





 ☆




「もうすっかり大人だね。背丈、少しは追いつけるかもって思ってたけど、昔よりも離されちゃったなあ」


 枝を踏み鳴らした音に、どこかのんびりとした口調の声が重なる。


「でも私だって成長してるんだよ! 色々と!」


 思考をまとめようとしている俺の後ろを昔のように付いてきながら、それが当然かのようにサフィは再会を喜んでいた。


 何かが致命的に()()ている。俺とコイツの関係はこんな風に素直に再会を喜び合える仲じゃない。


 それに俺が殺した自分の護衛に目を向けることすらせず、まるで無いモノのように話題にすら出そうとしない。


「──カイくん、聞いてる?」


 何かがおかしい。直接聞き質したい気持ちはあるが……合わせることにした。俺は立ち止まり、振り返る。


「聞いてるよ。成長した、だって?」


「うん! ほら!」


 サフィは両手を腰に当て、胸を張るような仕草を取った。確かに背は伸びてるし出るとこもそれなり出ている。


 加えて上等そうな白を基調とした服の背中まで届く髪と大人びた顔立ちが、流れた時間を感じさせた。


「ふーん。ま、そこそこだな」


「えー!」


「まだまだちんちくりんだよ。それと、髪ボサついてるぞ」


「私がちっちゃいんじゃなくてカイくんが大きくなりすぎなの! あと髪はさっきまで寝てたからしょうがないでしょ! いじわる!」


 慌てたように髪を弄りながら俺を睨むサフィ。月日の流れは言動からも感じられた。のんびりとしたような喋り方は相変わらずだが口数が多く、昔よりもハッキリとした態度を取っているように見える。


 ……当たり前か。少なくともコイツはもう、俺の後ろをただ引っ付いていた頃のガキじゃないんだろう。


「むー……そういえばカイくん、今どこに向かってるの? もう日が落ちちゃうよ?」


 その質問は当たり前といえば当たり前だった。俺達は今、あの街道から外れて側面の森の中に入り込んでいる。夜が目の前に迫る今、俺の行動を疑問に思うのは至極真っ当だが、その真っ当さにどことなく寒気を覚える。


 ──俺が森に入り込んだのは最後に逃げた【転移】持ちが原因だった。暗殺対象がコイツだと分かるまでは逃げたとしか思わなかったが、分かった後は話が違う。


 アイツは襲撃をしかるべき相手に伝え、報告を基に即座に用意された手勢が何が何でもここに向かってくるだろう。これは絶対だ。


 それほどに、サフィ(勇者)は世界にとって重い。そしてその手勢が来るのは今この瞬間かもしれない。


 だから俺は(ここ)に留まることにした。街道や街でその手勢と遭遇するのは分が悪い。手勢を殺すにしても逃げるにしても、夜のここは俺にとって悪くない場所だ。


 ……そうだ、俺は手勢と間違いなく敵対する。そこに和解の余地は一切無い。


『残念だがそれ以上の情報は渡せない』


 そりゃあ、渡せないわけだ。よりにもよって勇者を暗殺しようとするなんてな。普通ならその事実を知った時点で、事情はどうあれどんな傭兵でも手を引くだろう。


 普通なら。


「今夜は……ここでキャンプをする。お前も来るか?」


「! う、うん!」


 唐突で脈略のない提案に、どこか子供じみた笑顔でサフィは頷く。お前が何を考えてるのかは知らない。


 俺が知らない間に何があったのかも。だがそんなのはどうでも良い。考える必要もない。ただ、その態度を続けるのなら好都合だ。


 予定通りに、俺はお前を殺す。


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