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十三話 決着


「チッ! なんつー面倒な忌具だ!」


 何度目かの犬っころの頭を潰しながら悪態をつく。あれから二十ほど潰したが、状況は解決していない。


 生き返った魔物自体は生前より動きが鈍く大した脅威じゃないが、一度潰した魔物でさえあの忌具は復活させられるらしい。


 見たところ一定の損傷度合いを超えた死体は復活出来なくなるとはいえ、一々死体を派手に破壊してる暇はない。現状俺は何度も復活する周囲の死体の相手を強いられていた。もう二度寝どころじゃない。


「疲弊させるのが目的か?」


 絶えず鳴り響く鈴の音。ヤツはさっきから魔物を盾に場所を転々としながらひたすら忌具の使用に注力している。そのお陰でこっちは易々と手出しが出来ない。


 だが、このままこれを続けていれば動かせる死体が減っていくだけだ。俺の気力が尽きるよりそっちの方が早い。ヤツは何かを狙っている。


 それを示すように鈴の音が止まった。眼前の豚面が粘着質な液体音と共に地面に倒れるのをよそにヤツを探す。


 ──ヤツは奇妙な行動を取っていた。杖を持つ手とは逆の手に、杖の先に括り付けられた短剣とは異なる短剣を握り、地面に……血溜まりに、思い切り突き刺した。


 その瞬間、咽るような血の臭いと共に視界が赤に染まった。


「っ煙か!」


 赤で染まった気色悪い濃密な煙が辺りを、正確には死体のある範囲を丸ごと覆っている。


 なんだこれは。……いや、あの短剣。あれも忌具か。もう一本持ってやがった。これを見る限り血液を必要としてるんだろう。死体のしつこい復活は大量の血を満遍なく地面に散らす為。


 この状況、目はもちろん鼻は効かねえしヤツの速さを考えると音じゃ間に合わない。俺がここから脱出する前に、煙を払う前に、今この瞬間にでもヤツは仕掛けて来る。こうなったら勘で。


 ──いや、俺じゃない。そもそもアイツの当初の目的は。


「アスリヤ──」


 やらかした、と思った。戦闘音を頼りにアイツらが居る方面へ振り向いた瞬間、強風と共に晴れる視界。


 その先には兵士にギフトで煙を晴らすよう指示したのだろうアスリヤが居て、その付近にヤツの姿は無い。


 正解はこっちだと言わんばかりに、俺が向いた方向の反対からその気配が迫っていた。


 俺を殺す為に確実に急所を狙っているだろう刺突。人間並みの知性を持つアイツは、人間のように自らの策の成功を笑っているんだろうか。


 視界を切る寸前、アスリヤが陶器を割った時のような顔をしているように見えた。


 ──だが、俺が勝つ為には、その気配だけで良かった。


「ぐうっ……!!!」


 刃が身体を貫く感触。熱さが走り、体内を異物で犯された不快感が伝わり、痛みが来る。


 深々と刺さったのは胸と腹部の中間辺り。確かに重傷だ。だがこの感触、死ぬほどじゃない。


 少なくともその上にある心臓を貫かれるよりマシだ。俺は想像通りに勝利の笑みを浮かべてるヤツの握り手に沿うように、武器を捨て空いた両手で杖を掴んだ。


「捕まえた」


 笑顔が消える。──何であろうと勝つ。その為にはとにかく急所だけは外せば良い。それに割り切っていたからこそ、最小限の身じろぎで狙いをズラせた。


「いつまで未練がましく握ってんだ……寄越せよ」


 コイツは俺と競り合いが成立する。所詮、成立するだけだ。


 俺は刃が刺さったまま、未だ握る手を離さないヤツの身体を杖で釣り上げるように持ち上げ、力任せに振り切った。


 流石に離さざるを得なかったのかヤツはその勢いのまま向こうの方へ飛んでいく。


「あー、痛えなクソ。……だがこれはもう俺のモンだ」


 口まで登ってきた血を吐き捨て、身体から引き抜いた短剣付きの杖を穴に放り込む。放り投げられた先で着地したヤツの手には最早何も無い。


「まだ在庫はあんのか? ……あるなら出してるよな。言っとくが、この程度じゃ俺は死なねえぞ。長いことほっといたら死ぬだろうがな。お前と戦う分には問題……またそれか」


 またしてもヤツの判断は早かった。地面に刺さったままのあの忌具すらも回収せず、全力の逃走判断。


 俺は追おうとして──ヤツがその場に急停止したのを見た。それはまるで、無色透明な壁にぶつかったかのような挙動。


「今です! カイナさん!」


 背後、それも近しい距離から聞こえてくるアスリヤの声。気づけばさっきまでしていた喧しい戦闘音が鳴りを潜めている。


 ……どうやら俺が手間取っている間にメインの大群の方の対処はあらかた終わり、こうして要であるアスリヤが手助けに来れるくらいにはなっていたらしい。俺は致命的な停止をしたヤツの下へと踏み出す。その拳を握り締めて。


 ──壁によって後退が出来ないのを良いことに、三十発以上の拳打、肘打ち、蹴りを思うまま繰り出し終わった時、目の前の存在は既に絶命してい

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