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十二話 忌具

「随分と人間臭い陰湿な真似するんだ、なっ!」


 受け止めた刃を押し返し、空いた土手っ腹に蹴りを放つ。が、向こうはそれを貰う前に後退する。


 遠目から見れば見事に小汚い傭兵にしか見えない外面。兜の内から見える魔物そのものである頭部から向けられる苛立ち、警戒、思案の混ざった視線。


 間違いない。確かな知性を持っている。


「そりゃ俺らだって奇襲じみた展開は警戒してた。だがそれは大群の動きに関しての話だ。そもそもからして魔物の頭の出来を舐めてたんだ。大群から外れた一匹が明確な意図で、ここまで手の込んだ策を打つなんて想像すら出来ない」


 恐らくコイツは大群が動き出した時点で既に俺達が陣取っている場所の周辺に潜んでいたか、大きく迂回して俺達の背後を取り傭兵の中に混ざった。そしてこうやって、アスリヤが無防備になる瞬間を待つ。


 変装先に傭兵を選んだことといい、コイツの知性は人間と遜色ない程度に見える。


「なんだ!?」


「い、今、あの傭兵がアスリヤ様を襲おうとしてなかったか?」


「いや、ソイツはウチの傭兵、というか人間じゃねえ! 顔を良く見ろ!」


 だからこそ肝心の奇襲が失敗しこうなった以上、そうすると思っていた。


「逃がさねえよ」


 俺達から離れるべく動き出したヤツに張り付くよう追随し、武器を振るう。


 初動で逃げの一手という目論見をまたも潰されたことに苛立っているのか、さっきとは逆に俺の武器を受け止めた杖越しのヤツの表情は歪んでいた。


 ……さっきも感じたがコイツの膂力、それにこの杖。


「追い駆けっこしにきたんじゃないだろ。腹括れ」


 競り合いの後、再び距離を取る俺達。こちらを見定めるような立ち振る舞いと姿勢。どうやら逃げは諦めたらしい。


「カイナ!」


 背から聞こえるランドの声音は、俺の見立てを聞きたがってるように聞こえた。


「お前らは手を出すな! 前の対応しとけ!」


 この瞬間にも魔物共の進行は止まっていない。そこで手を抜けば本末転倒。


 それに、コイツ相手に俺以外は要らん。邪魔になる可能性の方が高い。


「アンタもだ。背中を預けろとまでは言わない。だが前に集中してくれ」


「……分かりました」


 アスリヤは素直に俺の話を聞いたようだった。声の感触から恐らく再び正面へと居直ったのだろう。そうして俺だけが、騒がしい戦闘の音を背負い静かにヤツと向き合う。


 魔物の中にも名前を持ってるヤツは居る。誰が名付けたかは知らないが、よく見かける種類ほどその傾向にある。


 コイツも恐らくその中の一匹だ。特徴的な緑の肌と凶悪な顔付きで、本来であれば人間の子供ぐらいの大きさが精々かつ、数ぐらいしか取り柄が無い単体で見れば比較的非力な魔物。


 小鬼(ゴブリン)。本来は持たない筈の知性と、俺と競り合いが成立する程度の膂力と体格を持つソイツが、確かな意思の光を目に宿し俺を睨みつける。


 ──同時に踏み出した。初手の俺の叩き付けは空振り。躱した際の半身の姿勢でヤツが放った刺突に対し、俺は武器を捨て刺突を躱しながら杖の横っ腹を蹴り抜いた。


「落とさないか」


 穴から捨てた武器と全く同じ二本目を取り出しながら、蹴りの勢いに倒され受け身を取りながらも手元の武器を手放していないヤツを見る。


「忌具だろ、それ」


 忌具。他にも呼び方は色々あるようだが、大体はそう呼ばれる。


 尋常ではない耐久性を持つ反面、基本人間が使えば使用者に害を与える武具であり、どう作られたのか、誰が作ったのかは一切分からない。しかし大抵、それが姿を現す時はこうして魔物の手にあり、魔物は人間のように忌具によって苦しむことはない。


 誰かが言っていた。忌具は魔物にとっての()()()なのではないかと。


「出し惜しむ気はもう無いって?」


 こっちの忌具に対する認識と狙いはバレた。伏せておくメリットはもう無い。


 忌具は魔物にとってのギフト。そう言われるだけあって、忌具は特殊な現象を引き起こす。まずはそれを見極める。


 立ち上がったヤツは手元のそれを、杖のような忌具を地面にトン、と叩き付けた。同時に不快な鈴の音が辺りに響く。あの杖に付いた鈴、刺突の際には鳴っていなかった。地面に叩き付ける必要があるのか? 


 俺がそう考えていると、すぐに変化があった。


「なっ!? おい、死体が動き出したぞ!」


 背後、それも両翼の傭兵共の声。


「なんだコイツら……っオイ! そっちに行ったぞ!!」


 目を向けずとも伝わって来る。音、そして空気の流れが、俺の背後から迫る複数の気配を伝えて来る。


 ……一定範囲内の死体の再利用! そして狙いは俺一人! 


「上等。生き返って早々悪いが、まとめて二度寝させてやるよ!」

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