破壊衝動
ぼごぉっ!
俺が人を殺さんばかりの力でで殴った段ボール箱は、形をやや変形させながら部屋の隅まで飛んでいった。壁に衝突して床にべシャリと落ちたはいいものの、思ったよりも小さい音が、俺を苛立たせた。
足を持ち上げて、今度は足元に落ちていたプラスチックの箱を思い切り踏みつける。バキッ、と音を立てて二つに割れたので、少しスッキリする。ただ、足の裏を切れ目の鋭い部分で切ったらしい、赤い液体が床に付着した。足裏を確認すると惨めな気持ちになる気がして、その感覚は放っておくことにする。
次は少し歩いて、窓ガラスに拳を叩きつける。
がっしゃ−−ん!と景気のいい音がして、今度こそ確実にスッキリした。こういう時は拳に傷が付くと思っていたのに、血は流れていなかった。空いた穴から外を覗き込むと、小さな破片から大きな破片までバラバラになって草むらに落ちていた。窓枠に手を置き乗り越えようとしたが、流石に鋭い破片が食い込んで、手の皮膚を刺激した。わざわざ扉を開けて外に出るのは面倒だったので、壁を殴りつけた。
振り返ると、壁に鉄パイプが立てかけてあったので、手に取り、壁をガンガンと殴りつける。
初めは小さかったヒビがどんどん大きくなっていくのを見ると、反比例するようにもやもやは小さくなっていった。気持ちに任せるまま壁を殴っていると、いつの間にか抜けて、外が見えるようになっていた。壁の端の方を適当に殴って広い穴にする。人が一人通れるくらいの穴ができたら、今度こそ外に出る。
街路には人っ子一人いない。寂れた標識や、ヒビのいった道路、ガス欠で止まって、そのまま捨てられたらしい車が二、三台。あとは大して何もなかった。
車に近寄りボンネットを開ける。中にはよくわからない精密そうな機器が大量にあったので、持ってきた鉄パイプでごちゃごちゃに殴り、めちゃくちゃにした。
これはあまり気持ちが良くない。
標識の下の方を見ると、地面に刺さっている部分に隙間がある。もう少し穴を広げたら抜けそうだと思い、標識の棒の部分を殴り、穴を広げよう。そう思ったのに、十数発殴ってみたが穴は広がらず、ただ棒がネジ曲がっていくだけだった。
どこまでネジ曲がるか試してやろうと思い、追加で三十発殴った。まあでもほぼ直角くらいになったところでやめた。飽きた。
飽きたら夢はさめる。
俺は病院のベッドの上で心地よい気持ちで目覚めた。