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余生をえんじょい

情景描写と表現の拙さについてはご容赦ください。

時々変換ミスがございます。

「次の死人、前へ出よ。」



これからある男の裁判が始まろうとしていた。その男は歴史上で最も高い名声と人気をを得、魔王と恐れられた人物だった・・・。


1582年 6 月23 日 第一章


「織田信長。」 



 「おう!!!」 



その名を告げられた彼は堂々とし風格をだし、余裕の笑みを浮かべながらすたすたと歩いていた。



裁判のため人間の姿となって具現化しているとはいっても、神を前にして物怖じしないとはさすがだ。 



 「もう一度聞くが、おぬしが信長じゃな。」 



「俺は織田三郎平朝臣(たいらのあそん)信長だ。」



 「間違いないようじゃな。わしが今回貴様を裁く裁判長じゃ。少し待っておれ。書類などを取ってくるでの。」



裁判長は日本の貴族の礼服を着ている、七〇代ぐらいの見た目をした白髪でひげの長い、仙人のような老人だった。この場には裁判長と信長以外にいなかった。その裁判長がどこか営ってしまったので、室内には何とも言えない静寂が生まれた。






信長は彼が書類を取ってくるといって奥に引っ込んだ時、特にすることもないので、唐代を彷彿とさせる室内の壁画や装飾に目をやっていた。




すると突然、まばゆい光が部屋に立ち込めた。手で目をふさいだ後信長は少し目を見開いた。



信長本人にはここがどこだか見当がついているようで見当がついていない。



今ここを支配しているのは、天空の星空だ。



数百、いや数千億もの光の粒が信長の視界を埋め尽くしている。



神がどこかいってしまい、待たされている信長は、少し暇そうに、はたまたイライラしているように星空を見つめた。   



「またせたな。どうじゃきれいじゃろう。わしが引っ込んだ瞬間にこの演出とは。あの信長公でも少しは度肝を抜かれたかな?あれはぷらねたりうむといってな。冥途の土産、といったところかな。」



若干挑発気味にかの神は言った。うまいこと言っただろという風にやや誇らしげでもあった。



そして、



「それでは本題に入ろうか。」



 今日一番の大きな声がこだました。 



「そなたの罪はむろん殺人と大量虐殺にある。延暦寺に伊勢長嶋の時はひどかった。太平の世を築くためとてさすがに限度というものがあろう。」



「・・・・・・。」



信長は腕を組み真顔のまま何も話さなかった。



「あの待ち時間のせいで拗ねてしまったか?ほんとにせっかちで短気な男じゃの・・・。」



やれやれとあきれ顔で神は言う。



「まあ良い。この天秤を見てみよ。これは罪と功績を並べ、極楽へ行くか地獄へ行くかを決めるものじゃ。おぬしの罪と功績を並べた結果はこのとうり、見事に寸分の差もなく釣り合っている。5億年ほど裁きつづけて初めてのことじゃ。」



「御託はいいから早く判決を申せ!」



「だから怒るでない。喧嘩っ早すぎるぞ!はぁ~。ゴホン。気を取り直して、では言い渡すぞ。」



一瞬静かになった。この裁判をおそらく極楽や地獄の魂どもも息をのんで見守っているのだろう。極楽は長年の平穏が乱されることへの不安を、地獄は反逆の王の誕生への期待を胸に。



「織田信長。享年49歳に現世への転生を言い渡す。



願わくばそなたが日ノ本の國をふたたびおさ・・。」 



「断る。」




「・・・は?」




「そもそも人間界も地獄の一と申すではないか。前に坊主の話を転寝(うたたね)しながら聞いた甲斐があった。俺にこの発言は似合わないだろうが、上洛のための関係調整や調略に明け暮れ、戦ばかりの日々はもう疲れたのだ。そうだ!極楽ならしたいことは何でもできるであろう!あそこで隠居して囲碁や茶道三昧で余生をえんじょいしたいのだ。」




「うたたねは聞いたうちに入らんじゃろ。しかも、君もう死んどるし、そしてその言葉はどこで覚えたのだ・・・。」



「それではこれにて。」



そうして信長は質問を無視して元来た道を戻っていた。



はじめから神はここにきてもなを余裕の笑みを浮かべる信長に若干気圧されていた。



普通の人間ならば、自らの罪への後悔と地獄に行く恐ろしさで平常心を保っていることすらできない。



そもそも信長という部類の男の扱い方に慣れていなかったのだ。



しかも判決を拒否し、すたすたと帰っていく行為は、まさに神への冒涜に等しく、たまに信長の行動を鏡越しから見て、その自由奔放な性格をこの場の誰よりも知っている裁判長でさえ唖然とした。



頭には???でいっぱいだった。



神々で埋まったこの空間ではしばらく沈黙が続き、追っ手を出すことさえ忘れてしまったのだった。



  1582年  7月  2日  第二章  


信長は裁判所の一室を抜け出した後、三途の川へと向かった。どこへ行けばいいのかわからないまま何度も三途の川と裁判所をつなぐ道を行き来している。



あの道はあたりには霧が立ち込めていて一本道となっているため、戻るのは容易だった。三途の川は相変わらずすごい霧だ。



あの道の霧は三途の川から流れてきているものなのだろう。あそこから船で渡してもらうのだ。



信長は天界からきている追手のことなどまるっきり気にかけずに考えつづけた。


実際、天界は真っ先に極楽へ使いを出したから考える必要などなかったのだが。



今までは優秀な家臣に恵まれ、信長自身でも案は出したがある程度助言や進言をしてくれる者がいた。


しかし今彼は一人だ。



頼れるものは誰一人としていない。



つまり自分の出した答えが自分の身に直接影響を与える。



「もし間違った選択をしてしまったら・・・。」



という考えがよぎって、一週間動けなかった。




 信長は腕を組み、胡坐をかいて、石河原の上で



「ううん・・。」



と悩んでいた。



すると


「ゲホッ・・。ゲホッッ・・。」



人のせき込む音がした。信長はそのほうへ首をやった。



「殿、しっかりしてください。」



「そうですよ。冥途でもこれでは先が危ぶまれますぞ。」



どうやら渡し賃が払えずに泳いでおぼれたらしい。



ちなみにもちろん渡し賃など持っているはずもない信長は泳いで余裕で対岸についた。



本当は三途の川はかなりの激流だからあの男以外みんな異常だ。あのおぼれた男の反応が一番正しい。


おぼれた人は禿げたキンカン頭だった。



見た目は五十代。


殿と言われていたからそれなりの身分のものに違いない。あれ?この男はもしや・・・。


その男を一瞥した瞬間、信長のこめかみに青筋が立った。すくっと立ち上がり



「みぃつぅぅひぃでぇぇぇぇ。」



と叫びながら獲物を見た獅子のごとく走り出した。



光秀はぐったりしていたのにもかかわらず飛び起きた。


「のっ、信長殿?どっ、どうしてここにいる。本能寺の一軒からおよそ一週間はたっているぞ。」



「そんなことはどうでもいい。さんざん目をかけてやったのにいきなり俺を裏切るとは。貴様、もう一度殺してくれるわぁ!!!」



あたかも、鬼の形相で襲い掛かった。


光秀はその剣幕にたまらずに逃げ出した。


がしかし圧倒的な身体能力の差を前にあっさりと捕縛された。



「あ、あ、あれは足利義昭の命令で仕方なくやったんだ。書状が届いておる。今すぐにでも見せたいほどじゃあと朝廷からもやれと達しが来ていたし、こうするほかなかったんじゃ。」



「その言葉はまことか?」



「まことにございます。」




「そうか・・。」



「わかっていただけましたか!」



数秒、腕を組みながら信長は目をつぶり黙った。そして


「それを抜きにしても一発殴らせろ。」



とすさまじい腕の振りで禿げ頭に一発をお見舞いした。

ゴチンと鈍い音が鳴った。



「あいだっっ・・。」



光秀は髪のない頭をおさえてうずくまった。



「よしっ、これですべて終わった。お前はもう一度おれの家臣となりとも余生をえんじょいするのだ。後ろの斎藤利三、明智秀満、お前らもだ。」



「は、ははっ。許していただきありがたき幸せ。して、えんじょいとはどういう意味が・・。」




「楽しむという意味だそうだ。宣教師が言っておった。いぎりすと申すイスパニアやポルトガルとは違う国の言葉だそうだ。そういえば現世はどうなっておる。お前らはなぜここにおるのだ。」



光秀は悔しそうな顔をして黙った。そして唇をかんだ。



「かの禿げネズミに討たれました。あとすこしだったのにっ・・。あんなやつに・・。」



光秀はこぶしを地面に打ち付ける。だがそのあと手を左右に振る。河原なので痛かったようだ。





「秀吉か・・。そういえば我が息子の信忠は?まだあいつをみておらんが・・・。いきておるのか?」




光秀はギクッとした。そして後ろの家臣二人と目を見合わせ、気まずそうに、ごまかすように笑った。




「あっ・・。あははは・・。それがしが、、、討ちました・・・。」



「・・・貴様・・。よくも・・・。」



「ひっ!」



光秀はとっさに家臣たちの背中に隠れる。




「まあよい。そうか死んだか。ではもう織田家は天下をと取ることは叶わんな。信雄はわしほどの器は持ち合わせてはおらんし、信孝は戦はまだ不慣れでむずかしいだろうな。」




「やはり秀吉ですか。」



やや、キリッとした声を出していつの間にか信長の真正面にいる。



「ああ。さすがわしが見込んだ男だ。やりおるわ。」



信長はにやりと笑った。やや感慨深そうな感じだった。



「それはそうとこれからどうしますか。」



「泳いで三途の川の下流まで行ってみようと思う。」



「なんですと!いやです嫌です絶対嫌です!」




光秀は動転したような声を出して反対した。首をすごい勢いでぶんぶんと振っている。



「そうかお前泳げないのだな。」



信長はにやついた。光秀の顔はさらに青ざめていった。



「「信長殿、わしにお任せを。わしが光秀様を背負いましょう。」」



後ろに控える光秀の家臣二人が声をそろえて胸板をたたいた。



「おお助かるぞ、利三、秀満。では、いくぞっ!」



「ちょっとまっ、いやだああああああ」



光秀の断末魔が響いた。




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