アルボール
しばらく歩いた2人は街にたどり着いた。
ログハウスのような木材で造られた家が並んでいる。まるで外国のようだった。
人通りもそれなりにある。だが、すれ違う人々の顔がどことなく暗いのが気になった。
「ここはアルボール。翠緑の森の中で冒険者ギルドがある唯一の街でね。最近はここの宿屋に泊まって魔物を狩っているんだ。」
「そ、そうですか…」
いよいよここが日本なのか怪しくなってきた。
馬車などが通り車は一台もない。スマホをいじってる人も見かけていないし、人々はどことなく中世ファンタジーで見かけるような服装だ。
全員が凝ったコスプレをしていて、ここが撮影場所だっていう言い訳も苦しい。カメラが一台もないのだから。
(もしかして私、転生しちゃったのかしら)
そう考えれば合点がいく。
もし違うとしたら私は仕事中に誘拐され、なぜか服も髪も変えられて海外の森の中に捨てられたことになる。
常識的に考えて人を誘拐して海外に連れていくのは無理だ。そもそもメリットがない。
それに服と髪を変える意味がわからない。
「まずはこの世界を知る必要があるわね。」
私は小さく独り言を呟いて決意を固める。
「ニールさん、これからどうするんですか?」
「あぁ、まずは冒険者ギルドにクエスト達成の報告をしに行こうかな。報酬も欲しいし。」
「差し支えなければ私も連れて行ってもらえませんか?」
「それは構わないよ。何も面白いものはないけどね。」
「いえ、いいんです。冒険者ギルドに興味があるので。」
(というのは嘘だけど。とりあえずこの世界を知るには冒険者ギルドのようなファンタジー要素高めなところに行くのみだわ。)
ニールさんは少し考える仕草をしている。
「もしかしてダイアナさんは冒険者志望だったりする?」
「うーん。今はまだ、なんとも」
冒険者。魅力的な響きだ。
ゲームでも冒険物のRPGは大好きで子供の頃はよくやっていた。ファンタジー小説もよく読んでいたな。
でも現実で冒険者になるという事は危険がつきものだ。ゲームならば死んでも、重傷を負っても、セーブポイントからやり直せばいい。
だが、これがリアルになれば?死んだ時点でゲームオーバーだ。重傷を負って生還できてもその先の生活はどうなるのだろう。冒険者として復活できるほど医療が進んでいるのであれば希望はあるが。
(ニールさんと一緒に冒険者ギルドに行って話を聞いてみてから考えようかな)
そうして2人は冒険者ギルドの扉を開けた。