ここはどこ?
その日、私は不思議な夢を見た。
床は白いふわふわの雲。白金のテーブルセットに優雅なティーセット。目の前にはプラチナブロンドの髪に青空のような瞳。そして神々しい光を放っている。名乗られていないが本能で女神様だと察する。
どうやら私は女神とお茶をする夢を見ているらしい。
「哀れな貴女に贈り物を授けましょう。貴女は何を望みますか?」
私は即答する
「生きる意味を」
女神は私が答えると微笑む。そして私の額に人差し指をつけた。人差し指から光が溢れ私は思わず目を閉じる。額からは温かいものが体に染み込んできている。
なぜかそう感じたのだ。
「貴女の新しい人生に光が溢れますように」
女神はゆっくり人差し指を離し微笑む。
私は何も答えられずに微笑み返した。
そして光が溢れ……
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
「おい!おい!」
乱暴な男の声で目が覚める。
寝ぼけ眼で乱暴な声の主を見ると、安堵のため息が降ってくる。
「良かった、起きてくれて。どうしてこんなところで寝てるんだ?ここは馬車も通るし魔物も出る。どう考えても寝床に最適じゃないぞ。」
「え…?ここはどこ?」
自分でもびっくりするくらい間抜けな質問をしてしまう。
だって実際そうなのだ。
ここがどこか分からない。なんで家ではなく道端で寝ているんだろう?見渡してみるとそこは見たこともない森だった。
空気が澄んでいて清涼な風が吹いている。風で枝や葉が揺れるのが心地よい。ハイキングに来たら最高の立地だなぁと寝ぼけてる頭で考えていた。
「ここは翠緑の森だ。他の色に比べたら比較的平和だが、それでも外で寝ても安全なほどではないぞ?」
「すいりょく?……すみません、ここはどこの県なのでしょうか?私はここで寝てしまった経緯を覚えてないんです。」
男は不思議なものを見ているかの様な顔をする。
「けん?ってどこの地名だ?さすがの俺も細々とした地名は覚えていなくてね。」
都道府県くらい分かるでしょ!?
と突っ込みたくなってしまった。
私はこの時点で静かに混乱していた。
そもそも昨日家のベッドで寝た記憶がない。確か昨日は残業していて、終電に間に合わなくて、それで仕方なく仕事を続けていた……ような………
やばい!資料まだ途中なんだった!
「あの!」
「うぉ!?急にどうした!?」
突然立ち上がり近づいた私にびっくりしてしまったようだ。
申し訳ない気持ちになりながら話すことにした。
「私新宿で働いてるんです!ここから新宿って遠いですか?今日は会議があって、そのための資料を作っている途中だったんです。早く会社にもどらないと…。失礼を承知で申し上げます。どうか私を新宿まで送り届けてください!」
焦りからか早口で捲し立ててしまった。
男はポカンとしている。そうだよね、見ず知らずの女に急に新宿まで送れなんて言われたらそうなるよね。
それでも私は今日の会議に遅れるわけにはいかないのだ。幸いな事にまだ朝日は昇ったばかり。会社には遅刻しちゃうけど、夕方の会議には間に合うだろう。
男の返事を待つが、どうも何かを考えている様子。
「あー、送ってあげたいのは山々なんだけど、しんじゅくって場所俺は知らなくてね。」
「そうですか…」
思わず項垂れてしまう。だって、間に合わないと部長にどやされちゃう。怒鳴られる理由を作りたくないのだ。
「ごめんな。その代わり近くに街がある。そこでその“しんじゅく”って場所のこと聞いてみよう。」
「っ!!!ありがとうございます!!!」
そして私は男についていき、近くにあるという街へ向かった。