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ゴブリン課長 年頭のあいさつ

作者: jima

 一応のR15です。楽しんでいただけたら嬉しいです。

「えー、皆様あけましておめでとうございます。はい、あっ、ご唱和ありがとうございます。今年もよろしくお願いします。不肖私ゴブ川も魔界繁栄のため、もちろん人間軍ならびに勇者の撲滅に全力で取り組む所存です。また何かございましたら、どうぞご指導ご鞭撻を賜ればと思っております…とこんな感じでいいスか?」

 魔界の魔族軍新年会でゴブ川がなぜか『中間管理職代表のあいさつ』にアミダクジで当たり、一言述べた。魔族が『阿弥陀』くじってのもどうかと思うけどね。


 だいぶ出来上がっているオーク山部長代理が野次を飛ばす。

「おーい、何だ。つまらんな。何かもう少し面白いこと言えよ、ゴブ川」

 いやな奴だ、とゴブ川は思う。同期での出世頭だが、要するに腕力だけの脳筋野郎だ。

「ムハハハ、そうだな。ゴブ川くん、もう一言何か言いなさい。ムハムハ」

 リザード河原専務がオーク山の言葉に頷いて、ゴブ川を促した。何がムハハだ、とゴブ川は内心ムカついているが、もちろん顔はニコニコしている。ここで不機嫌な顔をしてクビを、ここでいう首とは物理的な首の方だが、その首を飛ばされた前例もあるのだ。いや、野蛮だけど、魔族だからねえ。仕方ないか。


「はい、はい。ありがとうございます。それではもう一言の声をいただきましたので、私個人の考えなど話させていただきます」

「よっ!いいぞ!最前線!」

 ゴブ川はさらに嫌な気分になった。確かにゴブリン部隊は最弱な戦力にも関わらず最前線で、しかも軽装備で放り出される傾向がある。これは魔族全体に占めるゴブリンの割合が97.4%を占めることに由来する。ゴブリン族唯一の、そして最強の特徴である繁殖力の高さが、常に魔界軍でゴブリン兵士の供給過剰を招いている。だからといって使い捨てのように消耗されるのではたまったものではない。

 とはいえ家族計画をするという概念のない平均14人子持ちのゴブリン族では扱いも雑になろうというものだ。


「えー、私がこんなことを言うのも何なのですが…」

 ゴブ川は気を取り直して、軍編成の効率化や命令系統の整備について述べ始めた。少しでも同胞の理不尽な戦死率を低くしようという彼なりの主張をしたのだが。

「何だ!ちっとも面白くないぞ、ゴブ川!ギャハハハハハ」

 遮るようにオーク山の声が聞こえ、ゴブ川は声を詰まらせる。

「あー、前回の遠征で得た利益をゴブリン部隊の装備補充と再編成に充てていただければと…」

 またオーク山の野次が飛ぶ。

「ゴブリンに装備なんて無駄だ!棍棒でも渡して、裸で突撃させりゃいいんだ。ギャハハ」


 さすがにカッとなってゴブ川が語気を強める。顔は笑顔のままという器用さだが。

「…前回オーク山部長代理の指揮下、全滅寸前になった部隊が助かって本当に良かったです。さすがオーク山さん、後方からのゴブリン部隊の到着をおわかりになっていたように大慌てで退却されて。いや、本当によかった。名指揮ですな。全滅を免れて。ハハハ」

 今度はオーク山が顔色を変えた。鼻をブヒブヒと鳴らしている。

「な、な、何を言っておるのだ。あれは予定通りの行動だ。いったん敵を陣地に引き入れて、敵軍を包囲殲滅する作戦だ」

「そうでしょうとも。半分兵を失ないましたけどね。ハハハ、その引き入れ作戦もゴブリン兵の武器があと少し強力だったらもっと簡単だったし、オーク部隊の損害も半分だったかもしれません。賢明だと自分だけは主張されるオーク山部長代理の作戦をさらに完璧にするために、装備の改善をお願いできれば…」


「ブヒーーーーッ!」

 オーク山が真っ赤になってゴブ川を睨んだ。しまったやりすぎたか、とゴブ川は少しだけ後悔する。とりなすように、リザード河原専務が「まあまあ」と割って入った。

「ゴブ川くん、面白いこと言えっていったでしょ。真面目なんだから!ムハハハ」

 うるせえ、ムハハとか気にくわねえ、と思いながらもゴブ川は相変わらず張り付いたような笑顔でリザード河原に頭を軽く下げた。


「いやあ、申し訳ない。つまらない魔族でして、ついつい堅い話になっちゃいまして面目ありません」

 まだオーク山はゴブ川をジトッとした目で睨んだままだ。

「えっとですね、昨年末私に7人目の子供、娘ができまして」

「まあ、素敵だわ。ホホホ」

 今まで興味なさそうにカクテルなど口につけていたエルフ崎社長室長が声をあげた。本日の出席者の中で唯一の女性であり、さらに社長の次に偉いということになる人物だ。

「ありがとうございます。これがまた可愛い。ホントにゴブリンかと思うくらいの美人でして」

 ワハハハハと笑い声があがり、多少は座が和んだ。…かと思うとまたオーク山が噛みつく。


「ブヒヒヒ、じゃあお前の子じゃないんじゃないか。ゴブリンなんて見境ないからな」

 話を止めたゴブ川が無言でオーク山を睨みつけ、座はシンとする。白けた空気を感じ取ったオーク山がおどけた笑いでごまかそうとする。

「ブヒッヒブヒヒヒ。ゴブリンがどんどん増えて結構。結構。また突撃部隊が増えるし。ブッヒヒ」

 顔色を蒼白にしたゴブ川がワナワナと震えていると、エルフ崎がオーク山を諫める。

「部長代理、お酒が過ぎたようですね。少し言葉を控えてください。ホホホホ」

「ブヒーーーッ!申し訳ありません!ちょっと子作りばっかりうまい最弱代表をからかっただけで…」


 ゴブ川がもう許せんと一歩踏み出そうとしたが、リザード河原が肩をつかむ。

「まあまあ。ムハ。これを一口だけ飲んで」

 リザード河原が差し出したショットグラスでなく、酒瓶の方をつかんだゴブ川は一気に飲み干す。

「あっ、それはそんな風に飲んだら」

 リザード河原が慌てたが、もう遅い。その酒は爬虫類種でなくては、ストレートで飲むのは不可能と言われるヘビ酒『琉球ドラゴン焼酎』であった。

「ゴブ川くん、ゴブ川くん。大丈夫かね?うん?」

 ゴブ川の動きがおかしい。まず今までどんなに野次を受けても顔に張り付いていたような笑顔が消え、完全な無表情になっている。顔色は真っ赤か…というとそうでなく蒼白、というより青みがかった緑色、ゴブリンだからね。そして、何より目が異様に据わっている。

「ひっ」

 リザード河原が後ずさった。ゴブ川の無表情とは裏腹に殺気に満ちた目がギラギラと光っている。



 マイクを握りしめたゴブ川が静かに話し始める。

「おい、そこのブー太郎」

 自分のことを言われたとは思わず、オーク山がキョロキョロと周りを見渡す。

「お前だ、ブタ。この前ゴブリン隊のお陰で全滅を免れた指揮官のお前だ」

「何を!」

 オーク山が声をあげると、ゴブ川が手に持っていたドラゴン焼酎の瓶を投げつけ、オーク山の額に見事命中し、割れて砕け散る。

「ブヒーーッ」

 眉間から血を流したオーク山がゴブ川に詰め寄り、つかみかかろうとする。十数人の社員が一斉にそれを抑えた。人数が多すぎるが、もともと嫌われているオーク山なので、何となくこの機会に憂さを晴らそうとする者もいる。寄ってたかって抑え込まれ、横から蹴りを入れられたり、軽い魔法で耳を焼かれたりしている。

「ギョエエエエエ。ブヒブヒ。やめろおっ!お前らどうなるかわかってんのかあ。ブヒ」

 だいたいにおいて魔界の構成はゴブリン97.4%であり、150人の新年会をやれば100人以上はゴブリンである。幹部はさすがに少ないが、やはり実質的に軍を構成しているのはゴブリンなのである。

ゴブリンに睨まれたら、生きてはいけない。


「き、君たち。やり過ぎだ。やり過ぎ。無礼講でも程があるから。ね、ね」

 リザード河原がオーク山をボコボコにしている一団に声を掛けるが、そのリザード河原の足をゴブ川が引っかけ、転がした。

「なんじゃい!トカゲ野郎が」

「えっ?な、何言ってるの、君。ぼ、僕は専務だよ、専務」

 ゴブ川はリザード河原の頭を思い切り蹴飛ばす。

「ギエッ」

「おめえなんか、おべっかがうまくて出世しただけじゃねえか。戦場出たのも1回か2回のくせにエラそうにしやがって。黒焼きにしてやるぞ、コンチクショー!」

 ゴブ川の言葉を待っていたかのように、またゴブリンの青年団がリザード河原を袋だたきにし始めた。

「前からこいつは気に食わなかった」

「エラそうなことばかり言ってな」

「課長の言うとおり、黒焼きにしちゃおうぜ」

 実は戦闘能力がほとんどないリザード河原専務が悲鳴をあげる。

「うわっ!やめろ。やめなさい!この平社員ども。次また特攻させるぞ、こら。あっやめて。やめて」


「ゴブ川さん、強いお酒のせいとはいえ、行き過ぎですわホホ」

 エルフ崎が立ち上がって、ゴブ川を窘めようとする。

 だが、ゴブ川はすでに誰の制止も聞き入れられる状態ではなくなっていた。

「おうおう、何だ、この耳長お水。お前こそ戦場に一度も行ってないのに、給料が一番多いってどういうことだ、コラ」

 そうだそうだ、いう周囲の声が湧き上がる。エルフ崎が真っ青になって社長のところにすがりつく。

「社長、謀反です。クーデターです。私犯されます。うん?あれ?」

 黙って見ていると思っていた社長はすでに一番外側の皮を残して、逃亡済みであった。いち早く危険を察し、外身だけ残し逃げ去ったらしい。こういう時、やはり金持ちはケンカをしないのだ。

 エルフ崎の手で社長の抜け殻がクシャリと潰れ、エルフ崎は青くなる。周囲を目をギラつかせた繁殖力の旺盛なゴブリンが取り囲む。








 うっと声を上げ、ゴブ川が目を醒ました。

「課長、大丈夫ですか。とんでもなく強い酒飲んでぶっ倒れたんですよ」

 部下のゴブ田やゴブ野に介抱され、ゴブ川が上半身を起こした。頭痛がするが、意識ははっきりしている。

「新年早々、夢オチってことか…。うん?ここはまだ新年会の会場?」

 周囲を見るとオーク山はチラチラとこっちを見て、それから慌てて目を伏せた。殴られたように目と豚鼻が腫れていて、耳も何か焦げている。

 リザード河原の姿は…と捜すと会場の隅で倒れている。よく見ると下半身が黒コゲである。リザードは復元力が強いので大丈夫だろうが、それでも意識不明の重症である。

 恐る恐るエルフ崎は、と見ると平然とカクテルを飲んでいた。ゴブ川と目が合うと、艶然とした目線でニヤリと笑いかけ、舌なめずりをした。ちょっと浴衣が着崩れているか。ゴブ川の背筋が寒くなる。

 最後に社長…魔王様はというと、これまた平然と日本酒をあおっている。魔王軍が日本酒というのは設定としていいのかどうかは論を別にする。


 さて、ゴブ川は全身に嫌な汗をかきながら、様々な思いを巡らせる。いったい何があったのか。いや、なかったのか。本当にただ強い酒を飲んで倒れただけなのか。周囲は何か隠していないか。この後の待遇はどうなるのか。ヤバいのかヤバくないのか。もう一度吐くのか吐かないのか。いやまだ吐いてないか。





 さて、読者諸氏。この話はこれで終わりだ。何かがあったのかなかったのか、この後ゴブ川の運命はどうなるのか、作者は今年どうすればいいのか、正解はご想像にお任せする。

 ただただ結論は『真面目な人ほど怒らせるとヤバいぞ』ということだ。真面目な読者の方、許してください。




今年も頑張ろうと思って書き始めましたが、そういう決意を感じさせない作品となりました。

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