式神少女の華麗なる(?)モーニングルーティン
退魔の名門である古河家に忠実に仕える式神である篝の朝は早い。大抵の場合朝のパトロールに出かけるためだが、今日は古河家の本邸に主人である遊聖ともども呼ばれているので朝のパトロールはお休みだ。しかし、すっかり篝は早起きが習慣になっていた。古河家の本邸でも篝はぱっちりと目が覚めた。そしてここが古河家の屋敷だと気づいた。
「そうだ……ここは主の部屋ではありませんでした」
犬耳少女は布団に潜り二度寝をすることにした。今日は休日だ。二度寝ぐらいは大目に見てくれるだろう篝は思った。
「遊聖! 踏み込みが甘いわ!」
「クソジジイ! 稽古でムキになるなんてちょっと大人気ないぞ!」
「ワシは生涯現役じゃ! 若者にはまだまだ負けん!」
遊聖と泰道の朝稽古の騒がしさで篝の眠気はすっかり消えてしまった。ここ最近の泰道と遊聖はずっとこんな調子だった。
篝はむっくりと布団から出て裏庭の菜園のほうに行くことにした。
古河家の屋敷の裏庭には遊聖の母、古河恵那の趣味で作られた小さな家庭菜園が整備してある。そこには篝と同じ式神が何かしらいるだろうと篝は踏んだのだった。勝手知ったる古河屋敷、篝は迷いなく裏庭に出た。
「あら〜、篝ちゃんったら早起きね〜。今日は休日なんだからゆっくりすればいいのに〜」
「主とご当主様の稽古の声が屋敷の寝室まで響いて目が醒めたのです」
「にゃはは〜、最近のご当主様はいつにもまして張り切っているからね〜。年寄りの冷や水にならなきゃいいけど〜」
間延びした口調てで篝を出迎えるのは、恵那を主とする猫耳の式神少女、水面だ。水面は篝より少しお姉さんなので篝にいつも優しくしてくれた。
「……まったく困ったものです」
篝は思わず苦笑いした。
水面と篝はジョウロで家庭菜園の作物に水やりをし終えたあと水面と別れて屋敷の部屋にも取ろうと思ったが突然のアイデアがひらめいた。
「古河屋敷にはまたハーゲンダッツが残っていたはず……今ならハーゲンダッツを独占できるはずてす」
善は急げと篝は台所に向かった。篝は遊聖が千年妖狐葛葉姫の転生体の少女を警護する日々の中で舌が肥えつつあった。もはや駄菓子屋のアイスなどより高級アイスクリームの王様こと、ハーゲンダッツのことひか考えられなかった。 篝は古い屋敷特有の薄暗い廊下を駆けていった!
「廊下を音を立てて走るな!」
不意に叫び声が聞こえてきて、篝は足をもつれさせて転んででしまった。
「まったく……ドタバタと音がすると思ったら遊聖のところの犬っころじゃないか。休日の朝から騒々しい」
面倒くさそうな表情で見つめる20代後半絡みの目つきの悪い男は遊聖の従兄弟だ。名前は古河衛、退魔師としての実力は低いが魔道具を作成するのが得意としていた。彼もまた古河家の本邸に呼ばれてたらしい。
「衛様、お目覚めのところすいませんが、私は急ぎの用がありますので失礼します」
篝は軽い会釈をして台所に再び向かおうとしていた。
「待て、お前が廊下をうろちょろしてたら眠れなくてかなわん。こいつでも食べて大人しくしていろ」
衛はそう言って篝にガリガリ君を投げ渡した。篝がガリガリ君をナイスキャッチすると衛は部屋の奥に引っ込んでいった。
「ガリガリ君をあげるからハーゲンダッツは諦めろですか……仕方がありませんね」
篝はハーゲンダッツを諦めガリガリくんを持って縁側に出た。空はもう明るくなっていた。篝は縁側に座りゆっくりとガリガリ君を食べた。もうすぐ遊聖と泰道が朝稽古を終える頃合いだろう。