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第39話 花嫁

 ベルゴールとエイミーの姿はどこかの部屋に現れる。外からはシーンの泣き叫ぶ声が聞こえる。だが遠い。

 おそらくここは、ベルゴールの大きな屋敷とはまた別な場所なのであろうとエイミーは察した。

 そして、もしもシーンが迫ってきたのなら、この瞬間移動の術で逃げてしまうつもりなのだと分かった。


「ふーん。で? どうするつもりなの?」


 普通の女ならガタガタ震えるところなのに、この女は怯えない。普通の貴族ではないとベルゴールは驚いた。


「ふん。お前といい、さっきの怪力の力士といい、さっぱり怯えず変な連中だ」

「変なのはあなたよ」


「こいつ……。だがそうしていられるのも今のうちだ。すぐに泣いて詫びてくる」

「そうなるのもあなただわ」


 ベルゴールは鼻で笑い、鈴を鳴らすとたちまち侍女が四人現れた。


「大王さま。お呼びですか?」

「そうだ。新しく妻を迎えた。すぐに初夜にする。彼女の服を脱がせてやってくれ」


「はい」


 そういうと、侍女たちはエイミーを囲んで立つように言うと、エイミーは素直に立った。

 しかし侍女たちはなにやら悪戦苦闘し始め、ベルゴールに進言する。


「だ、大王さま。服が脱げません!」

「なんだと?」


 ベルゴールはエイミーに近付いて、胸のあいたドレスのそこを掴む。そして思い切り下へと引き裂こうとしたがびくともしなかった。

 侍女たちはなにかを感じて恐れて逃げ出す。ベルゴールは間抜けな声を上げた。


「な、なんだあ?」


 エイミーと二人きりである。しかしベルゴールは後ずさる。五万の兵士を相手にしたベルゴールは少女を前に後ずさったのだ。


「ふふふ。お前の術。あれはね、メルボルン山を囲む樹海に住まう、エルフのために私の夫が書いたものなのだよ」

「は? あの子供のようなヤツがだと?」


「森を守るエルフの術。それを長年の研究の末に解読したのだろう? お前たちの祖先は独自の宗教を立ち上げ、民衆を外界から遮断して、エルフの言葉だけの土地とし、助けを求められないようにした。そして奴隷とした」

「う。お前は何者だ?」


 エイミーはクスリと笑った。


「名高い魔術師ならば、見れば分かるのでは? 表面しか分からないからあなたは敗北したのだわ」

「なんだと?」


 ベルゴールはじっとエイミーを見つめた。しかし分からない。普通の少女のままだ。

 今度は首を横に傾けて見てみたが変わらない。

 もう一度首を縦に直し、徐々に顔を近付けていく。エイミーはそれをまばたきもせずに微笑みながら見ていた。


「ぎゃ! ぎゃあああああーー!!」

「ふふふふ」


 ベルゴールは大慌てで部屋から逃げ出していった。エイミーは小袋を出して、中から例の紫色の魔人を摘まみ出すと、それは大きな魔人の姿になった。


「さ。さっさと神書を探して山にお帰り」

『はい。ハジャナさま』


 紫色の魔人はなんなく石で出来た神書を見つけ、大事そうに抱くとエイミーに一礼して風のように消えてしまった。





 ベルゴールは、林の中から飛び出た。この林の中に蔦に隠れた屋敷があるのをシーンの一隊は誰も見つけることができなかったが、ベルゴール自らの登場にそれが分かった。


「お助けえ!」


 ベルゴールの叫び声に気付いたシーンは、その襟首を掴んで地面に引き倒し、有無も言わさず喉頚を踏みつけてしまうと、その首は二、三メートルも吹っ飛び、首からは血潮が吹き出た。

 シーンは鬼気迫る表情でそれを眺め、残った胴体も細剣で切り刻んで木の上に飛ばして鳥のエサになるのに任せた。

 一同、声を無くして見つめていたが、やがてそれが大きな歓声に変わる。

 だがシーンはそんなこと構わずに叫んだ。


「エイミー!!」


 シーンが呼ぶと、エイミーはひょっこりと林の中から顔を出した。


「はい。シーンさま」


 その声にシーンはいつもの顔に戻って喜んで抱き締めた。


「ああエイミー! どうなることかと思ったよ。無事でよかった!」

「シーンさまのお陰よ。それに神書も見つけたから、魔人に渡したわ」


「そうか、それは良かった!」


 二人はいつものように笑うと、周りもそれにあわせて笑い出す。


 しかしチャーリーだけは、なぜベルゴールが屋敷から飛び出してきたのか、エイミーが無事だったのかを疑問に思った。





 シーンは住民たちに、ベルゴールたち支配者の屋敷や宝物は勝手に持っていっていいというと、住人たちは喜んで屋敷の中に入っていって、そのうちにギリアムを見つけてシーンの元に連れてきた。

 ギリアムは、この軍部では見ない人物の名前を聞いた。


「そなたがベルゴールを? 私の兵士かな? たった一人しか残らなかったのか? 所属と名前は?」


 ギリアムは自分が捕まった後の事は知らない。自分の五万いた配下がなんとか救助に来てくれたのかと思って聞いた。それにシーンはにこやかに答える。


「おおう、殿下。私はグラムーンと申します。シーン・グラムーンです。所属と地位は都の城塞副司令で、ここには別件で使用人含めて十名ほどで来ましたが、ベルゴールが我が領民を苦しめていた上に、無礼を働いたので討ち取りました」

「は!? シーン・グラムーンだと!!?」


「はい。こっちの美しいのが私の妻のエイミーです。殿下が欲しいと言われてもこの妻は譲れません」


 と聞かれてもいないのにエイミーを紹介して抱きついた。エイミーは照れたように返す。


「まあ、シーンさまったらぁ。殿下の前ですのに恥ずかしいわ」

「なあに。構いやしないさ」


 ギリアムは二人のイチャイチャの毒気を受けてしばらく呆然としていたが、ようやく意識をとりもどした。

 シーンはギリアムに進言する。


「殿下。どうです。しばらく我が領地の屋敷へご逗留なすっては。大した歓待も出来ませんが、私と妻の楽器演奏をご披露したいです」


 チャーリーは思わず吹き出した。あんな下手くそなやっためたらに打ち鳴らすだけのを殿下に聞かせるつもりなのかと苦笑した。

 それにギリアムはため息をつく。


「……ああ。英雄の奏でる音楽を聴きたいところではあるが、早々に王宮に帰り、ことの顛末を陛下に申し上げたい」

「ああそれなら、この賊の首も持っていってください」


 と、ベルゴール含め24の首を荷車に詰め込んだものを指差すがギリアムは首を横に振った。


「いいや。独り旅だし荷物になるからな。それはそなたが国王陛下に手柄として報告したまえ」


 シーンはそんなことをしたら領地で楽しい暮らしが出来なくなると都には行く気がないという顔をしていたのでチャーリーが代わりに答えた。


「ああ殿下。私がご主君に申し上げて必ず首は都にお届けいたします」

「そうしたまえ。陛下は莫大な恩賞をくださるだろう」


 ギリアムはまたもやため息をついて、都に出るための馬と、街道への道を聞くと、チャーリーはベルゴールの厩戸(うまや)から駿馬を引き出し、位置から察した街道への道を指差すと、ギリアムは馬を駆ってさっさと行ってしまった。




 やがてギリアムは街道に出て一息。今来た道を振り返って呟く。


「あれがシーン・グラムーン。まさに英傑とはああいうのをいうのだろう。悪心も欲もない。サンドラが惚れたのも頷ける。私も男ながら引き込まれるようだった。ただ一心に妻を愛しているようで、感心したよ」


 ギリアムは馬首を都へと向けて、鞭を振るった。




 シーンはもう帰りたいようであくびをしていた。チャーリーはベルゴールの屋敷から荷車を引っ張り出して、ベルゴール一味の首を入れた。

 シーンに心服してついてきたいというラリーにそれを引かせることにし、シーン一行は屋敷へと凱旋していった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エイミーが無事でよかった。さすがエイミー。シーンも大活躍。ギリアムも男だなぁ。ちゃんとシーンを認めてる。楽しんでます。
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