表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第六章 金の海域

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/82

白虎、邂逅-6

 白衣の人間を連れて船に戻ったことに、メイズが何も説明せずとも、甲板は一気に沸き立った。その様子を、ハリソンは微笑んで見ている。


「船長さんは慕われていますね」

「……ああ」


 この船が団として成り立っているのは、奏澄がいるからだ。彼女が楔となっている。そうでなければ、集まることの無かった者たちだ。そして何より海賊として異質なのは、乗組員のほとんどは()()()()()()()()()()()()、ということだ。居場所の無いはみ出し者の寄せ集めではない。帰る場所があっても、各々の意志によってこの船に留まっている。それがどれほどのことなのか、おそらく彼女に自覚は無い。


「ハリソン先生!?」


 驚いた声にメイズたちが目を向けると、人を掻き分けて来るレオナルドが見えた。

 彼の姿を認めると、ハリソンは目を瞠った。


「君は……」


 ただならぬ空気に、二人の間に何かあることは悟ったが、メイズは気が急いていた。一刻も早く奏澄の元へハリソンを連れて行きたいのに。


「レオ、話は後にしてくれ」

「いや、ハリソン先生なら、先に言っておいた方がいい。先生なら、わかるはずだ」


 何を、というメイズの疑問を聞かずに、焦った様子でレオナルドはハリソンに告げた。


「先生、カスミは、母さんと()()なんだ。この世界の、人間じゃない」


 いきなり奏澄の情報を明かしたレオナルドに、メイズはぎょっとした。しかし、直後にひっかかりを覚え、眉を寄せた。


 ――母さんと、同じ?


 レオナルドの母と言えば、奏澄と同じ世界から来たというサクラのことだろう。彼女はヴェネリーアで流行り病に罹り、薬が効かずに亡くなった。

 ハリソンは、レオナルドの言葉に驚いてはいたが、疑いの様子は見せなかった。普通、異世界の人間だ、などと言われたら戸惑う。つまりハリソンは、異世界の人間が存在することを知っている。


「そうか……やはり君は、サクラさんの……」


 囁くような声で呟いて、ハリソンはレオナルドを見据えた。


「わかりました。後で詳しく話しましょう。君は、船長さんに決して近づかないように」

「――……わかってる」


 ぐ、っとレオナルドは拳を握りしめた。元々男性陣は見舞いを禁止されていたが、レオナルドは特に接近禁止を言い渡されていた。理由は、彼がサクラの血を引いているからだ。半分は異世界の人間の血であることを考えると、サクラの体質も受け継いでいる可能性がある。


「先生。カスミを、船長を頼む」


 頭を下げるレオナルドに、ハリソンは心なしか苦しそうな顔をしながらも、しっかりと答えた。


「全力を尽くします」


 彼が医者であるからか、それともサクラの件があるからか。絶対に助かる、と言わないあたり、ハリソンは正しい。正しいが、メイズは不安に駆られた。彼でも治せなければ、後がない。しかしそれはハリソンのせいではない。頼みこんで、やっと来てもらえたのだ。ここで信頼を失うようなことはできない。メイズは大きく息を吐いて気持ちを落ちつけた。




 説明のためマリーを伴い、メイズはハリソンとアニクを奏澄の部屋へ案内した。

 マリーがノックして、部屋の中へ声をかける。看護のために中にいたローズは、ドアを開けハリソンの姿を目にすると、ほっとしたように顔を緩めた。


「船長を、よろしくお願いします」


 頭を下げて、ローズはマリーと交代した。


「では診察しますので、メイズさんとアニクは廊下で待っていてください。マリーさんは、伺いたいことがあるので中で」


 マリーとハリソンが部屋の中へ入ると、メイズは壁に体を預け、落ちつかないように腕を組んだ。

 険しい顔のメイズに、アニクは暫くの間気まずそうに黙っていたが、沈黙に耐えられなかったのか口を開いた。


「ちらっと見えたけど、思った以上にちっこかったな。あれいくつ?」


 メイズがじろりと睨みつけると、アニクは口を尖らせた。


「怒んなよ。気が立ってるのはわかるけどよ、ずっとその調子じゃ気疲れするだろ。雑談くらいした方が気が紛れるって」


 別に気を紛らわせる必要は無いが、白虎の幹部を邪険にする理由も無い。今の自分に余裕が無い自覚はあるので、メイズは渋々会話に付き合った。


「……正確な年齢は聞いていないが、二十代らしいぞ」

「うっそ、マジか。悪い、ロリコンだと思ってた」


 今度こそメイズはアニクに対する苛立ちから睨みつけた。アニクは慌てて取り繕った。


「いやまぁ、別にいくつでも関係ないよな! うん! 揃いの指輪を贈るくらいだもんな!」

「別に、俺が指輪にしたわけじゃ」

「え? なに、指輪欲しがったのは船長の方なの?」

「……どちらかと言えば、そうなるな」


 ペアリングの提案をしたのはレオナルドだが、それがいいと言ったのは奏澄だ。最初から指輪をねだられたわけではないが、メイズと奏澄のどちらが欲しがったか、と言えば奏澄になるだろう。


「いーねー愛されてんねー」


 アニクの言葉に、メイズは耳を疑った。呆けたようなメイズに、アニクは怪訝そうに首を傾げた。アニクが口を開こうとすると、奏澄の部屋のドアが開き、ハリソンが顔を出した。


「ひとまずの処置は終わりましたので、部屋へどうぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ