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【完結】私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第二章 赤の海域

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アルメイシャ島-3

 宿屋の部屋の前で、奏澄は軽く深呼吸をした。ライアーは少し後ろでそれを見ている。震えそうになる手を握りしめて、ドアを数回ノックした。


「奏澄です。メイズ、戻ってますか?」


 言い切らない内に、内開きのドアが勢いよく開いた。

 ひどく焦ったようなメイズの顔を見て、奏澄の胸がずきりと痛んだ。


「……無事だったか」

「ご心配を、おかけしました」


 長く息を吐くメイズを見て、今更ながら自分勝手な行動に罪悪感が募った。


「その話は後だ。後ろの男は、誰だ」

「あ、そうです。紹介しますね。彼はライアー、航海士だそうです。ライアー、この人が仲間のメイズです」


 互いを紹介すると、ライアーが呆けたような顔でメイズを見ていた。


「ライアー?」


 不思議に思って奏澄が声をかけると、ライアーはぎぎぎ、と音がしそうな固い動きで奏澄を見た。


「男じゃん!?」

「え? あ、うん、そうだけど……言ってなかったっけ?」

「聞いてない! 二人きりで旅してるって言うから、てっきり女の子かと……」


 そこまで言って、ライアーは急に何かに気づいたようにはっとした。


「待って、じゃぁ喧嘩って要するに痴話喧嘩!? オレ今から痴話喧嘩に巻き込まれるの!?」

「カスミ、そいつ黙らせろ」

「ライアー、とりあえず落ちついて?」


 何をどう勘違いしたのかはわからないが、ドア前で騒いでいたら不審なので、ひとまずライアーを部屋に引き入れ、メイズに事情を説明した。


「随分若いが、海図は書けるのか?」

「もちろん! 今数枚持ってるんで、見せましょうか?」


 メイズはライアーから海図を受け取り、ざっと目を通す。なんだか面接でも見ているかのような気分で、奏澄は自分のことのように緊張していた。


「顔に似合わず繊細な海図を書くんだな」

「ひっでぇ!」


 大げさにショックを受けて見せるライアーだが、メイズは意に介した様子はない。しかし、この評価なら問題無いということだろう。奏澄はほっと胸を撫で下ろした。


「こちらとしては、航海士の加入は願ってもない。だが、見ての通りまだ船団としては――何だ?」

「いや……オレどっかでアンタの顔見たことがあるような」


 じっとメイズの顔を見ていたライアーは、記憶を辿るようにこめかみに指を当て唸った。


「男の顔はあんまり覚えないんだけど、確かにどこかで――」


 言いながらメイズの腰元に目をやって、あっと声を上げた。


「そっか銃が違うから気づかなかった! メイズって黒弦の……ッ」


 びり、と空気が震えた気がした。ライアーも気圧され、言葉を飲み込む。初めて出会った頃のような威圧感に、奏澄は知らず固唾を呑んだ。


「そうだ。()()メイズだ。知っているなら話が早い」

「な……なんで、こんなとこで、こんな女の子と」


 事情は飲み込めないが、メイズが糾弾される気配を察して、奏澄が口を挟んだ。


「メイズは、私の護衛をしてくれてるの。私が、海に出たいって頼んだんだよ」

「カスミは、コイツがどんな海賊だったか、知ってるのか?」

「昔のことは……知らない。でも、指名手配されてるって聞いたから、あんまり良くないことしたのかなとは、思ってる」

「だったら」

「それでもいいの」


 ライアーの言葉を、強い口調で遮った。


「いいの。メイズが何者でも、どんなことをしていても。それでも傍にいてほしいって、私が願ったの」


 真剣な表情で言い切る奏澄に、ライアーは呆気にとられたように息を漏らした。メイズまでもが驚いた表情で自分を見ていることに気づき、奏澄は急に恥ずかしくなって俯いた。


「……オレ、今のろけられた?」

「ち、ちがう、ちがうから」

「ほんと? なんかダシにされた気がするんだけど」

「ちがうちがうちがう」


 焦って否定する奏澄に、ライアーはわざとらしく唸って見せた後、一つ手を叩いた。


「よっし! まぁ人生色々、海賊も色々。カスミがこんだけ信じてるんだから、悪いお人じゃないんだろ。噂を聞いただけで、オレも会うのは初めてだしね」

「その噂は、多分真実だぞ」

「だったら尚更、二人きりにはしておけないし? オレも同行させてもらいますよ」

「いいんだな」

「男に二言は無い! ってことで、よろしく頼みますよ、メイズ()()


 にっと笑って手を差し出すライアーに、溜息一つ吐いて、メイズは握手に応じた。


「んじゃさっそく次の話にうつりましょう。人手を探してるってことで、オレが懇意にしてる商会があるんです。そこに声をかけてみようかと思うんですが、どうです?」

「商会か。協力を得られるなら、資金周りでも心強いな」

「へぇ……資金面とか、気にするんだ」


 じろり、とメイズに睨まれ、ライアーは軽く肩をすくめた。見ていた奏澄は少しはらはらしたが、おそらくジョークの範囲内なのだろう。


「ねぇ、その商会って、ギルドには」

「入ってないよ。入ってたら紹介できるわけないしね。アルメイシャを拠点にしちゃいるけど、販売より仕入れがメインで、結構遠方まで買い付けに行ったりするから、長期の航海でも条件が合えば来るだろ」

「今は島にいるのか」

「タイミングよく戻ってきたところなんですよ。でもまたすぐどっか行っちゃうかもしれないんで、会いに行くなら早い方がいいですね」

「わかった。案内を頼めるか」

「了解っす」

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