御灯明(みあかし)の雪道
これはある雪の夜、7歳だった双子兄妹の、ちょっと不思議な出来事である。
「よし、出かける準備だ!いいとこ連れてってやるからついてきて」
「ふぇ……こんな時間出かけるとママに怒られるよ……」
「大丈夫だ!今日は父さんも母さんも留守だ!バレなきゃいいだろ!?」
そう言った兄は、おどおどしている妹を引っ張って、家を出た。ずっと降っていた雪が止み、黒く染まった空とコントラストをなし、街は白く染まっていた。程なく、ある階段の前に着いた。
「着いたぞ」
「ここって……わぁ……!」周りを確認しようと階段の方に目を向けた瞬間、あまりにも綺麗な景色に、少女は言葉を失った。
目の前にあったのは、神社へ続く階段だった。その階段も、両側の灯籠も、木々も、雪の薄く積もった、子供にとってあまりにも幻想的な世界だった。
「きれいだろう?この前見つけたんだ」兄は自慢気な顔をして言う、「登ろう!上はもっときれいだぞ」
「うん!」
こうして、兄は妹の手を引いて、二人は階段を登り始めた。
その時だった。急に強い風が吹き、二人は思わず目を瞑った。目を開いたら、風が連れてきたのは――
「桜の、花びら……?」
いつの間に、周りの景色が変わり、すっかり春になった。
「おい、あれ、父さんと母さんじゃない?」兄の指した方向に目をやると、二人のカップルがいた。
「でも、なんか違う……」妹は、その姿が今よりもだいぶ若かったことに気付いたらしい。
「き、君のことが好きだ!付き合ってくださいっ……!」
桜の木の下で、制服姿の男が、同じ制服姿の女に告白した。
「お兄ちゃん!これって……」それを目にした妹は思わず声をあげた。
「シー!隠れ……あれ?」
話の途中、周りの景色がまた変わった。そして、次々と変わっていく。まるで、二人の思い出を見せるかのように。
「ほら、あと少しだ。頑張って」
階段の上、青年は隣の女性に手を伸ばした。女性のお腹には、新たな命が宿っているようだ。二人は手を取りながら参拝に行こうとしている。兄妹二人は階段のずっと下で見守っていたが、何故か、青年二人の声が耳に届いている。
「元気な子に育ちますように」
その声のあと、残ったのは風の囁きだけだった。
しばしの沈黙。それを破ったのは妹だった。
「お兄ちゃん、帰ろう」
「うん」
「ただいまー。二人共、いい子にしてた?」翌朝、兄妹の親が帰ってきた。
「おかえり!」それを待ち構えていたかのように、二人はニヤニヤして玄関に迎えに来た。
「どうしたの?ニヤニヤして」
「何でもなーい!」
二人は顔を見合わせて意味ありげに笑い、はしゃぎながら親と共にリビングに入った。