3.王道の焼きそばパンでは無い!
「アケミ、次の獲物はどこぉ?」
ひひひと笑いながら私は箸を舐め上げた。ナイフだったら完璧だけど切れたら危ないもんね!
「カナちゃん! この下の購買部で反応があるわ!! ナツミ君出現フラグよ!!」
「そうか! 今はランチタイム! ナツミ君は購買でパンを買うのね!!!」
お母さんの作ってくれたお弁当を口の中にかき込んで立ち上がる。
私は頭を回して足を踏み出し見得を切った。
「やったるわおるぁ!!!」
そのままクラウチングスタートの構えを取る!
「ちょちょちょ、待って待って! 君らさっきから何してんの」
何かラメが喋ってるけど無視無視!
「カナちゃん! ナツミ君の好きなパンはマスタードたっぷりホットドッグよ! 売り切れる前に早く!!」
「了解おるあああああああ!!!」
私は学校の屋上から飛び降りたぁ!!
「ええええええええええ!!!!」
ラメが慌てて付いてくるけど無視無視! “全国選抜高校テニス大会出場”垂れ幕を掴みビビビィ!! って音を響かせながら破り落ちる!
びゃあああああ!! と幕が裂けようが私に関係ない!! テニス部ありがとう! お陰で私は元気ですぅ!!
垂れ幕が破れる抵抗によって私は派手な音をかき鳴らし安全に校庭へ降りることができた。
四つん這いの姿勢から膝についた砂を払い、ガッツポーズで歩き出す。アメコミヒーローみたい!
「ジェイ、垂れ幕直しておいて」
「ええええええええええ!!!!」
えーじゃないよ万物操る超常生物のクセに。6兆円受け取ってほしいなら大人しく言うことを聞け!
「何でこいつこんなに偉そうなの……」
ラメが何か呟いてるけど無視無視!
「あんな派手なことしたけど誰も気付いてないとかウケる」
「僕のお陰だからね!?」
何だ、一応協力してくれてるのか。少し見直したわ。
「おーばちゃん! マスタードたっぷりホットドッグくーださい!」
手でハートマークを作りながらねだるとニッコニコ笑顔で手渡してくれた。
「はい、最後の一個。120円だよ」
「ありがとーう!」
幸運にもラスイチ! 今日は良いことあるかもね! あり? ポケットに入れておいたスマホに着信が。
『カナちゃん! ナツミ君がくるよ! アイツ走ってる!!』
「え! どこ!? どっちから!? アケミ教えてえええええ!!!」
『体育館からだあああああああ!!!』
私は急いで振り返った! わお!! 汗だくつゆだくイケメンが体操服でこっちに駆けてくるぅ!!
待て、落ち着け私。この手にはヤツの大好物、マスタードたっぷりホットドッグがある。こっからどうアプローチしようかな? なーんも考えてなかったわ。
唇に人差し指を置いて考えてると、ラメが購買部の看板陰でカメラを構えていた。げ、またかよ。
「カナちゃん、今度はちょっとケンカしてみよっか! 原因は何でもいいけど、ケンカで始まった出会いが二人の距離を縮めていくんだ」
わっけわっかんねー! でもよし任せろ。要はケンカを売れば良いってことね!!
私は腕と指先に全神経を集中させる。伊達に私のお父さんは六甲おろしを歌っていない。覚え込まされた投球フォームは完璧だ。
「ピッチャー、カナ。振りかぶってぇ――――投げましたぁ!!!!!」
身体全体を弓なりに、体重をかけて投げる!!! 無回転で飛んでいくそれは栄光のホットドッグだあああああああ!!!
ズボァ!!! っという音を立ててナツミ君の口にそれが刺さった。あ、やべ、フィルム剥いてないや。
「オバァっ!!!?」
おばちゃんって言いかけたのかな?
「やだー! 私のパンが!」
わざとらしいくらい内股でにゃんにゃんとナツメ君に駆け寄る。うわあ、汗とかヨダレとか、もうめっちゃめちゃじゃん。
「おえ! ほぇ! おご! ごほ!!」
変わった咳してるね。病院行っとく?
「お、おまえぇ!! 何のつもりだ!!」
やだすっごい怒ってる。顔真っ赤じゃん! 女の子にモテないよ? いや、モテてるんだけどさ。
「ご、ごめん。転んだ弾みで飛んでっちゃって……」
拳で頭をコッツンこ。舌を出してペロペロしてみる。あ、しまった! ケンカしなきゃ!
「それ最後の一個なんだから! ヤメてよ! もう食べれなくなっちゃったじゃん! バカ野郎!!」
もう見事な逆ギレである。逆ギレ大賞受賞狙ってるんだ。
「あ〜、いいよいいよー! もうちょっと顔近づけられるかなー?」
ラメがなんか言ってる。これ以上近付いたら鼻に噛みつきますけど?
「もう食えねーっていうんならオレが貰ってやるよ! 120円はここにある。バカはお前だバカ女!」
去りながら投げて寄越した小銭は3方向に散らばった。私はそれを無駄に前転しながらキャッチする、売られたケンカは買わなくちゃね。
「女にモテるからって調子に乗るな!! 小銭投げて渡すサイテー野郎!」
何でこんなやつを落とさにゃならん! お金は大事に!
「2組のアオイカナ。今日のことは根に持っておいてやる」
人を指差すな! 汗臭いぞ!
「それはこっちの台詞だ! 3組ヒガシカリヤナツミぃ!」
何をあんなに急いでるんだ? 急いで校内に戻ろうとする背中を見つめて考えた。っていうか何で私のことを知っている。
やだ、怖い!
「はぁ、はぁ。カナちゃん、そりゃ運動部には存在知られてるよ」
正規ルートで降りてきたらしいアケミはちょっとだけ息を切らしてやってきた。そんなアケミも可愛いよ! でも。ん??
「なんでぇ?」
「カナちゃん運動神経抜群でたまにピンチヒッターやってたじゃん」
「あ、そっかー」
わっはっはぁ! と二人で声を出して笑う。
「うーん、良いスチルは撮れたけどコイツは面白くなってきたなぁ」
ラメが何か言ってる。いつもなら無視するけど何か引っかかった。
「ジェイ、何が面白いの?」
「アケミちゃんも既にデータ更新されてるから分かってると思うけど、ナツミ君、既にカナちゃんのこと好きになりかけてるよ」
へ?
「ええええええええええええ!!??」
アケミは手元のスマホをイジってたと思ったら呟いた。
「うわ、まじだよカナちゃん!」
見せられた画面でナツミ君のハートマークがピコピコ点滅してる。点滅早いと好感度高いってこと?? こんな脈動してたら普通死ぬよ??
「好感度調整が難しくなっちゃったねぇ、世界滅亡回避は4人同時攻略だから」
嘘でしょ? このままナツミ君の好感度だけ上がっていったら……、私たちの7兆円がパァ??
「嘘でしょおおおおおおおお!!?」
青空に向かって私は叫んだ! ちくしょー! 勝手に惚れてんじゃねー!! 購買部のおばちゃんがこっちめっちゃ見てた。
勝手に好感度上がってるあるある。