2.出会いって言ったら食パンだよね
「だっしゃおるぁ!! ばっちこいおるあああああああ!!」
朝目覚めた私は制服を着て気合を入れる。四股を踏んで大地の実りを願った。なんで?
「なんでだろうねぇ、本当にカナちゃんは面白いなぁ」
「ふわ!!!」
ジェイの声はするけど見回しても姿は見えない。何これ! 怖い!
「あ、ほら。ここね? 他の人に見えないようにキラキラ光ってるこの粒子が僕ね?」
確かに目の前でなんかラメが宙に浮いてる。え、怖い。これ吸い込んだら私死にそう。
「僕、ある程度君の思考読めるからね?」
え、何こいつヤバくない?
「カナ〜!! アケミちゃんが来てるわよ〜! 早く学校行きなさーい!!」
そんなこと考えてたら階段下からお母さんの怒声が聞こえる! やばば! 食パン咥えて走らなきゃ!!
「カバン持った、スマホ持った、髪型バッチリ今日も私かわいー!!!」
勢いよくドアをぶち開けて階段を駆け下りる! お母さんナイスパス食パン! アケミとハイタッチして玄関を飛び出た!!
陸上競技選手みたいに片足で踏み出して両足で着地する。砂ぼこりなんて気にしてられねぇよペッペッ!!
口に食パンを咥えて準備完了だ。
「カナちゃん、この先の十字路、後2分後にアキラ君が来るよ」
アケミはジェイから何かの力を授かったらしい。血液型に身長体重誕生日、好きなもの嫌いなもの趣味に部活にその他もろもろわかっちゃうぅ! 流石私の親友。伊達メガネクイクイ、もう神じゃん。
「やってやるわぁ、待ってろ3兆。私が必ず救ってみせる」
際限ねぇなコイツってラメが喋った気がするけど無視無視!
クラウチングスタートの構えを取る。スカートからチラ見えしても良いように黒スパッツも履いておいた。校則で禁止? 金のためなら仕方ないね。
伊達メガネクイクイアケミが目を見開いた!
「カナちゃん!! ゴォー!!!」
「ふわあああああああ!! 遅刻ひこくぅうううううう!!!」
絶叫しながらパンを落とさないようフガフガと駆ける!! 私このシーンお母さんの漫画で見たことある! 頭ごっつんこ大作戦じゃああああああい!!!
ほっぺの肉を震わせて十字路に――――!!
「うわっ!」
「きゃあー」
語尾にハートつければ良かったかな? とか思いつつターゲットへの体当たりを成功させた。もう本当に偶然、男の腹に跨り頭を拳でコッツンこ。
「ああ! いけない、私ったら! ごめんなさい急いでて」
片目を瞑って舌を出す。やりすぎ? やりすぎぐらいが丁度いいんだよおおおおおおお!!
「いてて。ご、ごめん、俺もよく見てなかったかも……?」
やだ、どん引かれてる? こっからの展開何も考えて無かったわー。
舌をペロペロ出しつつどうしようかなって横を見たら、落とした食パンの影にラメがいた。え? 何怖い、こいつ食パンを盾にしてカメラ構えてる。
「カナちゃん、位置逆になれない? イベントスチル撮りたいんだけど、押し倒される側になって欲しいなぁ。あ、声は君にしか届いてないから安心して」
んなこと聞いてねーよ、私からアキラ君に組み敷かれろと?
「いや、途中経過を献上しないとね? 時期待たずして隕石降ってくるかもじゃん」
しゃらくせえええええええええ! 4兆円が掛かってなかったらこんなことしないんだからねええええええええ!!!
「あの、大丈夫? どいてくれないかな?」
跨ったままペロペロするだけの私に痺れを切らしたようだ。アキラ君が所在なさげに手をプラプラさせてる。
「うん、わかっっっっっっダァ!!!!」
おるぁ!!! っと両脚に力を入れてアキラ君の腰下に潜り込ませる。ガッチリホールドして私は身体を倒し、脚だけでアキラ君を持ち上げた!
「どゆことーーー!!!???」
私はそのまま寝転がり股の間のアキラ君は四つん這いになった。顔の横に両手を置かれて、やだ、床ドンときめいちゃう。
「いいねいいね! これでスチル一枚ゲットだよカナちゃん!!」
ラメが何か喋ってるけど無視無視! 私は覆い被さるアキラ君に恥ずかしそうな視線を向けた。
「!!!???」
あら、急な天変地異に思考が追いついていないみたい。まあ、私もこんなんされたらそうなるわ。脚のホールドを解いて内股になってみた。
「あ、あの、大丈夫ですか……? 恥ずかしいから早くどいてください……」
どの口が言ってるんだってラメが喋った気がしたけどお前の要望だろうよコルぁ!
「ご、ごめん! ごめん? うん、ごめん」
そんなに謝らなくていいのに。アキラ君は私から飛びのいて目を白黒させている。完璧な男子ならここで手を差し伸べて起こしてくれるよね?
「あ! 遅刻しちゃう! 本当にゴッツンこごめんね! じゃあ!!」
まあ、そんなの考えるのは後でいい! 早急に戦線離脱! クラウチングスタートで私はこの場から消えるのだぁ!!!
「ま、待って!! 君の名前はぁ!!?」
もうすんごい後ろの方で何か聞こえたけど無視無視! 学校に向かう方向へ走り去ってアキラ君が見えなくなったら小道に逸れる。
ひゃっほぅ! 手を上げたら乾いた音がした。先回りしていたアケミがハイタッチしてくれたのだ。
「カナちゃん、ナイスファーストインプレッション」
親指を立てて伊達メガネクイクイ。その手には私が置いてきた学校カバン! めっちゃ嬉しい。
「アケミィ!!」
「ドドメモを参考にこのまま後3人にアプローチしなきゃね」
わっはっは! と二人で声を上げて笑った。絶好調な私たちの攻略は始まったばかりなのである。
そうだ! 5兆円ゲットしたら油田買っちゃお!
――カナのパラメーター、運動MAX。
そうです、超人です。