第8話 特訓
ご覧いただきありがとうございます。
このようなニッチな拙作にも7日でPVが300を越えました。
おかげさまで7日連続投降の活力となっております。
興味を持っていただき、重ねて、お礼を申し上げます。
「団体戦?」
「そう、来月に小学校別の団体戦があるの。3人一組で出場するんだけど、この教室に同じ小学校の子がいないのよね」
「だから水無瀬君と友だちになった時、すごくタイミングが良くって、ホント驚きました」
いきなりの話の展開に僕がついていけない。
僕はただ高槻さんや茨木さんと遊びたかっただけだった。
「水無瀬君、私たちと団体戦、でてくれない?」
「僕、将棋始めたばっかりだよ?」
普通に考えて、将棋始めて1カ月で大会なんて無理でしょ。
そこは先生がフォローに入った。
「君はただの1カ月ではないよ。自主性のある1カ月だ。だから、そこそこにいい勝負ができると思う」
「もう1カ月あるし、特訓して強くなるわよ!」
高槻さんにすごい勢いで勧誘される。
そんなに褒められた記憶もないので、かなり照れてしまう。
それ以上に女の子二人の期待の眼差しが痛い。
「ママに聞いてみます」
と答えるのがやっとだった。
高槻さんと茨木さんは嬉しそうだ。僕なんかで力になれると嬉しいな。
「ママ、大会に出ようって誘われちゃった」
夕食の席でママにそう切り出した。
「大会って将棋?」
「そうだよ。高槻さんと茨木さんに」
「あら、知り合ってばっかりだというのに、よかったわね」
「おにーちゃん、大会に出るの?」
「そうだよ。応援してね」
「がんばってー!」
なんとか、許可も得られた。
当日はママも妹も来てくれるようだ。
これはこれで嬉しいな。
次の日の昼休み、僕は高槻さんに会いに図書室へ行った。
高槻さんは受付のカウンターにいた。
丁度、誰もいなかったので話しかけようと近づいた。
「こんにちは、水無瀬君。大会の件どうだった?」
「こんにちは、高槻さん。ママに許可をもらったよ」
「やった~! がんばろう!」
「うん、よろしくね」
高槻さんのくったくのない笑顔が溢れた。
その元気な笑顔に僕はどきっとした。
そして、何とも言えない嬉しさが僕の心を満たす。
(うん、がんばろう)
僕は更にやる気が出た。
そういったりやりとりをしていると、茨木さんもやってきた。
「あら、水無瀬君もきていたんだ?」
「優ちゃん、水無瀬君も出れるって!」
「そうなの? それは私も嬉しいな。水無瀬君、がんばろうね」
と、茨木さんも嬉しそうだ。
けれど、高槻さんの時にあったどきどきがない。
これは一体なんだろう?
「そうなると、少しでも特訓したいね。放課後って空いてる?」
と、僕のそんな気持ちはさておき、高槻さんが二人に尋ねる。
「私は大丈夫だよ」
「僕も大丈夫」
「じゃあ、私の教室に集まろう!」
「「おー!」」
と、話がまとまった。放課後が楽しみだ。
帰りの会を終えて、放課後になった。
「たっちゃん、帰ったら公園行かない?」
と友だちが僕を誘う。
普段なら、誘ってくれるのはとても嬉しいことだけど、今日は約束がある。
「ごめん、今日は先に約束があるんだ」
と、断った。
「そうか、じゃあ、また遊ぼうな!」
友だちは元気に帰っていく。
そういえば、友だちの誘いを断るのは初めてかもしれない。
いつも、彼が遊びに誘ってくれて、同じメンバーで遊んでいたな。
そんなことを考えながらも、一方で高槻さんと将棋がしたい気持ちがでてくる。
「よし、行こう」
と、教室を出ていった。
4年1組の教室に来た。
(そういえば2度目だね、この教室に来たの)
前回は高槻さんと茨木さんとで将棋を指した。
(たかがゲームだと思っていたけれど、とても楽しいひと時だったな)
教室に入る。
いた。高槻さんと茨木さんだ。
「水無瀬君、こっちだよ」
茨木さんも僕を見つけて声をかけてくれる。
僕は二人の居る机に近づいた。
「二人とも集まったね。じゃあ、特訓開始だよ!」
と、高槻さんは将棋の駒と盤を机の上に出した。
まずは僕と茨木さんが指すことになった。
高槻さんは僕の横に座って見てくれるようだ。
高槻さんが隣に座るとちょっとどきどきする。
「じゃあ、平手でいきましょう。途中、どうしてもダメな手があったら注意するね」
と、高槻さんの声。
「「お願いします」」
先手は僕。
居飛車なので「2六歩」と飛車先の歩を突いた。
(やっぱり水無瀬君は居飛車なのね)
高槻さんは静かに見守っているようだ。
茨木さんは「3四歩」と角の斜め前の歩を動かして、角道を開ける。
僕は「2五歩」とし、飛車先の歩を更に伸ばす。
茨木さんは「3三角」とし、2四の争点を守る。
このように、それぞれ一手ずつ進めた。
それを見て、僕は一旦攻めるのを諦めて、「7六角」と角道を開ける。
茨木さんは「4四歩」と角交換を拒否した。
今の僕には相手の戦形を確認する余裕はない。
本で学んだ【矢倉棒銀】をすることに頭がいっぱいだ。
数手が進む。
茨木さんは「3二飛車」とした。
いわゆる「三間飛車」と呼ばれる戦法だ。
この時の僕は本で見ただけの知識だったので、実際に指されて一瞬目を見開いた。
(これはどうやるんだろう?)
クラスでの対局はあまり考えて指してなかったので、改めて指されると嫌な予感がよぎる。
かといって、僕のできることは限られているので、知っている【矢倉棒銀】をした。
茨木さんは【三間飛車・本美濃囲い】だ。
駒組が進む。
僕は棒銀をするべく、「2六銀」とする。
茨木さんは「4二角」を指した。
「1五」か「3五」に銀が進めれば、作戦は成功だけど、3筋には飛車が、1筋には角と歩で侵入を防がれている。
(攻められない・・・・)
攻めあぐねていていても、「3八飛」と相手の飛車と向い合せる。
次に「3五歩」とした。
「同歩」「同銀」で棒銀成功の形を作りたい。
茨木さんは、僕の突き出した歩を無視して「6四角」とし、「1九角成」を睨んでいる。
・・・
「参りました」
僕は頭を下げた。
「ありがとうございました」
茨木さんは一礼した。
「おつかれさま。いい勝負だったよ。じゃあ、感想戦しよっか」
この1局で高槻さん、茨木さんにたくさん教えてくれた。
例えば、【三間飛車】には【矢倉棒銀】とするのは、相性が悪いということ。
この場合、お互いに玉の迫り方は横からになる。
【矢倉囲い】は、上部に固く、横に弱い。
一方で【美濃囲い】は上部に弱く、横に強い。
お互いの上部は玉がいるので、争点になりにくく、逆に横から攻めやすい。
また、棒銀も相手の飛車と角の両方で1筋、3筋を守られているので、攻めても受けきられること。
他にも細かい手筋など教えてくれた。
正直、全部覚えている自信はない。
けれど、二人の一生懸命に教えてくれる姿にどうしても応えたい、と感じた。
この日はこの後たくさん指した。
下校時間になる頃には、目と頭が痛くなった。
「今日はこの辺にしよっか」
高槻さんはとても爽やかな笑顔でそういった。
「OK。じゃあ、片づけて帰りましょう」
と、茨木さん。
3人で片づけて、校門に向かった。
「今日はありがとう」
僕は二人にお礼を言った。
「水無瀬君、一日でもだいぶ強くなったように感じるよ。明日もまたやろうね!」
と、高槻さんが言ってくれた。
「それじゃ、私と雛ちゃんはあっちだから。またね」
と、二人と別れて帰路に着いた。
平日は3人で放課後に対戦、感想戦。
週末はママにお金をもらって将棋教室に行く。
こんな日が大会まで毎日続いた。
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