第7話 将棋教室
ご覧いただきありがとうございます。
このようなニッチな拙作にも6日でPVが200を越えました。
興味を持っていただき、重ねて、お礼を申し上げます。
「そういえば、飲み物は持ってきた?」
茨木さんが尋ねてきた。
「うん、カバンの中にお茶の入った水筒をもってきたよ」
「そう、やっていると結構のどが渇くんだ」
「へ~、面白いね」
一緒に店内へ入っていく。
エスカレーターに乗って、3階に着く。
クーラーやテレビ、楽器などが売っているお店を過ぎて、狭い廊下に入っていく。
廊下に並んでガラス張りのお店っぽいスペースがいくつかあった。
お目当てはその中のひとつ「桜井将棋教室」だった。
高槻さん、茨木さんが順に入っていく。
僕は2人の後ろについていった。
入った途端、パチっと駒を打つ音、ピッピッピー、ガチャとなんか音がする。
そのスペースには20人くらい子どもがいた。
長机が10脚ほどあり、長辺のそれぞれにパイプ椅子が3脚ずつ並べられている。
机の上にプラスチックマットの盤が3つあり、対局の終わった駒がそのまま置かれている。
人がいるところでは、そこで対局が行われているみたい。
「いらっしゃい」
おじさんの声がした。年はよくわかんない。見た感じ、お兄さんとおじさんの真ん中くらいかな。スーツ姿で髪は短く、細い。何よりも印象的なのは眉毛が太い。
「「先生、こんにちはー」」
女の子の二人の元気な声が先生に届ける。
「おー、二人とも今日もよくきたね」
先生と呼ばれる人は、笑顔で応える。そして、その瞳は女の子の後ろに控える僕の姿を捉えた。
「おっ? その子はどうしたの?」
「私たちが連れてきたの。図書室で知り合って、将棋を始めて1カ月ほどらしいんだけど、その割にとても強くて。なかなか楽しいの。誘ったら、来てくれたんだ」
「水無瀬君っていうの。3年生なんです。思い切って誘ったら今日ここに」
と、二人から先生に説明をしてもらった。
「そうなのか。じゃあ、今日は体験していくといい」
「は、初めまして。水無瀬達也といいます。高槻さんと茨木さんと将棋をして、とても楽しかったので誘われて来ました」
「そうかそうか。じゃあ、まず俺とやってみようか」
そのおじさん、いや先生に誘われて空いている席に座った。
「高槻。水無瀬君とどの手合いでやった?」
先生が駒を並べながら、高槻さんに尋ねる。
高槻さんと茨木さんはそれぞれ僕たちの隣で二人で将棋を指すようだ。
「えとね、2枚落ちで1勝1敗でした」
「なるほど」
そう言い終わるうちに、駒を並べ終えた。
僕は先生の反応を待っている。
「じゃあ、とりあえず【8枚落ち】でやってみようか」
「わかりました。お願いします」
と、先生は、飛車、角、銀、桂馬、香車を盤上から駒入れに片づけた。
「先手は水無瀬君でいいよ」
「「お願いします」」
と二人は頭を下げた。
早速なんだけど、もう将棋をするんだ。
しかも、8枚落ちって、この人どれだけ強いんだ?
教室に入ってから、ここまで5分も経ってない。
今、ようやく自分の中に意識を向けることができた。
すこし、落ち着こう。大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
初手、初手、初手……
いろいろ悩んでも僕は知っていることは少ない。
ならば。
本で学んだ「2六歩」を指した。
「なるほど、居飛車か」
先生はそうつぶやいた。
上手(先生)は「3二金」と指した。
2五歩、7二金と進めていく。
・・・
「参りました」
と、僕が頭を下げた。
「ありがとうございました」
先生も頭を下げる。
将棋の先生ってすごい。
金だけで僕に勝っちゃった。
負けた悔しさももちろんあるけれど、それ以上に「どうして勝てるの?」という好奇心がぐいぐいと押し上げてくる。
「水無瀬君、なかなかいい筋をしているね」
高槻さんと言い、負けた相手を褒めるというのはどういうことだろう?
この慣れない状況と言葉に僕はどのような表現をしたらいいのかわからなかった。
「いい筋ですか?」
わからなかったので、僕にわかるわからないを聞いてみた。
「うん、君のやろうとした将棋は何かの本で学んだだろう?」
「はい、「こども はじめての将棋」を図書室で借りて読みました」
「筋がいいってのは、「自分で強くなろうとしている」ってことだよ」
「???」
よくわからないので、更に困った。
「スポーツもそうだが、習い事をしているだけで皆強くなるわけじゃない。習い事をした後、空いたの時間をどれだけ習い事にかけられるか。「自主性」って言うんだ」
「自主性?」
「そう。これはね、誰かに教わることはできない。いくら説明しても、実際に取り組み、その心地よさを体験しなければ伝わらない。将棋はたかがゲーム。だけど、君はここに来る前から自分で強くなろうと勉強し、実際に勝った。違うかな?」
「あってます」
「うん、そして高槻と対戦し、勝ち負け以外の面白さを知った」
「あってます」
「だから、筋がいいんだよ」
「???」
「あはは、今はそれでいいよ。ただ、今の気持ちを大事にしてほしい。将棋を続ける、続けないにかかわらずね」
「よくわかりませんが、わかりました」
と感想戦を終えた。
隣の高槻さんと茨木さんの対局も終わったようだ。
高槻さんが悔しそうにしている。
茨木さんは高槻さんにふふふと笑顔を向けた後、こちらを向いた。
「先生、水無瀬君はどうですか?」
と、茨木さんが聞く。
「うん、良いと思うよ。本人がいいなら、いいんじゃないかな」
先生が答える。
「何の話ですか?」
と、僕が二人に尋ねる。
高槻さんが勢いよく僕を指さして
「団体戦よ!」
と言い出した。
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将棋教室について、ほぼ同時に始めた「私の歩」の方でも取り上げるかもしれませんが・・・。
1.先生と指す、2.生徒同士で指す、のどちらかでやっています。
(私はボランティアです)
人気なのは1.先生と指す、です。
私自身は駒落ちは好みません。棋力差があれば多少の不利はひっくり返せるからです。
でも、教室では私は勝ちません。でも、あからさまな手も抜きません、
ですが、私がプロ棋士にご指導いただくときは必ず駒を落としていただきます。
あまりに棋力差があれば、勉強にならないからです。
ぎりぎりの中、必死で悩んで、勝つ。これが一番楽しいと思うのです。
幸いにして、教室は盛況しております、(報酬は受け取ってないのが理由かもしれません)
この楽しさ、伝われば幸いです。
あとがき、長くてすみません。




