第6話 週末の誘い
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しかも、日に日にPVが増えています。興味を持っていただき、重ねて、お礼を申し上げます。
「水無月君、すごいよ」
横で見ていた茨木さんも喜んでいる。
「【棒銀戦法】の基本を知っているわね」
「基本?」
「そう、初心者がまず覚えるおススメは【棒銀戦法】なの。これは、将棋の基本にして絶対の攻め方、【足し算の攻め】をわかりやすくしたものなの」
「【足し算の攻め】?」
本には載っていなかった新しい言葉に思わず反応した。
「そう、将棋の基本的な攻め方の一つなの。ある地点をたくさんの駒で攻める。受ける駒より攻める駒の枚数が多ければ、攻めきれる。逆に同数なら受けきれる。どんなに強い人でも結局はこれを使わないと勝てないの」
「今回は高槻さんが攻めないってわかっていたからゆっくり攻めようと思ったんだ」
「そう、その相手の状況を読むことが大切なの。将棋を覚えたてのうちはどうしても自分の知っている攻め方にこだわりがちだけど、【攻め勝つための準備】ができていたよ。本当に初めて1カ月なの?」
と、最大限褒められて、僕はとてもうれしかったけれど、高槻さんは怪訝そうな目で僕を見るので少々戸惑う。
何も答えられないでいると、高槻さんは更に口を開いた。
「ま、いいわ。私はとても楽しかった。君はどうだった?」
急に聞かれた質問に少々悩む。
クラスメイトと指した将棋はこんなに頭を使わなかった。
ただ駒を動かしているだけで楽しかった。
もちろん、負けたら悔しいけれど。
だけど、将棋がこんなに真剣に指すものだとは知らなかった。
特に2局目は勝ったもののとても疲れた。
勝った喜びももちろんだけど、対局中の高槻さんとの真剣な呼吸。
これがたまらなく楽しかった。
僕は笑顔でこう答えた。
「ありがとう、とても楽しかった」
高槻さんは一瞬目を伏せて、微笑んだ。
「そう。なら、よかった。また、いつでも指しましょう」
「うん!」
僕は全力で答えた。
そこで茨木さんが声を発する。
「じゃあ、次は私と指しませんか?」
茨木さんの誘いには、
「喜んで」
と答えた。
駒を並べ終える。
「雛ちゃん、私はどうしたらいいかな?私も2枚落ち?」
【手合い】(ハンデ)のことを言っているのだろう。
「優ちゃんなら、相手に合わせられるでしょう。平手でいいんじゃない?」
「うん、わかったよ。じゃあ、水無瀬君、駒はこのまま、先手はあなたで始めましょう」
「お願いします」
結果は2戦やって2敗だった。
もちろん悔しかったけれど、それ以上に真剣勝負ってのが楽しかった。
休憩時間でやっている将棋と全然違う。
同じ将棋なのに、何が違うんだろう?
「茨木さん、高槻さんは何故そんなに将棋が強いの?」
感想戦が終わって、僕はその不思議を二人に尋ねた。
「そりゃ、週末に二人であれだけやってればね」
と、高槻さんが答えた。
「雛ちゃん、ホント手加減しないから帰ったらいつもへとへとだよ」
と、茨木さんも答える。
「いつからやっているの?」
「一緒にやりだしたのは3年生かな?」
「そうだね。雛ちゃんが誘ってくれたんだ」
「将棋で他の学校の友だちも増えたしね」
と、いろいろと教えてくれた。
「そうだ、じゃあ、週末、雛ちゃんと3人で遊びに行きませんか?」
いきなりのお誘いに少々戸惑う。
「いいけれど、どこいくの?」
「将棋教室!」
僕は自宅でママと妹と3人で夕食を食べている。
今日はハンバーグだ。ご飯はやっぱりお肉がいいね。
「ママ、土曜日に友だちと遊びに行っていい?」
「いいわよ。で、どこいくの?」
と、いつものような家族での会話。
「将棋教室」
「あら、将棋教室なんてどうしたの?」
ママは驚いた。
「高槻さんと茨木さんに誘われたんだ。」
「へ~、知らない名前ね。どんな子なの?」
新しい名前に興味津々な様子。
「4年生の女の子で将棋がむちゃくちゃ強くて楽しかったんだ!」
女の子と聞いて、ママがさらに驚く。
「上級生か。女の子なのに渋い趣味してるわね。まぁ、なるほどね。いいわよ。いってらっしゃい」
「うん!」
土曜日、13:00.僕は約束の校門前に自転車に乗って待っている。
学童にいく子もいるので、グラウンドはドッチボールなどで賑わっている。
「おまたせー!」
高槻さんと茨木さんが一緒に自転車に乗ってやってきた。
こころなしか、二人とも、おしゃれをしてきれいになっているような気がする。
初対面の時と違って、髪もふわふわしている・・・ような気がする。
僕は少々恥ずかしくなった。
「こんにちは」
友だちになったといっても、知り合って日が浅い。
まして、相手は上級生だ。丁寧にあいさつをしなければと思ったんだ。
決して、どきどきしているわけじゃない。
「うん。じゃあ、早速だけどいきましょう!」
と、高槻さんの元気な声。
「どこへいくの?」
将棋教室としか聞かされてない僕は、改めて目的の場所を尋ねる。
「ショッピングモールだよ」
着いた先は、地元のショッピングモール。
ママと妹とよく買い物にやってくる。
買い物についていけば、お菓子を買ってもらえるので楽しいのだ。
「こんなところに将棋教室なんてあるの?」
「そうなの。3階の端っこなんだけれどね」
高槻さんはそう言って、軽い足取りで店内へ入っていった。
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