第4話 初勝利
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私以外の方がご覧になっている事実、震えるくらい嬉しいというのは本当なのですね。
重ねて、お礼を申し上げます。
それから僕は、教室で、家で、その本「こども はじめての将棋」を1週間で何回も見直した。
まず印象に残ったことは、居飛車、四間飛車、中飛車など〇〇飛車という名前だ。
将棋には「戦法」というのがあるらしい。
基本的に「飛車」の位置で戦法の名前があるみたい。
プロでは居飛車を指す人が圧倒的だそうだが、アマチュアなら四間飛車の方がわかりやすくて勝ちやすいと書いてあった。
何がわかりやすいのか、まではよくわからなかった。
どんな戦法でやろうか、これまでの将棋の対戦を振り返ってみた。
確かに友だちたちの飛車はいろんなところにあったように思う。
なるほど、みんな戦法ってのを知っていたのか、やるなあと感心した。
ふと、僕は父親との将棋を思い出した。
うろ覚えだったが、父親の飛車の位置は常に最初のままだった。
本のことばを使うと「居飛車」と呼ぶようだ。
僕はそれを選んだ。
次に「囲い」というのがあるのか。
玉を詰まされると負けるので、そうならないように他の駒で守る。
「矢倉囲い」「雁木囲い」「穴熊囲い」などなど。
たくさんあったが、これも父親の将棋を思い出す。
・・・そうか、矢倉囲いだ。
なぜだかわからないけれど、父親をマネたら強くなる。
そんな気がするんだ。
後は、本に載っていた“たたきの歩”、“腹銀”などの「将棋の手筋」や「詰将棋」、「次の一手」を覚えていった。
家で将棋の本を出すとママの表情が少々暗くなる。
「たっちゃんは将棋覚えるの?」
「うん、今クラスで流行ってるんだ」
「えー、おにーちゃん、将棋するの?」
「うん、がんばって覚えているんだ」
「おにーちゃん、えらいねー」
「そう、宿題もきちんとしてね」
「うん、ちゃんとやるよ」
いつもなら、もっと聞いてくれるはずなのにおかしいな。
ああ、そうか。
ママはおとーたんのこと嫌いだったんだ。
ママとおとーたんの喧嘩を思い出す度、胸がチクチクする。
将棋は嫌いではないけれど、思い出したくないな。
戦法と囲いを決めた、次の日、いつものように勝負を挑まれた。
「今日こそ、勝ーつ!」
「たっちゃんにはまだ無理だって」
あの本に載っていた【矢倉棒銀】をやってみよう。
圧倒的に僕が弱いらしく、いつも先手をくれる。
んと、矢倉囲い・・・。だがら、「7六歩~6六歩~7八金~6八銀~7七銀」だね
「5八金~6六金」と金矢倉の形をを完成させる。
あとは「7九角~6八角」と角を逃がして、8八に玉を入れて・・・
よし、なんとか、矢倉囲いを組めた。
そこで相手の陣形を見る。
お、相手も居飛車か。
本で読んだが、居飛車に矢倉囲いは強いんだぞ。
勉強通りの展開でちょっとうれしい。
「ま、負けました」
・・・や、やった初勝利だ!
人生初めての勝利で思わず、思い切りガッツポーズをしてしまった。
なぜ勝てたかはよくわかんないだけど、玉は本当に詰みにくいことはよくわかった。
そして、戦法て強いんだなと勝って初めて気づいたことがあった。
「たっちゃん、いつのまに・・・、いや、もう一回、もう一回だ」
「お願いします」
2戦目
・・・世の中、そんなに甘くないね。
「まいりました」
「あっぶねぇ、連敗だけは防げたわ、たっちゃん、強くなったな。次からはもっと楽しめそうだね」
その日の昼休み、本を返却しに図書室へ向かった。
「あら、水無瀬君、こんにちは」
「あっ、高槻さん、こんにちは。本の返却に来ました」
「OK、本の返却はその棚に入れておいてね」
「わかったよ、ありがとう」
と、指定された本棚に本を返却する。
「で、どうだったの?勝てた?」
「さっき、初めて勝ったよ!」
「お~、それはおめでとう」
図書室なので、あまり騒がないように、でも嬉しさをアピールしながら僕は答えた。
高槻さんも、うるさくならないように小さめながらパチパチと拍手で応えてくれた。
「うん、ありがとう」
「じゃあ、私とも指してみよっか」
「高槻さんもできるんだ?うん、いいよー。ぜひ、お願いします」
「じゃあ、放課後、私の教室に来てくれる?」
「わかったよ、で、次はどの本を借りたらいい?」
「えと、それはね―――」
放課後になった。
約束通り、4年1組の教室に向かう。
着いた頃に帰りの会がおわったようで、僕と入れ替わるように人がぞろぞろとでてきた。
「高槻さん」
と、教室に入り、声をかけた。
「おー、よくきたねー」
元気よく答えてくれる。
そこに別の声が聞こえた。
「雛ちゃん、その子はだれなの?」
と、初めて見る子だ。
「この子は水無瀬君、最近将棋始めたんだって」
「あー、あなたが雛ちゃんの言ってた水無瀬君なのね。はじめまして、私は雛ちゃんのクラスメートの茨木優です。よろしくね」
目が大きくて、ショートカットで髪留めをしてる、スポーツが得意そうな印象だ。
「はい、3年2組の水無瀬達也です」
と、自己紹介すると、茨木さんはにこにこしだした。
「水無瀬君、かわいいねー」
自分が小学生といい、男の子がかわいいと言われれば、むっとくる。
しかし、悪意がないのは明らかなので、この憤りをどうしたらいいのか、少々戸惑い、何も答えられずにいた。表情にもなるべくださないようにした。
その気持ちを汲んでかはわからないけれど、高槻さんが話題を変えた。
「じゃあ、早速将棋やろうか」
「うん、おねがいします」
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