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第31話 教室対抗戦(茨木さんの事情)

すいません、仕事の後の仕事で更新が今になりました・・・。

このチームでは私が一番段位が高い。

雛ちゃんがリーダーだけど、エースは私。

あまり自覚したことはないんだけれど、桜井先生にかつてこうアドバイスされたことがある。


「高槻を支えてあげて」


雛ちゃんはそれこそ保育所からの幼馴染。

家族ぐるみの付き合いもあり、家族同士一緒に旅行したりもしている。

習い事も全部同じ。


基本的にいつも同じ。

雛ちゃんがいつも私を引っ張ってくれる。


将棋以外の習い事に私と雛ちゃんに差はない。

面白いことに学校のテストの点数も勝ったり負けたりだ。

そうして、お互い仲良くできている。

いつもそう感じていた。

そう願っていた。


将棋もそう。

最初は雛ちゃんの方が強かった。

私も追いつきたくて、少しだけ頑張った。

いつしか、その頑張ることが楽しくて、雛ちゃんと同じ級になった後も将棋の勉強はやめられなかった。

そして、いつの日か私の方がひとつだけ級が上がっていた。


それは段位をとった今も同じ。

級や段が上がるにつれて、だんだんと上がりにくくなる。

追いついてくるだろうと心待ちにしているんだけど、雛ちゃんの一歩前に私がいた。


けれど、雛ちゃんと将棋を指すと勝敗は五分同士。

決して私は手を抜いているわけじゃない。

雛ちゃんは変なところがちょっとある。

格下にはちょくちょく負けるのに、格上にはちょくちょく勝つ。

私にとってはその不思議がたまらない。


たっちゃん、あの大会の日から毎日遊ぶようになった。

ほぼ初心者だから、雛ちゃんならまず負けない相手。

事実、大会後では一切負けてなかった。

大会前とここ最近、ときどき負けて悔しそうにしている姿を見る。


私はたっちゃんには基本的に負けない。

級や段は嘘はつかない。

その差が面白いな。


きっと、雛ちゃんはたっちゃんとやるときは無意識に勝負以外のことを考えてるんだろうなぁ。

私もあの二人の対局をみていると胸がキュンキュンいたくなるし。


さて、1局目はたっちゃんと雛ちゃんのなかなか面白い姿を見られたので良しとしよう。

私の対局もなんとか勝てたし、満足だね。


この2局目。

さっき雛ちゃんと指した相手とやっているんだけど。

うーん、なんだろうなぁ。


あんまり強い感じがしない。

前の大会で雛ちゃんを負かせた相手なんだけど。

前の大会の方が強かった気がする?


強い弱いだけで判断するなら、私の1局目の相手よりは弱いだろうな。

けれど、それ以上に気持ちが入っていない。

指しながら考える。

その違和感の謎について。


相手が攻めてくる。

確かに厳しくて受けにくい。

受けてしまうと相手の攻めを加速させてしまう。

そういう時は受けずにこちらも攻める。


すると、相手は受けた。


(あれ? いま、この手を指せば、相手が勝つのに?)


見えてないっぽい、だからと言って、今更受けるのは私の隙を相手にばらしてしまうことになる。

だから、別の攻め手を指す。

相手はやはり受けに回り、私が指されて嫌な手が飛んでこない。


(やっぱり気づいていない)


ああそうか。この子、自信を失っている。

このまま勝ち切るのは、相手の状態を見ると簡単だろう。

だけど、これは練習試合。

ここで勝っても価値は低い。

せっかく来てくれたんだから、楽しく指さないと。


かといって、手を抜いて負けるのも嫌だ。

ばらすのも嫌だ。

でも、いい勝負がしたい。


(うーん)


私は悩む。

隣を見る。

雛ちゃんと相川さんが指している。

表情を見る。

とても楽しそう。


チェスクロックのことも一旦忘れて、二人の表情を見比べる。


(二人とも可愛い)


ふと、私の対戦相手が私を見ていることに気付く。

時間を使っているのにもかかわらず、盤面を見ず、お隣を見ているのだ。

それは、きっと不思議だろう。


(ごめんね、手を抜いていたわけじゃないんだ)

ことばを発せられないから、心の中でお詫びをする。


(私もああいう表情で将棋を指したい!)

そう思うんだけど、どうしたらいいのかな?


いろいろ過去の対戦を思い出す。

私の見た中で一番楽しかったのは雛ちゃんとたっちゃんの対局だ。


互いに敢えて相手の攻めを読むことをせず、自分の攻めだけを信じて攻めあっていた日々。


(私もあれをやってみようかしら)

雛ちゃんは良い手だろうと悪手だろうと気合が乗ってきた時は、大駒をさくっと相手に渡す。

もちろんただじゃないけれど。

そうして、相手の方が有利だと手をゆるむ瞬間を狙う。


人って不思議なもので有利な時ほど守りを意識しやすい。

雛ちゃんはその辺の心の機敏をたくみに操るのが得意。


そう思い、私も自分の飛車と相手の銀を交換した。

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