第3話 友だちと対局、そして出会い
その中の友だちとの一戦。
他の友だち同士の対局をいくつか見ていたので、最初は歩を動かせば良いと考えていた。
なので、先手番の僕は「2六歩」と飛車先の歩を伸ばした。
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時にこの「2六歩」だが、数字は盤面の所在地と置いた駒を意味する。
一番右側を“1”とし、左へ進むごとに数字が増え、一番左側は“9”になる。
同様に、一番上側を“一”とし、下へ進むごとに数字が増え、一番下側は“九”となる。
なので「2六歩」は右から2つ目、上から6つ目に歩を置いた、を意味する。
この時「2六」の地点に歩を置けるのは「2七」にあった歩だけなので、“どこから“を示す必要がないのだ。
さすが、数百年の歴史をもつ。無駄が排除(?)され、精錬されているような気がしませんか?
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友だちは同様に「8四歩」と飛車先の歩をつく。
次に「2五歩」、相手は「8五歩」とする。
次に「2四歩」とすると、自分の駒がとられてしまう。
駒を取られるのは嫌なので、「7六歩」と角道を開ける。
相手も同様に「3四歩」と角道を開ける。
そこで考える。次に何したらいいんだろう?と。
このままでは角を取られてしまうので「6六歩」と角を取られないようにしてほっとする。
相手はすかさず「8六歩」と歩と歩をぶつけてくる。
やったと思い、「同歩」とすると相手は「同飛車」。
角を取られたくないので、あわてて「8七歩」とすると「同飛車成」。
歩をタダでとられて、さらには最強の竜ができてしまい、気持ちが滅入る・・・。
そのまま、あれよあれよとなす術もなく「参りました」
このようにしばらくは、勝つことができずに悔しい思いをしていた。
僕とやれば、友だちはみんな勝つ。
だから、休憩時間中はよく挑まれた。
相手してくれるのは嬉しいのだけど、負けっぱなしはとても悔しい。
どうして一回も勝てないのだろう。
友だちに聞いてみたら、親に教えてもらった、本を読んだとのことだった。
今、家族で将棋ができる人はいない。
みんなに勝ちたくて、昼休みに将棋の本を借りようと図書室に向かった。
図書室に向かう廊下を歩く。
そういえば、図書室ってのも一人では初めていくな、どきどきする。
そして、扉の前。
緊張しながら扉を開ける。
くさくはないが、独特のにおい。
教室と違って、本がいっぱいあって、人はいるのに静かで、なんか怖い。
入ってすぐ立ち止まり、そんなおっかなびっくりしていると、受付から声がかかった。
「こんにちは」
「え、えと。こんにちは」
僕よりも背の高い、女の子。きっと上級生だ。
そんな彼女は小さな僕に優しく声をかけてくれた。
図書館にて、声をかけてくれた女の子を見る。
僕より首一つ分背が高かった。目は鋭く、睨まれているようで一瞬どきっとしたが、すぐに微笑んでくれたので、睨んでいるというよりもしっかりとみているだけのような気がして、怖さはすぐに消えた。
膝丈のスカートでポニーテール。
見るからにお姉さんという感じでどきどきする。
「図書委員の4年1組、高槻 雛です」
「えと、3年2組の水無瀬 達也です」
「えっ、3年なんだ。2年生かと・・・。それで、水無瀬くんは図書室にははじめてきたの?」
「はい」
「どんな本を探しているの?」
「将棋の本です」
「えっ?君、将棋できるの?」
「クラスで流行っているんだけど、まったく勝てなくて・・・」
「なるほどね、わかった。じゃあ、案内してあげる」
と、僕の手を引いた。手をつないだだけなのに、体全体が一瞬固くなった。
でも、その後すぐ、図書館にいるというで緊張は解けていく。
優しいお姉さんだなと嬉しくなった。
と、目的の本棚に着いたらしい。
「ここに3冊くらい、将棋の本があるよ」
「ありがとう」
「君って、将棋始めてどれくらいなの?」
「う~ん、1か月くらいかな?」
「なるほど、初心者か~」
ふんふんと僕がよくわからないうちに納得している。
「それなら、この本がいいかな」
と、一冊の本を僕に手渡した。
タイトルは「こども はじめての将棋」。
とても、初心者っぽい。
本をぱらぱらとめくってみる。
文字がたくさんあったが、読みがながふってあり、マンガが多くてわかりやすそうだ。
「ありがとう、高槻さん。これを借りて読んでみるよ」
「どういたしまして、貸し出しはこっちだから」
とまた案内してくれた。
なんと優しい人なんだろう。
貸し出しの手続きが終わって高槻さんが最後に一言。
「貸出期間は1週間ね。延長して借りたかったら、一度本を持ってきたらいいよ」
「うん、わかった。どうもありがとう」
僕は丁寧にお礼をいって図書室を出た。
教室に着いた頃には予鈴が鳴った。
その日から、高槻さんとは友だちになった。
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