表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/35

第24話 こどもとおとな

ご覧いただきありがとうございます。

9日連続PV100を越えました。

毎日投稿し続けるとご覧いただける方が増えている。

リピーターさんがいらっしゃるんだと思うと嬉しい限りです。

「4人ともたまには遠征してみようか」

と桜井将棋教室の桜井先生が提案した。


「遠征?」

高槻さんが尋ねる。


「そう、いつも同じ相手ばかりじゃ飽きが来る。飽きると成長が鈍る。たまには新しい風を感じないとね」

「楽しみだね」

茨木さんは歓迎モードだ。

僕たちも一緒に頷いた。


桜井先生に連れられ、古そうな建物が並んだ商店街を歩いていく。

自転車で町の中をよく走っているけれど、こんなところがあったんだ。

新しい発見に僕は心が躍る。


「優ちゃん、この辺お稽古の道と同じだね」

「そだねー、こんなところに将棋が指せるところがあるなんて雛ちゃん知ってた?」

「んーん、ぜんぜん心当たりがないよー、たっちゃんたちは?」

そうちゃんと僕は首を横に振る。


「着いたよー」

と、先生は足を止めた。

ぼろいアパートみたいな入り口に上り階段がひとつ。

昼間だけど、本当にお化けが出てきそうでちょっと怖い。

女子たちは少々引いている。


先生が階段をすたすたと上っていく。

僕たちも戸惑ったものの意を決して進んでいく。

今、僕たちは冒険者だ。

どんなモンスターがきてもやっつけてやる。

4人でパーティーを組んでいる気分だった。


2階に上がる。

フロアは暗く、太陽の光も届かない。電灯にも光はついていない。

「ホントにこんなところにあるの?」

高槻さんが呟く。

無理はない。

本当にお化け屋敷みたいだ。


そんな僕たちの気持ちなどおかまいなく、先生はひとつの扉を開けた。

光が廊下を照らす。

僕たちは光の中を見た。


パチッと駒の音がする。

部屋は縦長で将棋の盤が一列に並べられている。

その両脇に椅子が並べられていて、ところどころで対局している姿が見える。

将棋教室と景色は似ているが、絶対的な違和感がひとつあった。


「おじいちゃんしかいねぇ・・・」

そうちゃんがそう言った。


そうなのだ、ここには子どもは一人もいない。

僕たちこどもの緊張はMAXだ。


「おー、桜井君じゃないか! ひさしぶりだね」

「ご無沙汰しております。席主さんこそ、お元気そうで」

席主と呼ばれたおじいちゃん。

あたまは見事にツルツルだ。

ナイスハゲ!といってみたいくらい。


「おや、可愛いお客さんがたくさん来たね」

と席主さんは微笑んで僕たちを見ている。


「ええ、将来の期待の卵ですから、ぜひ教えていただこうかと思いまして」

「なるほど、他流試合の練習じゃな。桜井君、教室がうまくいっているようで何よりだよ」

「ははっ、ありがとうございます。おかげさまで」

と桜井さんは席主さんにお金を払う。


「あの、私たちの分は?」

高槻さんが尋ねる。

「いいよ、今回は。こういう別の場所で指す。この事も知ってほしかったんだ。()()()()()()()()


最後になんか先生のメガネが光ったような気がしたけれど、きっと気のせいだろう。

僕たちは席主さんに促されるまま中へ通される。

僕たち四人はそれぞれ、将棋盤のある壁際の椅子に隣同士に腰かけた。

席主さんが僕たちにお茶を配りながら、

「君たちは何級かな?」

と尋ねていった。


僕たちは正直に答える。

「なるほど、桜井君の所なら、きっと適正だろう。わかったよ、相手をつけよう」

そういって、感想戦を終えた2人、窓際でお話ししてた2人のおじいちゃんをそれぞれ僕たちの前の席に案内した。


「桜井君ところの教室の生徒さんたちだって」

「ほほー、あの子も立派になったもんだ」

「で、この子たちの強さはどれくらいだい?」

「桜井君、どれくらいなの?」

「えと、5級が一人、後は初段くらいでしょうか」

「なるほど、5級の子だけ駒落ちで、他は練習だと思って平手でやってください。ただし、先手は子供たちね」

「はいよ」


知らない大人たちと指すのはみんな初めてだ。

しかも、こういった将棋の指すところにいるのだからきっと強いのだろう。


先生はこそっと近づいてきた。

「がんばれば勝てるかもね」


僕たちは自信が湧いてきた。


「お願いします」

その声で一斉に始まる。


一応、チェスクロックを使って、時間は「30分切れ負け」だ。

序盤、子どもたちはさくさくと指していく。

一方で大人たちは一手一手を慎重に指していく。


子どもたちはそれぞれ得意戦法で挑んでいく。

相手の歩に自分の歩をぶつける「開戦」までの消費時間は子供たちは「1分」、大人たちはだいたい「5分」ほどだ。

その間、先生は僕たちの周りを行ったり来たりするものの静かに盤面を眺めている。


大人たちの戦型は見たことのないものが多い。

あとで聞かせてもらったけれど、どれも今でいう「古い」戦法らしかった。


中盤にさしかかり、大人たちは更に1手に時間をかける。

その相手の呼吸に僕たちも慎重になっていく。

お互い時間が刻々と減っていく。

僕たちは気づかなかったけれど、先生はニヤリと頷いていた。


「そうか、これを狙っているか」

僕の向かいに座っている人はときどきそんな言葉を出す。

これは「三味線」といって、本来は好ましくない行為らしい。

だけど、大人たちといい勝負ができていると僕は感じていたので、むしろ心地よかった。


相手の手番中に僕は周囲を見渡した。

子どもたちはみんな真剣に指している。

大人たちとこんなに真剣な表情で勝負をすることは今までに経験したことがない。

高槻さん、茨木さんのところは対戦者の表情からして、彼女らの方が優勢みたい。


そんなところ、バチッと駒音が響く。

僕は一瞬驚いて、体をビクッと震わせて、自分の盤面を眺める。

どうやら、相手が指したようだ。

僕は指された手を見て、考える。


(これは「勝負手」だ)


勝負手は、基本的に「不利」な方が盤面を優位に動かすべく、失敗を恐れない決断の一手を指す。

正しく受ければ、より優位に立つことができる。

だけれど、相手の次の手を読み、それを防ぐ必要がある。


僕は長考に入る。

相手の前のめりだった姿勢は元の状態に戻り、腕を組んでうんうんと頷いている。


相手の意図がわからない。

警戒するのは「王手飛車取り」「両取り」「歩で小駒が殺されること」優先的にこの三つ。

このどれも当てはまらない。

当てはまらないと言って、それは次の手ではなく、その次の手を狙っているのかもしれない。

もう少し深く読む。


将棋に卑怯の二文字はない。

すべて、盤上と駒台に情報がある。

「気づく」か「気づかない」かだ。


(なるほど!)


このまま勝負手に応じると6手目に銀が死ぬ。銀が死ねば、守り駒を攻められ、飛車の位置が一つずれる。

ずれたところに相手の飛車の攻めを仕掛けるつもりだ。


相手の意図は分かった。


(これは応じられない)


相手の攻撃を無視して、自分も攻めることを「手抜く」という。

相手の攻めが完成される前にこちらも攻めを考える。


将棋の一手一手に時間がかかるのは、相手の攻めを正しく理解し、それに対する相手の嫌がる一手をみつける作業を繰り返し行うからだ。


この中盤こそ、将棋のクライマックス。


相手の思い通りに進めてしまったら、終盤でまず勝てない。


慎重に相手の攻めが成功するまでの手数を数える。


(3手か)


この3手のうちにこっちの攻めが通れば、優勢は間違いない。

(2手で相手の攻め駒にせまれれば・・・・)


余計に時間がかかる。

それ以上に悩みすぎて頭の中がパンクしそうだ。

盤面を隅々まで眺める。

駒台をみて、持ち駒を見比べる。


(これでなんとかなりそう?)


相手の勝負手に応じず、こちらも勝負手で返す。


相手は驚き、また前かがみになる。

僕も相手も体を前後に揺らす。

なぜ、揺れるのかはいまだにわからない。

きっと、一手一手のリズムを計っているのだろうと思う。

これは観戦しててもみていて本当に面白い。


・・・・


そして決着の時


「参りました」

と相手が駒台から持ち駒をすべて握って、盤上に置いた。

投了の合図だ。


「ありがとうございました」

僕は頭を下げた。


(ふぅぅぅ・・・何とか勝てた・・・)


「坊主、強いな! おっちゃん、三段なんだが、君は何段だ?」

と感想戦をしながら聞かれた。


「1級です」

と、答えた。


(僕凄い。三段の人に勝ったんだ!)

喜びがあふれてくる。


「序盤早指しだったから、これは勝てると思ったんだが、しっかり読むところで読んでたな。桜井君がここに来させた理由がわかった。君、強くなるよ」

と、にこにこ言いながら褒めてくれた。


「あと・・・・」

「???」

と、不思議に相手の顔を見つめる。

「マナーがいいな。大切にしな」

「ありがとうございます」


感想戦でも僕の悪い手を一杯教えてもらった。

この人、本当に強い。

勝ったのはたまたまだと思い知らされる感想戦だった。


僕の周囲からも話声がし始めた。

対局が終わり、感想戦に入っているんだ。


周りを見渡す、皆笑顔だった。

一生懸命に指す。

勝っても負けても、この一局はとても楽しかった。

みんなそう言っているようだった。

今日のお話は、「将棋サロン」をイメージしました。

今日の流行り廃りの影響で、こういったお店は減少の一途を辿っています。

パチンコやギャンブルに費やすことを考えると、ずいぶん節約でき、頭も使うのでボケ防止にもいいとはおもうのですが、にぎやかなのにはどうしても勝てません。


入りづらい雰囲気は事実ですが、基本的に「将棋サロン」は一見さま歓迎な所が多い気がします。

なにより初心者を求めています。

来てもらって強くなっていく様を見ていくのも、将棋ファンとして楽しみのひとつなのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ