第12話 団体戦!③(予選2戦目-1)
ご覧いただきありがとうございます。
将棋はこの物語のように"少々"の特訓ですぐに強くなります。
緒戦白星(2勝1敗)、僕は負けてしまったけれど、惜しいところまで行ったと思う。
将棋を始めて2カ月ちょっとでも、大会でこれだけ楽しめるんだ。
次の対戦までの休憩中、僕はわくわくが続いていた。
一方で、茨木さんは僕の方をちらちらと見ている。
僕が目を合わせると視線を外して、高槻さんとのお話に戻る。
「???」
僕は、ママと妹と一緒にお話ししていた。
「将棋の大会って地味だと思ってたけれど、けっこう賑わっているものなのね」
と、ママが言った。
妹は珍しい場所で目をキラキラさせていたけれど、僕が一局指している間に飽きたようでお菓子に夢中だ。
ママは妹の機嫌をうかがいながら、壁に貼ってある対戦表を見た。
「後一つ勝てば予選通過みたいね。たっちゃん、一勝できるといいね」
「うん!」
と、ママが応援してくれる。
「にーちゃん、がんばれー」
「ありがとう」
お菓子を食べて機嫌を持ち直したか、妹からも応援をもらった。
「水無瀬君」
と、高槻さんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「初試合どうだった?」
「緊張した。頑張ったけれど負けちゃった。ごめんね」
と、思っていたことを素直に答えた。
「ううん、負けたことはどうでもいいの。その、嫌じゃなかった?」
と、よくわからないことを言ってきた。
「嫌?」
「うん、将棋を始めて間もないのに、急に団体戦に誘っちゃったこと。勝てるはずないのにね」
と、どうやら僕のことを心配してくれているようだ。
「ううん、こちらこそ、誘ってくれてとても嬉しいよ。将棋って面白いんだね。試合あるなんて知らなかったし、やってみたらすごく緊張して、今、とても楽しいよ。誘ってくれてありがとう」
そういうと、高槻さんが真顔になって少し黙り込む。
何か、不味いことでも言ったかな?
不安になって、ママを見る。
ママはすごく笑顔だ。
高槻さんを見直す。
表情がじわじわと微笑みに変わった。
「こちらこそありがとう。将棋の友だちが少なくって、そういってくれたの。これまでいっぱい誘ったけれど、優ちゃんと水無瀬君だけだった。本当にありがとう」
高槻さんはとても嬉しかったようだ。
僕の心をゆさぶることばに今度は僕の方がことばが出なかった。
だから・・・・
「次はきっと勝つよ!」
と、元気に答えた。
「うん! がんばろうね!」
と、高槻さんも胸元に両手を近づけてグッとガッツポーズした。
「次の試合が始まります。 案内しますので選手の方は近くまで来て下さい」
2回戦スタートのアナウンスが流れた。
僕ら3人はアナウンスに従って、マイクでしゃべっている人に近づく。
その時、不意に茨木さんが僕に話しかけた。
「水無瀬君、来てくれてありがとう」
そう言って、ニコッと微笑んだ。
さぁ、2回戦だ。
次は第四小学校Bチームだ。
Bチームって、2チームも出せるのか。面白いな。
「Bチームかぁ」
高槻さんがつぶやく。
「どうしたの?」
「ううん、水無瀬君が勝てるかもって思ったの。頑張ってね」
「ありがとう」
よくわからないけれど、全力を尽くしてみよう。
6人が3人ずつ長机の長辺にそれぞれ座る。
長机には将棋盤が3つ、チェスクロックが3台、そして駒箱が置かれている。
緒戦のように駒を並べる。
駒の並べ方にもルールがあるようだけど、将棋の先生には「玉を最初に置けばいいよ」と教わった。
だから、最初に玉を見つけて並べる。
「あっ」
と相手が小声をだす。
「どうしたの?」
と尋ねるけれど、「なんでもないよ」と返ってきた。
並べ終えて、対戦者を意識する。
身長は僕と同じくらいなので、同じ年齢かな?
棋力はどうなんだろう?
大会に来るくらいだから、きっと僕よりも強いよね?
そんなことを考えた。
高槻さんが5枚歩を握って振り駒をする。
「"と"が3枚なので、私が後手」
と右手を挙げる。
釣られて僕も真似る。
「僕は先手」
「私は後手」
と茨木さんも僕の次に右手を挙げた。
僕らの宣言の後に、相手の子が「時計を動かすね」と、僕の左側に置いた。
(なるほど、後手番はチェスクロックを右か左か選べるのか)
右利きなら、チェスクロックは自分の右側に置いた方が、一手指した後のタイムラグが少ない。
あまり気にしたことはなかったけれど、細かいな、と感じた。
「では」
と高槻さんの声。
「「「お願いします」」」
双方であいさつを交わし後手番がチェスクロックを叩く。
試合開始だ。
僕は「▲7六歩」と角道を開ける。
相手はすかさず「△3四歩」と角道を開けた。
自分と相手の角がにらみ合った格好となる。
(角交換やってみる?あまり指したことないな)
と数秒悩む。
(まずは一勝だ)
と悩みを捨てて、「▲6六歩」とした。
角交換を拒否して、矢倉囲いの構えだ。
相手には僕の戦法はまだわからない。
「矢倉囲い」「雁木囲い」「振り飛車」
3手目でだいたいこの3つの戦法に絞られる。
相手は「△8四歩」としてきた。
(居飛車戦だ)
相手の戦法はほぼ決まった。
こちらも「▲6八銀」と矢倉の構え。
「△8五歩」「▲7七銀」「△7二銀」
と手数が進む。
(棒銀? 歩を突くのはまだ早いかもしれない)
「▲7八金」と指す。
これで「相居飛車戦」は確定しただろう。
相手はすかさず「△8三銀」と銀を進めて攻めの姿勢を見せる。
(攻めが早い。受けきれるかな)
少々不安になりながら、少し時間をかけて考えた。
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