第11話 団体戦!②(予選1戦目)
ご覧いただきありがとうございます。
おかげさまで9日連続投稿できています。
ご覧になってほしい年齢層を改めて検討し、タイトルを変更しました。
チェスクロックから時間が進み始める。
相手は「3四歩」と角道を開ける。
(※達也は後手番ですが、達也視点で地点を書いてます)
居飛車であれ、振り飛車であれ角道を開けるのは普通の手。
僕も「7六歩」と応じる。
ここで相手は3択。
角交換、飛車先の歩を突く、角道を止める。
角交換は互いに序盤から大駒が手に入るのメリット。
いつでも打ち込む(打ち込まれる)ので、ミスを誘発しやすい。
飛車先の歩を突くのは、相手は居飛車を主張する。
4四歩と角道を止めるのは雁木居飛車、振り飛車主張、僕の手を見て決める算段かもしれない。
3手目を見るだけで、数ある可能性からいくつか戦法が消える。
相手の手を見て、こちらも攻め方を考える。
人間VS人間、は「先手有利」と言われているが、戦法を明らかにするのはだいたい先手なので、対策が練られる後手番が絶対不利なのかと言い切れないのが面白いところ。
だけど、
僕は基本「棒銀」しかない。
棒銀で攻めたい。相性の悪いらしい「中飛車」「三間飛車」は避けてほしい。
と考えている時に、「4四歩」と相手は角道を止めてきた。
この一カ月、高槻さん、茨木さんと延々と指し続けてきた内容だ。
(四間飛車になってください)
とお祈りをささげるように、飛車先の歩を突く。
こちらは居飛車の主張である。
手数が進む。
相手はお祈り通り「四間飛車」を指してきた。
(よし)
これなら、僕の狙い通りに事が進む。
学校での特訓が生きてきそうだ。
僕は「船囲い・4六銀(左)急戦」で挑む。
この形は「棒銀戦法」に似ているので僕としてはかなり好きだ。
似ているってのは、どちらも先に攻められるから。
相手は僕の攻めたいって気配を感じたのか、序盤に時間をかけてきた。
将棋って盤面しか使わないのに、攻めたい気持ちが伝わる。
とても、面白い。
「3二飛」
相手は受けを選択したみたい。
うん、じゃあ、いってみようか。
「4六」に銀がいることを確認して・・・・
「3五歩」
僕の作戦は相手の角の頭から攻撃を仕掛ける。
僕の歩を相手の歩にぶつける。
相手はその歩を取り込まない。
(やっぱり強い)
思い通りの局面にならない。
そのならないのがたまらない。
(ならば!)
「3四歩」
と、相手が応じなかった歩を取り込む。
相手は待ってましたと「同銀」で応じる。
相手の角の頭に銀がいる。
この銀は今無防備状態。
そして、「3八飛」と銀取りを睨む。
相手は「4二角」と「3二」の飛車で「3四」の銀を守る。
(ここで!)
会心の「4四角」
相手の歩を取って「1一」の香車と角成を狙う。
相手は少々焦ってきたようだ。
序盤は一本取った!と思う。
手数が続いて中盤戦。
飛車交換からお互い敵陣に飛車をおろす。
この状態はどちらかと言えば、僕が不利だ。
相手の「美濃囲い」と僕の「船囲い」では美濃囲いの方が固い。
知らない間に形勢は逆転されていた。
(まだまだ)
勝負は玉が詰むまでわからない。
わからないけれど、良かったはずの序盤をいつの間にかひっくり返された地力の差を埋めることはできなかった。
「参りました」
僕は頭を下げた。
感想戦をする。
相手の子は5級だった。
僕が指した悪手をいくつか教えてもらった。
「ありがとう」
僕がお礼を言うと相手は少し嬉しそうだった。
「惜しかったね」
高槻さんが声をかけてくれた。
そういえば、両サイドでも対戦をしていたんだった。
集中しすぎていて、忘れていた。
「高槻さんはどうだったの?」
僕の敗戦で後二人は負けられない。
「ふっふっふー、ばっちり勝ったよ!」
と、高槻さんは喜んでいた。
「おめでとう、すごいね」
僕は本当に感心した。
「この一カ月の特訓の成果だわ!」
そして、茨木さんの方へ目を向ける。
残り時間、それぞれ2分弱。
二人ともとても集中している。
バチっと強い駒音、そしてダンとチェスクロックをたたく音、どちらも激しい。
盤上は・・・
双方いまだに玉の囲いが遠く、とても残り2分で攻め切れるとは思えない。
ドキドキと高槻さんと経過を見守る。
相手チームも盤面に集中だ。
周囲には観戦者もチラホラと。
バチッダンッ、バチッダンッ・・・・
音だけが響いていく。
そして、
「まいりました」
と、相手が頭を下げた。
「ありがとうございました」
茨木さんも頭を下げる。
(す、すごい)
茨木さんは背もたれに身を投げ出し、「ふぅぅ」と一息を入れた。
「水無瀬君、頑張ってたからね。絶対負けたくないって思ったの」
茨木さんがにっと白い歯を見せて万遍の笑みを浮かべた。
「優ちゃん、やるねー」
高槻さんがねぎらう。
「なんとか、2勝1敗だね、予選通過まであと1勝!」
この二人、本当に強かったんだ。
いや、負けてばっかりだし、強いのは知ってた。
知ってたけれど、すごいなぁ。
「15分ほど休憩があるみたいね。ママのところにいこ?」
高槻さんが対戦カードを受付に提出して、皆でママの居るところに向かった。
「皆、おめでとう!」
親たちは僕たちを褒めて労ってくれた。
僕は負けてしまったけれど、次こそ勝ちたい、そう思うほど士気が高まっていた。
(二人にいいところをみせたいな)
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