第1話 おとーたんと将棋
はじめまして、初めて執筆します。
将棋を知らない方をターゲットにしています。
将棋の「何を考えたらわからない」に着眼し、【1手指すことに何を考えているのか】を表現していこうと考えています。
将棋はゲームです。勝てば確かに気持ちいいです。
ですが、勝ち負けに越える面白さもあることをお伝えできれば、と思います。
細かい戦略はプロの方にお任せいたします。
「おとーたん、これなぁに?」
その頃の僕はとても小さかった。
見えるものすべてが楽しそうなお宝に見えた。
「これは、将棋というものだよ」
家にあった不思議なモノ。
テレビのようにヒーローが動いてわくわくさせるものではない。
お菓子のように甘くて幸せな気分になるものではない。
それでも初めて見るモノに僕は興味津々だった。
「おとーたん、教えて?」
新しいものがあれば必ずこう聞いていた。
そして、父親は必ずこう答えた。
「わかった」
この日は駒の並べ方と動かす順番だけ教えてもらった。
「じゃあ、指そうか。順番にやるんだけど、好きに動かすといいよ」
「はーい、じゃあ僕からだ」
父親と交互に駒を動かしていたが、今思うと、ルール通りに動かしてなかった。
それでも、父親はニコニコして僕の相手をしてくれていた。
勝ち負けはなかった。
もちろん、どうやったら勝ちなのかすらわからない。
ただ、珍しい駒をぱちぱちと動かして遊んでいた。
自分が動かせば、相手も動く。もひとつ動けば、相手ももうひとつ。
一人遊びではないので、すごく楽しい。
こちらが動けば、相手が反応してくれるからだ。
しかも、自分の思い通りに動いてくれるとは限らない。
ある程度のストレスをためつつ、これがスパイスとなり、相手が思い通りに動いたときにこのストレスが一気に解放される。これがたまらない。
しかし、ルールはまだわかんないんだけど・・・。
「あなた、ご飯の準備お願いね」
「ああ、わかった」
このことばがいつも終わりの合図。
ゲームの終わり方もよくわかんなかったが、父親と一緒に遊んだ満足感がそこにあった。
それから、次の日も次の日も父親とこのゲームで遊んだ。
いつか、同じマスに駒がぶつかれば、駒が取れることを知った。
またいつか、取った駒は好きな場所に置けることを知った。
しかし、相変わらず、まだ駒の動かし方や決着のつけ方はわからない。
父親の動かすのを真似ながら、時々「あってる?」と聞きながら指す。
彼は、間違っているとは一回も言わなかった。
だから、楽しくてぱちぱちしていた。
父親も楽しそうに相手をしてくれていただろう。
「将棋は勝ち負けも楽しいが、やっぱり会話だね」
よくわからなかったが、ことあるごとに彼はそう言った。
勝ち負けになった記憶は一度もなかったが、その一言が今も心に残っている。
御覧いただきありがとうございます。
私では気づかない、拙い表現などご指導いただければ、とても嬉しいです。




