第2話 決別と前世の記憶
目をパチリと開いて私は天蓋付きベッドから降りる。
「懐かしい夢見たな」
『どんな夢見たのー?』
「なんでもないよ」
私の住む家は森の奥。豪邸?んなもんとうの昔に逃げ出したわ。
私の擬態は結局 精霊王アルラウネ。精霊とは神に仕える魔力の具現化であり、気まぐれな生き物。ただ、精霊に許された者は強力な魔力を手にすることが出来るし、自然もその者の味方になる。
「さて、今日は何しようかな」
そんな精霊の王である私は暇なのだ。
衣食住は余裕があるし、私の能力はほぼ最上位サポートタイプ。森に何が襲ってこようとも守り抜ける自信はある。
暇な私は食事を取って精霊たちと戯れていると、この森に人が入ってきたようだ。しかも大勢いるみたいだ。
「なんの用?」
「アル!!久しぶりね!」
「·····アテナ姉様」
思わずため息が出てしまった、が仕方ないだろう。
その大勢の人間の先頭に立つ金髪で赤眼の異様に自信家のようなオーラが溢れるバ···頭が凄い女の子、それは私の双子の姉であり、闘神の擬態を手に入れたアテナ姉様である。
私はあの日、見捨てられた時から家族とは決別したため二度と会うことは無いとこちらから申し付けたはずだが···。
「私はもう会うことは無いと申したはずよ」
「そんな堅苦しいこと言わないで!!私達は双子の姉妹でしょ?」
「ふざけないで。あなたがこんなに大勢の人を連れてきたのは···精霊の主導権を握るためでしょう。」
精霊達はさっきからこの人たちを見て怯えている。精霊達は各自が魔道士レベルなので怯えることは無いのだが、怯えるとすれば私の身に何かを及ぼそうとしているとき。
私の擬態 アルラウネを奪われれば主導権は無くなり、アテナ姉様はその時を狙って権力を使いこの座に着く。
それが大まかな狙いだろう。
「もう、姉妹なのになんでこんな邪険な雰囲気になるのよ」
「精霊達はあなた達を見てビビってる。私の精霊王の座を奪い取る気なんでしょう?アテナ姉様」
「···ま、バレてるならいいか。あんた達戦神アテナの名の元にやってしまいなさい!」
この瞬間、私は何故か物凄い頭痛に襲われた。
それとともに走馬灯のように映像のようなものが脳内に流れてくる。
これは·····前世の記憶!?
そして、アテナ姉様の顔も見覚えがある。それは家族としてではなく·····ゲームのキャラとして。
アテナ=レヴェンカは戦神を持ち、幼少期に死にかけの愛神 ヴィーナスに恩恵を受け、その後愛され女子となった所謂ヒロイン。
私、アルラウネ=レヴェンカは幼少期、戦神を受け取れず擬態による後遺症を持ち···後に精霊王として精霊をすべる王となる悲劇のヒロイン。
そして、この状況はアテナ=レヴェンカが悪者に騙され私をここから追い出し精霊王の座に無理やり着いてしまう·····結末だ。
「それだけは··ダメ。森羅万象をすべる精霊王の名の元に、自然は我を味方とする!!」
私は擬態化を行い、擬態 精霊王アルラウネに変化した。前世の記憶だと、アルラウネは姉に驚くばかりで擬態化する前に殺されてしまった。
だけど、この世に生を受けた身。死ぬ訳には行かない。
「精霊よ、我らの聖地を守るのだ!!」
『任せてよー!』
『あんな奴ら大っ嫌い!!』
下級精霊達がアテナ姉様の部下に向かうと、大豪炎、大洪水、大地震の上級魔法を繰り出していた。私はアテナ姉様の方へ向かう。
「アテナ姉様、絶対設定の掟には、自然の王に干渉するもの死罰とすると記載されてましたよね」
「な、何故あんたはそんな冷静に対処出来るの!?あんたはあんなビビりだったのに·····」
私はあの日、謎の激痛の中家族に見捨てられたことによる悲惨な気持ちに包まれていた。その後、激痛を乗り越え私は擬態化を手に入れ、精霊たちに祝福され、家族がいつの間にか最も嫌いなものになっていた。
「最も嫌いなものに対して何故私は冷静さを欠けなければならない?それも精霊たちを害される寸前の場で。」
「ちっ!!残念だけど絶対設定は愛神に愛された私には効かない。それくらい知ってるでしょう?」
そう、一番厄介なのは愛神の恩恵だ。
愛神は生きとし生けるもの全てに愛され、生き物の中で掟神の次に絶対設定が効かないものとされていた。
その恩恵を受けてるならば影響されないだろうが·····
「あなたはこの日より、全ての精霊の加護を剥奪します」
「な、何よそれ」
「···精霊の加護は全てを支えてくれる器。その器を取られた今、あなたは自然の恩恵を受けず魔法を使えず···武力のみで闘うのよ。」
つまり彼女の聖剣も効果をなさず、光剣も発動することが出来ない。戦神の擬態があるとしても彼女はただの武人と変わらないのだ。
「ちょ、姉に向かってなんてことを!!」
「精霊王の城を襲撃したのだからそれくらい当然よ。さぁ、終わりよ帰りなさい」
私は上位魔法 一斉転送でここにいる奴らを全員王都に返してやった。
全員去ったその時、激しい動悸が私を襲う。
「はぁはぁ···」
『アル様!神の加護を奪ったから体が!』
『早くそれ泉に返さないと!』
「うん···分かってるから···。」
私は胸をきつく抑え、壁伝いでここのもっと奥にある精霊神の泉へ向かった。
ここには数多の魂が納められ、皆は輪廻を潜りまた生き返ってくる。
私はアテナから奪った神の加護を泉に投げ込んだ。
「た、助かったぁ···」