第39話 別れは茜色と共に
「僕は君に許されないことをしたんだ。僕はどうしたらいい?」
有悟君はそう話をまとめる。
私は有悟君の正面に座り直し、今にも泣きだしそうな有悟君の頬にそっと触れる。もちろん実際に触れれるわけではないが、それでも感覚はきっと共有できているはずで――。
「有悟君。もう一度聞くよ? なんで君は犯人が分からないと結論付けたの?」
「……きっとこれ以上罪を重ねたくなかったんだ。僕は僕が好きな朱香さんを……僕を好きだと言ってくれた朱香さんをこれ以上裏切りたくなかった……」
「私のためなんだ……ありがとう」
有悟君は私の手にそっと包み込むように上から触れる。その手から感じるはずのない温度を感じながら、
「ねえ、有悟君。私は幽霊になってまで遣り残したことがあったんだよ」
と、言葉にする。
「それは僕に復讐することかい?」
「ううん。違うよ」
「じゃあ、何?」
「私には二つ心残りがあったんだ。一つは自分の気持ちを君に伝えること。私はちゃんと君の事を見ているよ。私は君のことが好きだよと、有悟君に伝えたかった。それはけっこう早い段階で叶っていたんだ。そして、もう一つも今日叶ってさ――もう私がここにいる理由は……」
「そんな……それで、もう一つはなんなの?」
私は額を有悟君の額にそっと寄せる。そして、できるだけの笑顔を作る。
「それは、有悟君が――心から自然に笑えますようにってことだよ」
「なんでそんなに僕のことばっかり……」
「決まってるじゃない。私は君が――戎谷有悟君が好きだからだよ」
有悟君は私の顔を見て、涙がスーっと流れる。
「ねえ、僕はこれからどうしたらいい? 僕は君に許されないことをしてしまった……どうしたら君は僕を許してくれるだろうか?」
「何をしても私は君を許すことはないよ。絶対に許してなんかあげない。その罪を抱えて、命尽きる時まで精一杯生きて。そして、私の分もいっぱい笑って?」
「君がいない世界で笑えって、朱香さんは無茶言うね」
有悟君は涙を止めることなく力なく笑う。私も笑い返しながら、
「うん。最期のお願いなんだからこれくらい我儘いっても、有悟君なら許してくれるよね。なんたって私の最初で最後の恋人なんだもの」
「そうだね……僕にとっても朱香さんは最初の恋人だ。ただ最後の恋人だと言い切るには僕の人生はまだ先が長すぎる」
「別の人を好きになっても時々は私のことを思い出してくれると嬉しいな。というか、忘れたら化けてでてやる」
「もう化けて出てきている人がそう言うと説得力が違うね。でも、僕が君の事を忘れるような人間に見えるかい? こう見えて、僕は記憶力はいい方なんだ」
「知ってるよ」
有悟君の涙はいつの間にか止まっていて――今日何度目か分からない自然な笑顔を浮かべている。
「ねえ、朱香さん。僕は君が好きだよ。僕はいつか君にまた会えるだろうか?」
「生まれ変わったらきっと会えるよ。だから、生きることを諦めないで。死ぬまでがんばって生きてよね」
私はそっと有悟君から離れて立ち上がる。太陽はもう遠くに沈みかけていて――その光が夜の闇に完全に溶けてしまう前に、最期にもう一度、有悟君に気持ちを告げる。
「有悟君、ありがとう。大好きだったよ」
有悟君はどんな顔をして私を見ているだろうか?
私を心配させないように笑顔でいるのだろうか?
それとも、私との別れを惜しんで泣いてくれるのだろうか?
――どちらであっても、きっと彼は大丈夫だ。




