第32話 迷宮入りする事件
沙苗は時に楽しそうに、時に寂しそうに話してくれた。
話を聞いていて、沙苗の私への想いを知って、嬉しさと申し訳なさから涙が自然と零れた。
「これが私の知っていることだよ。事件に関係のありそうなことで知っていることはこれで全部。まあ、関係ない話も混じっちゃったけどね」
沙苗は有悟君に笑顔を向ける。
「とりあえず、二人とも話してくれてありがとう。本当に助かったよ」
「ふんっ。まあ、これで俺と吉川は事件に関係ないと分かっただろう?」
「まあ、話を聞く限りそうみたいだね」
島野君はなぜか勝ち誇ったような目で有悟君を見ている。
「それで戎谷君は朱香の事件のこと、何か分かってるの?」
「事件のあらましはね。ただ犯人だけはね……」
「そう……もし犯人が分かったら私にも教えてね。聞いても何ができるわけじゃないけどさ、大事な親友を手にかけた相手を私は一生許さないと胸に刻み込みたいから」
沙苗の声は震えていて――有悟君は首を縦に振る。
「ああ、戎谷君がこんな人だと知ってれば、もっと早くに話しかけたりしたのにな。そうすれば、朱香も私に付き合ってたこととか隠さないでいてくれたのかな? それがちょっと心残りだなあ」
沙苗は楽しそうな、でも残念そうな声を上げる。
もしそんな風にもっと前から有悟君と仲良くなっていたら、きっと沙苗のことだから有悟君に勉強面で頼りにしまくって、迷惑をかけていたことだろう。
そうなれば美菜はいつも以上に沙苗のストッパーになっているかもしれないし、有悟君は迷惑を迷惑とも思わずに淡々と表情を変えずに沙苗の相手をしているかもしれない。
そして、有悟君の横で笑う私がいて――――。
そんなことはもうありえないけれど、そういう未来――もう私は死んでいるのでそういう過去かもしれないが、そんな生活もあったかもしれない。
ほんの少しずつ何かが違っていれば、全然違う今があったのだろう。
その後、三人は口数少なく食事を済ませた。店の外に出ると、沙苗は有悟君に向き直った。
「私と島野はこれからまたそのへんブラっとするけど、戎谷君はどうするの? というか、何しにここらへんに来たの?」
「僕はここに来たのは時間潰しかな……これから、朱香さんの家に行こうと思っているよ」
「そう、朱香の……私も近いうちに家に行かせてもらいたいと朱香の両親に伝えておいてくれる? 何度か朱香の家にも行ってるから私のことは名前を出せば分かるはずだから」
「わかった。伝えておくよ」
沙苗は有悟君に「ありがとう」と微笑むと、
「じゃあ、また学校でね。戎谷君」
と、手を振って、島野君と共に人の波に消えていった。




