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茜色の世界へ、君に会いに行く  作者: たれねこ
Day 3 10月13日(土)
25/40

第25話 戻りつつある絆

 またしても二人の間には沈黙が訪れる。お互いに時折、観察するように視線を相手に向けながらコーヒーをすすり、まるで腹の探りあいでもしているかのようだ。

 秀介さんがポットからコーヒーを自分のカップに注ぎ、

「ユウ、お前もおかわりいるか?」

 と尋ね、有悟君もそれに甘えコーヒーを注ぎ足してもらう。

「そういやあ、ユウ。紗和子さんから聞いたぞ。またギター弾きだしたらしいじゃん」

「たまたま気が向いたからだよ」

「なあ、久しぶりにお前のギター聴かせてくれないか?」

「……いいけど、僕の下手な演奏聴いてどうするつもりなの?」

 秀介さんは笑顔を向けながら、

「別にいいんだよ。俺はユウの弾くギターの音が好きなんだからさ」

 と、本心からの言葉のように言い放つ。

「本当はまた一緒に弾きたいけど、俺のは下宿先に持ってい行ってるからなあ。あっ、なんならユウのギターに合わせて、歌ってやろうか」

「いいよ、そこまでしなくても……」

 有悟君の肩が小さく揺れている。顔は見えないから分からないけど、笑っているのかなと思った。

 そして、有悟君と秀介さんはカップを手に有悟君の部屋に向かった。私は二人のあとを付いていく。

 有悟君が先に秀介さんを部屋に入れ、自然な形で私も部屋に入れる時間を作って待ってくれる。

「相変わらず生活感の薄い部屋だな」

 秀介さんはそう言いながらカップをテーブルに置きながら座りこんだ。

「物が多いと僕は落ち着かないんだよ」

 有悟君も同じようにカップをテーブルに置き、向かい合うように座る。私は定位置になりつつあるベッドの隅にちょこんと腰掛ける。

 秀介さんは部屋を見回し、懐かしんでいるようだった。その視線がふとテーブルの上で止まる。

「なあ、ユウ。お前、まだこのペン使ってたの?」

 秀介さんは私の愛用していたブランド物のペンを摘みながら尋ねる。そして、私は秀介さんの言っていることを理解するのに時間が掛かる。

 有悟君も私と同じペンを持っているということなのだろうか――?

 私は有悟君がどう答えるのか気になり、静かになりゆきを見つめる。

「兄さん、そのペンは僕のじゃないよ。よく見てみなよ。それは赤と黒の二色だろ? 僕が持っているのは黒のボールペンとシャーペンの二本の芯が入ってるやつだよ」

「あっ……言われてみれば確かに」

 有悟君は部屋に掛かっているブレザーの内ポケットから同じデザインのブランド物のペンを取り出して、

「僕のはほらここに――」

 と、有悟君は秀介さんにペンを見せた後、すぐにブレザーの内ポケットに戻す。私の頭は目の前の状況に混乱する。

「じゃあ、このペンは誰のなんだよ?」

「それは――亡くなった安居朱香さんのものだよ。亡くなる前にたまたま落としたものを拾って、渡しそびれていたんだ」

「そうか……」

 部屋には今日何度目か分からない沈黙が訪れる。

「なあ、ユウ。今、お前の制服見て、聞きそびれたこと思い出したんだけどさ、俺の高校の時の制服知らないか?」

「制服? 僕は知らないよ。どうかしたの?」

「いや、別にいいんだ。久しぶりに自分の部屋のクローゼット開いたらあると思った制服がなかったからさ」

「きっと何かのタイミングで捨てたりしたんじゃない?」

「そうかな? ……そうだよな。あんなボタンもろくに残ってないような制服、何かと一緒に捨てたりしてもおかしくないもんな」

「そうだよ。兄さんの思い過ごしだよ」

 有悟君はギターを膝の上に置き、指のストレッチを始める。

「で、兄さん。僕は何を弾けばいい?」

「今のユウの気持ちにぴったりな曲で。さっきも言ったけど、合わせて歌ってもいいんだぜ」

「歌わなくていいよ。そういうことなら兄さんの歌える曲を選ばないといけなくなっちゃうから――それなら自分で弾きながら歌う方がまだいい」

「ほお? ユウが自分から歌うと言い出すのは珍しい。じゃあ、聴かせてもらおうか?」

「兄さんほど、ギターも歌も上手くないけど笑うなよ」

「笑わねえよ」

 有悟君は喉の調子を確認するようにせき払いした後、軽く発声練習をする。そして、私に視線を送った後、ギターに目を落として構えた。

 そして、演奏が始まった――。

 スローテンポの優しい音色の曲だった。有悟君の歌声は透き通って聴こえた。それが曲によく合っていて――。

 おそらく好きな相手を想って、嬉しくなったり悩んだりするそんな曲で――。

 歌詞の内容に私の気持ちもリンクしてしまい、思わず涙が溢れそうになってくる。

 有悟君の今の気持ちを表している曲だとしたら、これは誰に向けて歌われた曲なんだろうか?

 こんな素敵な曲があることを生前の私は知らなかった――。それがとても残念なことに思えた。

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