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茜色の世界へ、君に会いに行く  作者: たれねこ
Day 2 10月12日(金)
17/40

第17話 Day 0 村中大樹

 水曜日、つまりは十月十日の放課後。

 その日は月の第二水曜日ということもあり、美化委員の定例の活動日でもあった。美化委員の仕事は嫌いだった。そもそも委員になんてなりたくもなかった僕にとっては、苦痛でしかなかった。

 ただそんな委員の仕事も悪くないと思えたのは、もう一人の美化委員の安居朱香という存在があったからだった。彼女は、クラスで空気のように扱われ、面倒くさいことだけを押し付けられる僕のような存在にも話しかけてくれるし、微笑ほほえみかけてもくれる。委員の仕事では押し付けるのではなくフォローまでしてくれた。

 そんな彼女に、僕はいつしか淡い恋心を抱いくようになっていた。

 しかし、僕なんかがと思うと告白はできるはずもなく、ただ遠巻きに見ているしかできなかった。僕と彼女が話すのは毎月一回美化委員の活動の時だった。

 でも、僕はそれだけでよかった――。


 美化委員の定例会は、指定の教室に集合し、点呼を取ることから始まる。そこから分担が発表される。それはルーティンのようになっていて、今回は一年生が校舎脇に設置されているゴミ捨て場とその周辺の整理と清掃。二年生、つまり僕たちの学年は二人一組で四階から下に向かって各教室やその他設置されている清掃用具の点検、三年生は一階から上に向かって同様の作業をすることになった。それが全部終わり次第最初に点呼を取った教室に戻り、報告と再度点呼を取り、解散という流れになる予定だった。

 僕たち二年生はクラス毎でペアを組み、点検する場所の分担を決めて作業を始めた。

 僕と安居さんは中央階段付近の教室とその周辺の点検をすることになった。点検は掃除用具がいたんでないか、傷んでいたら補充する用具の種類と数をメモしていく。補充は清掃業者にメモを渡していれば清掃のついでに補充してくれることになっている。

 僕はいつも清掃業者をいれているのに掃除をしなければならない学校のシステムに疑問を抱いていたが、清掃の種類が違うことと自分たちの使う場所を自分たちで清潔に保つということは教育上必要なことだと言う美化委員の担当教諭の曖昧あいまいな説明で表向きは納得することにしていた。

 その日も点検は何の問題もなく順調に進んでいたように思えた。


 しかし、それはすぐに気のせいだったと思い知ることになった。

 教室から教室への移動の際、

「あのさ、安居さん。ちょっといいかな?」

 と、安居さんが美化委員でない男子生徒に声を掛けられたのだ。

「ごめん。今、委員会の仕事してる最中だから後にしてくれないかな?」

「そんなに忙しくしてるようにも見えないんだけど、少しの時間でいいんだ」

 安居さんは困ったような表情を浮かべる。そして、その男子生徒は安居さんには分からないように僕をにらみ付け、空気を読めと暗に強要しているようだった。

 僕はその男子生徒のことを知っていた。彼は二年D組の島野しまの康明やすあき。一年生のとき同じクラスで僕を空気のように扱いつつも都合よく使ってきた一人だった。

 僕は島野のことをよくは思っていなかった。しかし、変に絡んで面倒ごとに巻き込まれるのを恐れ、

「や、安居さん。僕が一人で点検の続きするから……」

 と、渋々提案する。「でも……」と安居さんは申し訳ないといった声を上げる。それを、

「村中もああ言ってくれてるんだし、ほんの少しだけなら問題ないっしょ」

 と、島野はこれでもかという笑顔を振りまきながら強引に安居さんを説得しようとする。安居さんは僕に助けを求めるような目を向けてくる。本当ならそれにこたえたいが、僕には島野に――周囲からの圧力という空気に逆らうという気概きがいは高校生活の一年半で根こそぎ奪われていた。

「行っておいでよ、安居さん」

 こともあろうに僕は島野の側について安居さんの背中を押してしまった。

「……分かった。でも、すぐ戻るからそれまでお願いしていいかな?」

 安居さんは僕に困ったような表情で笑いかける。僕は無言でそれに頷いた。僕は安居さんから点検のチェック事項の書かれたメモを受け取る。安居さんは中央部にチェック柄の装飾そうしょくの入ったブランド物のペンを胸ポケットにして、大きく息を吐いていた。

 僕は次の教室の点検に向かいながら、安居さんが島野に連れられて下の階に降りていくのを遠目に見ていた。

 その数分後、どこからか何度か大きな音が反響して聞こえてきた。僕はその音を特に気にせず、点検作業を続けた。


 安居さんはその後、戻ってくることはなかった――。


 僕はあんなことをしたから嫌われてしまったか、呆れて先に帰ってしまったのかもしれないと悲嘆にくれながらも一人で残りの作業を完遂させる。一通り点検を終え、他の同学年の美化委員と合流し、メモを統合させている最中に、

「そういえば、安居さんは?」

 と、聞かれるが、「後で戻ってくると思う」と、だけ伝えることしかできなかった。

 その後、美化委員の定例ですることは全部終わり、点呼を取ることになった。

 しかし、安居さんは戻ってはいなかった。そこで同じクラスの僕が責任を取って自分のクラスで鞄の有無、下駄箱で靴の有無を確認することになった。そして、そのどちらもまだあった。

 僕がそのことを戻って告げると、美化委員の委員長の三年生の女子生徒が、

「あのー……みんな。申し訳ないのだけど安居さんを捜すの手伝ってくれないかな? とりあえず一通り見たらまたここで集合でいいかしら?」

 と、声を掛ける。それに何人かはけだるそうな返事をし、散り散りに安居さんを捜しに教室を後にした。

 三十分後、美化委員総出で捜したにもかかわらず、安居さんは見つからず、顔を真っ青にしながら頭を抱えた委員長が、

「じゃあ、いなくなったことを報告しないといけないから彼女のクラスと名前もう一度教えてくれる?」

 と、メモを片手に僕に尋ねてきた。

「二年C組の安居朱香さんです」

「ヤスイアケミさんね……」

 委員長は大きなため息をついてから、

「それじゃあ、私はこれから職員室に行って、このことを報告して来ます。時間に余裕がない人以外はこのまま待機していてください」

 と告げ、教室を出て行った。委員長が教室を出てしばらくすると三年生の半分以上が席を立った。一、二年生は立場的に席を立つわけにもいかず、ひそひそと話をしながら重苦しい空気に精一杯(あらが)っていた。

 しばらくすると、校内放送で『二年C組の安居朱香さん。至急、職員室の磯崎いそざきのところまで来るように。繰り返します――』と、呼び出しが掛かる。

 その校内放送から五分と経たないうちに、委員長が広谷先生ら数人の教師と用務員を引き連れて戻ってきた。

 広谷先生の指示で数人のグループに分けられ、分担して安居さんの捜索をすることになった。

 僕は安居さんを捜しながら、安居さんと離れた時のことを言おうか迷っていた。しかし、結局言い出すことはできなかった。

 そもそも話を切り出すというのが苦手だし、仮に話してもどうして早く言わなかったのかと責められるのが目に見えていた。

 一回り終えると生徒の半数が予備校などの予定で帰った。代わりに、先生が加わり捜索が再開された。僕は途中でトイレに行くと言って一緒に探していたグループから離れた。

 どうしても安居さんと別れた中央階段付近が気になってしまっていた。これだけ捜してもいなかったということは普段誰も行かない四階より上――つまりは、屋上かなと思った。

 四階から階段を上がって、屋上へと続く扉の前に広がるスペースに行き当たる。ここは掃除用具の備品が置かれているのは知っていたが、来たのは初めてだった。薄暗いなかで床の隅に見覚えのあるペンが落ちていることに気が付いた。

 それを拾って下の階から漏れてくる光を頼りに目をらす。それは中央部にチェック柄の装飾の入ったブランド物のペンで、安居さんが使っているのを委員会の活動中に見たばかりだった。

 安居さんはここに来ていたんだという、確証に近いものを感じる。僕は一番怪しい屋上へと繋がる扉のドアノブに手を掛ける。ゆっくりと回し開けようと試みるが、ガタンッという鍵が引っかかる音がして開くことはなかった。

「そりゃあ、そうだよな……」

 屋上は生徒は立ち入り禁止だし、鍵の貸し出しも基本していない。何かの部活で全国大会に出場したか、結果を出したかで垂れ幕を設置するときに入ったということをクラスの誰かが話しているのを聞いたことがあるくらいだ。

 それにここの空間もすでに誰かが見て回っているだろう。そんなことも失念していた。自分のふがいなさに肩を落としていると、パチンという小さな音とともに、電気がいた。それにビクッと体を強張らせていると、階段の方から、

「あら、こんなところでどうしたの?」

 と、声を掛けられた。僕は思わず手に持っていたペンをズボンのポケットに押し込んだ。声の主の方に振り向くと、清掃業者の制服を着た中年の女性で――。

「えっと、人を捜してて……」

「そうなの。今日、何やら騒がしいというか先生方が気を張ってらっしゃったのはそれが原因かしら?」

「たぶん……」

 清掃業者の女性は紙を見ながら補充する備品を掃除用具入れから出している。僕はその様子をなんとなく眺めていた。そして、別の掃除用具入れの扉を開けると同時に、その女性の大きな悲鳴が響いた。

 そのまま女性は床に力なくへたりこんでしまい、恐怖に唇を震わせていた。僕は近づいて悲鳴の原因を見つめ、声を失った――。

 掃除用具入れの中には、安居さんがぐったりとした姿で入れられていた――。

 僕は直感的に死んでるなと確信できた。それと同時に、足の裏と床が強力な接着剤で固定されてるんじゃないかと思うほど足が動かなくなった。

 悲鳴を聞きつけて人が集まってきて、あっという間に人だかりが出来上がる。そして、安居さんの姿を見るやいなや、いさみ駆けつけた足は止まってしまったようで誰も近づけないで見ているだけだった。そんななか少し遅れてやってきた小崎先生が安居さんを掃除用具入れから床に移動させて、呼吸や脈をているような仕草をしたあと肩を落としていた。


 それからすぐに警察と救急車がやってきた。

 僕を除く生徒はすぐに解放され、僕だけは第一発見者ということで話を長く聞かれることになった。

 僕は警察に、美化委員の活動中に安居さんと別行動になったこと、その後全員で安居さんを捜したこと、安居さんと別行動になった理由として島野に連れられて言った事を告げた。ただ、話すのが苦手な僕はそれだけを伝えるだけに多くの時間を費やしてしまった。警察は僕がそれ以上を知らないと分かるとすぐに解放してくれ、広谷先生に気をつけて早く帰るようにと言われたので、真っ直ぐ家に帰った。


 翌日とその次の日、つまりは昨日と今日、学校を休んだのは精神的に疲れてしまっていたのか、熱が出てしまったからだった。今朝方には熱は引いていたが、学校に行こうと思い着替えていたら、安居さんの死に顔を思い出してしまい、行く気が失せてしまったのだ。

 親にそのことを話すと休むように言われて、家でのんびりすることにした。

 そして、昼過ぎに思いもよらない訪問者がやってきた――。

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