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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
出会い
9/43

夕暮れ時の変化と決意

暗がり始めた空の下、出店のクレープ屋で、少し休憩。


「どっちがいい?チョコバナナとストロベリー」


ここのクレープ屋さんは2種類しか置いてないみたいだ。

ベンチに座る結衣に、聞いてみる。


「ストロベリー!」


「りょーかい。ちょっと待ってて」


お兄さんにチョコバナナとストロベリーを1つずつ頼む。


「はいよ!兄ちゃん、割引しといたからね!」


看板をみると恋人割引という文字。

……側からみるとそう見えるのか。

少し気恥ずかしくもなりつつも、

否定するのはおくうだな。

俺はお兄さんからクレープを受け取って、

結衣の元に戻った。


「ありがとうございます!」


俺は手渡した後、彼女の横に腰を下ろして、チョコバナナを口にする。


「おっ……美味いです。ここ前から気になってたんだ。有宇さんって甘いの好きですか?」


「うん。甘いの結構好きなんだ、結衣は?」


「私も好き、です」


「……あざとい」


結衣はあざとくないですー!と不貞腐れながらもクレープを一口食べ、

また幸せそうな顔をする。

本当に好きみたいだな。


「ストロベリーは美味しい?」


「美味しいですよ!……食べる?」


すっと彼女の口からとんでもないワードが飛ぶ。

……『食べる』だと?

今の中学生は間接キスというか……その辺の扱いは一体どうなってくるんだ。


「有宇さんって初心ですよね。可愛いです」


「む……じゃあ、ちょっと貰う」


つい売りことばに買い言葉みたいな事になってしまった。

あっちがいいならいいのかな?


「はいっ!」


赤い果実の乗った、香ばしい匂いと共にクレープを俺の口元に持ってきてくれる。

美味しそうだ。

俺はそのまま結衣が食べかけていた部分を避けつつ齧りつく。

新たな歯形がクレープに残り、

恥ずかしさから俺はもぐもぐと頬を膨らませる。


「あ~!すっごい食べられた!」


「……んへっ?だっで、たべていいっふぇ」


「もう……ちゃんと飲み込んでから、でしょ?」


結衣が穏やかに微笑んで、俺の膨らんだ頬にそっと指を当てる。


「クリーム付けちゃって……子供みたい」


さりげなく頬に触れられたからか、

それについて何も言えなかった。

そんな俺をくすくすと笑う。

指先に付いたクリームを彼女はぺろりと舐めた。


「悪い!」


「いえいえこんなの大した事ないですよ……ふふ、かわいっ」


……さりげなくかわいいって2回も言われたような気がした。

しかし俺はタイミングを掴み損なってスルーしてしまう。

まぁいいか。


「有宇さん。次、それちょーだい」


「え?ああ……」


俺が包み紙ごと結衣に手渡そうとすると、


「あ~ん」


瞳を閉じて、大きく口を開ける結衣。


「……食べさせろって?」


「ふふーん、そうです!わたしはやってあげましたよ?」


「ぐぬぬ……はは、分かったよ……はいっ」


自慢げに胸を張る結衣の口元に今度は俺がクレープを運ぶ。

もう完全にカップルの立ち振る舞いである。

口内のクリームと一緒に、そのうち溶けるかもしれない。

なんてな、認めないけど。


「……チョコ、付いたよ」


「……へ、ほんと?どこ?」


「このへん」


俺は自分の唇の端を指しながら答える。


「……じゃあ、お返しして」


「お返し?」


「……取って、下さい」


結衣が、綺麗な瞳で真っ直ぐ俺を見つめてくる。

口がぽかんと開いてしまうくらい綺麗な視線に、

淡い魔法をかけられて。


俺は彼女のチョコを人差し指で取り去った。


「……ほい、取れたよ」


「ありがと」


指先のチョコを見つめながら、

俺はぐっと手に力を込める。

結衣もさっきやってくれたが、やっぱり恥ずかしい。

舐めるか。……舐めないか。

ジャッチメント。


「指、舐めちゃいますか?……あ、それとも」


結衣が肩にかけた小さな鞄からハンカチを取りだして、俺に手渡す。


「いいよ、舐める」


俺は彼女の手を拒んでちゅっと指を吸った。

なんか微妙に気まずくなる音である。


一気に疲れたな?


俺達はしばらくベンチでだらりとしながら、景色を眺める。

家族連れはそろそろ帰り始める頃だろう。


「……随分と暗くなっちゃったな」


それに随分楽しんだ。


街ゆく人々の割合は、俄然若い男女が多くなってきた。

夜は恋人たちの時間ということらしい。


このロマンチックな空間で、俺と結衣はどう映っているんだろうか。

結衣との距離は、ちょうど一人分。

決して、恋人の距離ではない。

近すぎず、遠すぎない距離。

他人でもないし、かと言って友達とも言い切れない。

そんな中途半端な距離感に彼女はいて。

これっきりの関係なのだろうかと考える。

と同時に少し笑みが溢れる。

朝は早く別れる事を考えていたのに、今は少し別れを惜しんでいる。


それぐらいは距離が縮まったのかもしれない。


そんな事をベンチに深く腰掛けて考えていると、

一瞬、結衣と身体が触れた。結衣が近づいてきたみたいだ。

俺はぴたっと動きを止めて、彼女の横顔を一瞥する。

不自然なくらい真っ直ぐ前を見つめたまま、結衣は動かなかった。耳が少し赤い。


恥ずかしくて、嬉しくて。でも緊張して。

この甘酸っぱくて歯がゆい時間。

俺は悪くないなと、好きだと思った。


「そろそろ、帰りますか?」


「そうだね。可愛い服、見つかってよかったね」


「有宇さんの……おかげです」


「俺はただ見てただけだよ」


お互いの紙袋を向け合って、笑いあった。


今は朝、集合した噴水の前にいた。

有宇さんと結衣が胸の前で手を組んで見つめてくる。


「今日が終わったら……私達ってどうなるんですか?」


「どうなるって……」


赤の他人かそれとも別の何か。

それは俺も分からない事だ。

ただ、俺が理由もなく、結衣に会えるのかなと思ってしまう。

極力人間関係を省いてきた俺は理由がないと人と関われない性質になってしまった。


「来週も遊びましょって言っても、有宇さんは断りますよね?有宇さんには何よりも優先すべきものがあるみたいですし」


今日は私の我儘でなんとか開けて貰ったっぽいですし、と笑う。

確かに結衣の言う通りだった。


「よくわかるな?」


「だって今日1日中見てましたから……」


微笑む結衣の笑顔は美しくて、それ以上に儚かった。


「有宇さん?もし、私が物凄く頑張ったらご褒美くれますか?」


何も言えずにいたら、結衣は突然変な事を言い出す。


「どうなんですか?ご褒美くれますか?」


「……俺にできる事ならな。聞いてみるだけなら。結衣も言った後すぐいなくならない事。」


と言うと、前回の反省を思い出したのか、はーいと手を挙げる。


「では……2週間後のテストで100点取れたらご褒美下さい。」


「テスト?……学校の中間試験か?」


「はい!いつも7割、調子が良くて8割ですから少し厳しいですけど……それぐらい頑張ったらご褒美貰えますよね?」


結衣はその他に全教科平均点以上と言うのも付け加えていた。

100点取っても他が酷かったら意味ないとの事。


「結衣は案外自分に厳しいんだな?……そこまでするならちゃんとあげないとな」


結衣は跳ねるように喜ぶ。

そして拳をぐっと胸の前で握って、


「じゃあ頑張らないとですね!次のお出かけは有宇さんのプランで!」


「お、俺の?……分かったよ。だから頑張れ」


結衣が頑張ると言ったんだ。

もし結果を出せば、

労うのもそのプランを練るのも当然俺だな。



「はい!ではまたテスト明けですね!」


「はは、凄い自信だな」


「自信なんてないですよ?」


結衣は急いで信号を渡る。

渡りきった彼女は振り返り、


「でもまた会いたいですから!絶対取ってみせますよ、満点!ではでは〜」


満点な笑顔を向けて手を振った後去っていく。


「ったく……話の途中で帰るなって」


俺の家もそっち方面だったんだけどな……


「頑張れ」


俺はほんの少しだけ再会を期待しながら帰路に着く。


『あ、もしもし?お兄ちゃん?もうすぐお家つくの?』


一応電話してから帰る。帰ってきてもいいかを確認するためだ。


「うん、あと15分ぐらいで着くけど、帰っても大丈夫?」


『うん!できるだけ早く帰ってきてね!まってるから!』


嬉しそうに言葉を弾ませる紅葉に頬が緩んでいく。

分かったよと言おうとすると、


『え!?……帰っちゃ……じゃん!……いっしょ……はぁ……』


電話越しに誰かと話しているのが分かる。

お客さんがいたのか?

紅葉が入れたって事は叔母さんか叔父さんだな。


『あ、ごめんねお兄ちゃん!早く帰ってきてね!』


「あ、ああ……」


俺が返事をするとすぐに電話が切れた。

きっとお見送りしてるんだろうな。


「叔父さんか叔母さんだとしても駅に向かうだろうから」


少し歩みを早めればすぐに会えるだろう。

お礼言わなきゃな。



「あれ?……蒼井くん?」


「あ、石川さん、こんばんは」


帰り道の途中で石川さんに会う。

今日は同級生によく会うな。

どうやら買い物の帰りらしく、ビニール袋を手にさげていた。


「今日の晩御飯?」


「これ?……えっと、クッキー作ってみようと思って。その材料」


クッキーか。

石川さんなら美味しいクッキーを焼きそうだな。


「そっか。頑張って。石川さんなら美味しいクッキー焼けるよ」


「あはは、そうかな?そう言ってくれると少し自信湧いてくるかな」


期待されて恥ずかしかったのか頬を赤らめる石川さん。


「っと少し話し過ぎちゃったな。これから作るんだろ?」


「うん、でもそんな事ないよ。この時間だと晩御飯食べてからだから」


「そっか……じゃ、また明日学校で」


「うん!じゃあね?」


片手を挙げる俺に、胸の前で小さく控えめに手を振る。

5分に満たない時間だったけど充実したな。

やっぱり、怯えられていた人と誤解が解けてちゃんと話ができるのは嬉しい。



ーーパン!パン!


玄関を開けると花吹雪と火薬の匂いが俺を襲う。


「お誕生日おめでとう!!お兄ちゃん!」


ニコニコ笑う紅葉。

ああ……そういえば今日、俺の誕生日だったか。


「あ、そのお顔、お兄ちゃんまたわすれちゃってたでしょ?」


「うん……ありがとな紅葉」


頭を撫でる。


「へへへ、今日はもみじもおりょうり、てつだったんだ!ごうかなんだよ!」


「そっか!楽しみだな?」


リビングに行くと、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。


サラダに、ローストビーフ。

ビーフシチューとトロトロの卵のカーテンがご飯を覆う。

本当に豪華だな……叔母さんありがと!結局会えなかったけど。


16歳になる誕生日は色々と楽しかった。


昼間は連れ回され、思いがけない発見ばかりして楽しかった。

夜はこうして、家族が俺の誕生日をこんなに豪華で祝ってくれる。

今日で死んでしまうじゃないかってぐらい嬉しい。


俺は喜びと幸せを噛み締めながら、紅葉と食卓を囲んだ。





いつもお読みいただきありがとうございます。




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