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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
出会い
5/43

試練が訪れる同級生

新学期が始まってまだ2日目の昼休み。

クラスの中は倦怠感に包まれていた。

俺もその中の1人。


「よお……有宇。いつもに増して元気ないな……」


「ああ……お前もな」


ヨロヨロな秀。たぶん俺も立ち上がったらこうなる。

それぐらいの激しさだった。


「あのやろぉ……夏休みサボってなかったか確認するだけとか嘘じゃねぇか」


「たしかに……普通に試験だった。下手すると期末よりも多かったろ」


朝一番の1限目、担任の先生は宣言通りテストを行った。

科目は数学。

俺達はてっきり、サボらせない為とか、夏ボケ対策だとか思っていたが、

甘くなく、ガッチガチの真剣な試験だった。

進学校であるから、余程数学が苦手でなければ今回の赤点である40点以下は切らないとは思うが。


過ぎてしまった事はしょうがない。

今は昼休みだ。飯を食おう。

疲れを癒す為に俺は食べる物を用意する。

弁当箱を開けるとそこには昨日の黒焦げパンケーキ。


「うわ……どうしたそれ?寝ぼけて焼き過ぎたか?なんだそれ?」


「……パンケーキ」


「くくく!それホットケーキミックス使って作ったんだよな?あれ使って失敗するやついるのかよ」


腹を抱えて笑う秀。

まぁ秀は俺が失敗して、捨てるのが勿体無いと思って持ってきてると勘違いしているからこうなってるだけ。

最初から紅葉が焼いたものだと分かっていれば絶対にこんなこと言わない……はずだ。

そうは分かっていても、


「……少し黙れよ」


射抜く程の睨みを利かす。

秀に馬鹿にされるのは、俺もしているしお互い様だ。

それが俺達の昔からのルーティンみたいなもの。

しかし、紅葉を馬鹿にされるのは我慢ならない。


「あ、なるほど……今のは悪かった」


秀も俺が怒ることなんて紅葉の事ぐらいだと知っているから、

すぐに察しがついてやってしまったと頭を掻く。


「別に俺に謝られても……」


俺も我に返って、きまりが悪くなって、そっぽを向いてしまう。

悪い癖だな。


「ほらほら!喧嘩しない!するなら校舎裏とか見えないところでやってね!」


険悪な雰囲気を感じて仲裁に入ってくるポニーテールの女生徒。

腰に手を当てビシッとした姿勢で男にも物怖じしない。

委員長的な存在。実際は違うんだけど。

名前は……


「ち、違うよ、ひかりちゃん!これはちょっと俺のミスで……」


そう、朝日奈 ひかり……だったはずだ。

いつも石川さんと一緒にいる、お姉さん的な感じの人だ。

何でか、秀は朝日奈さんと話す時は緊張している。


「……喧嘩はしてない。気にしないでくれ」


「いやいや、いつもに増して機嫌悪いけど、どしたの?」


いつもに増しては余計だ。まるでいつも不機嫌みたいじゃないか?


「ひかりちゃん、数学のテストで疲れちゃっただけじゃないかな?ね?」


後からやってきた石川さんは私も散々だったよーと肩を落としていた。


「まぁ……そんな感じかな?疲れ取るために昼飯食べようとしたら秀に邪魔された、それだけ」


そう言いながらフォークでパンケーキを突き、口に入れる。

ドロッとしているが美味しい。


「うわ……どしたの?そのパンケーキ、真っ黒だよ?」


「いやいや!誰だって失敗はあるから!それを次に生かせばいいだけだから!な!有宇!?」


焦るように俺を宥めようとする秀。

さすがに誰彼構わずに怒ったりしないからな。

それにお前のは笑いすぎたからだ。

俺のだったとしても眉ぐらいは顰めてしまう。


「あ、もしかしてそれが昨日寄り道してた理由?」


石川さんは思い出したかのようにポンと手を叩く。


「まぁ……うん」


するとニコニコと頷いていた。


「そっかあ。そのパンケーキ、その人の手作りなんだ。だから美味しいんだね?蒼井くんの為に作ったんだから」


……練習の為にとは言わないでおこう。


「まぁな。外はガリガリ、中はドロドロだが、それでも一生懸命作ってたからな。その姿だけでも美味しく感じるよ」


1口貰っていい?と尋ねられて頷く。


「あ、ふふ。美味しいね?……私にも妹がいるんだけどね、同じように私の誕生日の時に作ってくれて……見た目は散々で妹は泣いちゃうし、大変だったんだけど……今まで食べたどのパンケーキよりも美味しかったって今でも思うんだ」


懐かしい思い出を慈しむように微笑む彼女に見惚れてしまい、


「……俺もそう思うよ」


こう言葉にするのが精一杯だった。


「お、皆いるな?おーい!注ー目!」


ガラッとドアを勢いよく開け、入ってきたのは担任の先生。

どうしたのだろう?


「追試者はここに貼っておくから見ておくように!範囲は同じ、数字を変えただけだから明後日までに勉強しとけー……あ、これテストな委員長配っておいて」


そう言うと風のように去っていった。

先生、相変わらず採点早いな。

大きなテストの時もそうだったが、小テストもその日の放課後には返されていた。

とはいえまだ1限分の時間しか経ってない。もしかしてこのテスト俺達だけ?


「ありえるな、それ」


俺の考えていることを察したのか隣で頷く秀。


テストが返ってくる。

結果は100点。まぁ当然だな。こんな所で躓いて特待生になれないのは痛い。


「あ、あああ……やっちゃった」


隣で俯く石川さん。どうしたんだろう……


「あーあ、だから宿題は早く終わらせなさいって言ったのに……あお、テストある事忘れてたでしょ?」


「ううう……完全に忘れてたよ。とほほ……」


掲示されたプリントを見ると3人の生徒の名前。

その中に石川さんの名前も……そんなにできなかったんだ。

まぁテスト勉強してなかったのなら仕方ないのかもだけど。


「あ!そうだ、蒼井くんってテスト100点だよね?」


当たり前のように聞いてくる朝日奈さん。

成績優秀だと言うことはこの半年でクラスでは共通の認識だ。


「まぁ、そうだけど、なんで?」


と聞くと、朝日奈さんは石川さんの肩を叩いて、


「あおのテスト対策してほしいなぁってダメかな?」


「ええ!?ひかりちゃん!?い、いいよ!蒼井くんに迷惑だよ!


「お、いいね!面白そうだ」


頼み込んでくる朝日奈。

驚いて顔を真っ赤で手をバタバタ振って遠慮する石川さん。

秀はニヤニヤと面白がっている。


「何を突然……石川さんだって困ってるじゃん」


「そんな事ないよ?ただびっくりしただけ……」


少し落ち着きを取り戻した石川さん。


「それで……お願いできないかな?」


たしかに教えることは自分の勉強にもなる。

石川さんだって今日明日で完璧になるのは難しい、

できる誰かに教えてもらうのは1番いい。


「ごめん……用事があるから」


手を前で切る。

紅葉を迎えに行かなければならない。


「少し遅れても大丈夫じゃ……ないですよね。はい。」


秀の言う通りでもあるが、

学校終わってからすぐ行っても2時間待たせているから。


「ほんとごめんな」


「ううん!気にしないで?大丈夫、何とかするから!」


手をばたばた振った後、力こぶを作ってみせる。

柔らかくて繊細そうな腕で力こぶは出なかったけど、

許してくれたみたいで安心した。


放課後になって各々が行動する。

部活に行く者、

帰る者、

少し残って話す者、

秀はと言えば、


「途中まで帰ろうぜ!」


誰かと一緒に帰る者だった。

教室を出る時に、ちらっと石川さんの所を見る。

朝日奈さんが頭を下げていた。どうしたんだろ?


「おーい!早く帰ろうぜ!」


「お、おう!……やっぱ先帰っててくれ!トイレ行ってから帰るわ」


不思議そうな顔をしていた秀だが、何故かその後ニヤニヤして、


「はいはい、分かったよ!じゃあな有宇!」


昇降口に向かって行く。何が分かったんだ?


そうして俺はトイレに行った後昇降口に向かった。

いつもなら直帰コース。


「あれ?蒼井くん帰ったんじゃないの?」


ロッカーから靴を取り出していた朝日奈さんは不思議そうな顔をしていた。


「……ちょっとな。朝日奈さんは石川さんと勉強しないの?」


意外だと思った。てっきり手伝うと思っていたのだけど……


「ああ……ちょっと今日バイトでね。」


「じゃあ、あいつは1人で……」


「大丈夫!私のテスト貸したからね!」


「何点だよ?」


と聞くと63点だった。赤点ギリギリだな。


「これで落ちたら、1週間先生とみっちり補習コースだってさー」


……それは不味くないか?

他人のことなのに頭を抱えてしまうのであった。



◇◆◆◇


「……全然分からない」


始めて5分もしないうちに私は机に俯していた。

自分のテストとひかりちゃんのテストを見比べて、

酷さが目に見えてしまって心が折れそうになる。

私ができた所は勿論ひかりちゃんもできている。

問題は分からず、解けなかった問題。

何問かはなるほどと、解けたのだけど、

後半になるにつれ、時間がなかったのか、

ひかりちゃんの途中式が必要最低限に省略され始め、

私にはちんぷんかんぷんだった。


「取り敢えず、この問題はこの式って事だけでも覚えれば……」


これでよし!と思ったのだけど、後40点分どうしようかな?

明後日の放課後だし……

2回の追試に落ちれば、補習コース。

それだけは避けたいな……


時計は16時15分。

あと1時間やったら家に帰ろう。

家でのんびりやったら意外と解けるかも。


そう思い、私はペンとノートをしまい始める。

一人きりだからため息が止まらない。


不意にドアが開いた。


「あ、もしかして勉強終わりか?」


「え?……蒼井くん?」


とっくに帰ったと思った蒼井くんがそこにいた。


お読みいただきありがとうございます。

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