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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
スキー合宿
43/43

夢見る男と恋する乙女と


頬に柔らかな感触と温もり。

ずっとこうしていたいとそれに頬を埋めるとふにふにとした感触が返ってきて気持ちがいい。

堪能していると頭全体を覆われる。


押しつぶされる恐怖は何故かない。

新たな感触が心地よくさせて思考を緩やかにさせる。


先程よりも柔らかい。

沈むような柔らかさも一定を過ぎると張りのある弾力が跳ね返す。

押しては引く波のような感覚に遊び心が擽られる。


本能の赴くままに手を伸ばそうとするが、左手は動かず、右手も誰かに引かれたように動かせない。何度も試みるが結果は変わらない。

ぼんやりとしていく思考がこれは夢だと判断する。

それでもまだ醒めないなら、もう少しこのまま夢を見ようと。

昨日は色々あって眠りも浅かったし、これから2日間もよく眠れないだろうし。

穏やかに眠れるうちに眠っておこうと。


未だに夢見心地な有宇が己の愚かしさに気づくのは、夢から覚める時だった。


◇◆◆◇


時は遡るーー

有宇くんはカクン、カクンと頭を揺らしている。

右に左に大きく揺れる様子は振り子のよう。

こんなに揺れても瞼が微塵も動かない。


「すごい疲れてるんだね」


キョロキョロと周りを伺う。

通路を挟んで座っているのは隣のクラスの人達だ。

アイマスクをしてるから眠っていると思う。

前は隙間から見えるのは不機嫌そうに腕を組んで微動だにしない三ツ矢くんと、


「でさでさ!これなんかは小学の時のー」


「わぁ!むろっち小ちゃっ!ほほう……あおっちもこんな可愛い時期がねぇ?っ凄い!笑顔が眩しい」


室井くんはひかりちゃんに昔の写真を見せているみたい。

有宇くんの小さい頃の写真……なにそれ!私も見てみたい!


「……こほん、ま、ま後で見せてもらおうっと」


気になる気持ちを押し殺して背後の様子も伺う。

どうやら本の話をしてるのかな?

本のタイトルらしきものと人の名前が耳に入る。

お互いに好きな本を語り合ってる。

赤井くんも読書家なんだ……アウトドアな人だと思ってたから少し意外だな。


「と、兎に角……周りは大丈夫」


両手を有宇くんに近づけていく。

慎重に慎重に誰にも気づかれないように。

布擦れすら立てないように段々と近づくと、心臓の音がドクンドクンと煩く打つ。

両肩に触れた時、緊張とドキドキは最高潮になり、


「……葵、何してるの?」


瑠璃ちゃんがタイミング悪く起きてしまって、爆発寸前になってしまう。


「ひゃう!!こ、こ、こ!」


「……鶏になってる、大声出したら迷惑だから深呼吸深呼吸」


瑠璃ちゃんに言う通り深呼吸する、有宇くんの両肩を抱いたまま。


「え、えっとね?……そう!有宇くんがカクンカクンし過ぎて首痛めないように!」


「……うん」


視線はあっちこっちになる私をじっと見つめる瑠璃ちゃん。


「……膝枕しようとしました」


悪戯がバレた子どものように項垂れた。

絶対怒られる!瑠璃ちゃん、有宇くんの事……でも嘘はつけなかったし!


「……そう。葵がしたいならすればいい」


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなーー


「え?……」


私は瑠璃ちゃんの素っ気ない態度に耳を疑ってしまった。


「……昨日色々あったから疲れてる、癒しが必要。私は葵と話してると癒されるから……だから有宇も癒される……と思う。だからお願い」


聞きたい事があるけど……今は聞けなかった。

瑠璃ちゃんが儚い雪の結晶みたいに見えたから。

触れたら、割れてしまいそう……溶けて何処かに行ってしまいそうで。


「……うん、分かったよ、遠慮しないから」


「……良かった」


瑠璃ちゃんの微笑みに瞳を奪われてしまう。

聖女様のような美しい。

悲しさや虚しさの色すら包み込む、慈しみの微笑み。


「……っえい!」


同一人物とは思えない可愛らしいかけ声とともに有宇くんを私の方に押し倒す。


満足気に微笑む瑠璃の顔を葵は見ていなかった。



嬉し恥ずかしい悲鳴が出そうになって口を手で覆う。

さっき最高潮だと思ってた鼓動はうなぎ上がりで早く強く脈打つ。

どきどきが加速する。

何処までもいつまでも……

ブレーキを失ったジェットコースターみたい。

でも不思議と怖さはなかった。寧ろ……

緊張、羞恥が、どきどきを大きく感じるのと同じぐらいに心地良さが胸に広がる。

対極な気持ちが不思議と胸の中を同居する感覚……嫌いじゃない、好きかもしれない。


私は名前のつけられない感情を胸に抱いて有宇くんの頭を撫でる。

自分の髪とは違うさらさら感に遊び心が擽られて髪の毛を手櫛で梳いたり、くるくると巻いて離したりした。


最近寝顔を見る事があって気づいた。

カッコいいとよく言われてたけど、よく見ると可愛い。

頭を撫でると安心したように瞳が垂れる。

更に撫で続けると嬉しそうにほんの微かに口角が上がる。

頬をつんつんすると拗ねたように枕に顔をぐしぐしと埋める。

1番可愛らしいのが、頭を撫でるのをやめると、んんと言って身体を丸める事。

何度も何度も頭を動かしてベストポジションを探すのだが結局見つけられず、最後には枕と頭の間に有宇くん自身の手を入れてまた静かなる。

まるで撫でて欲しいけど、言葉にも態度にも表せられずに譲ってしまう子どもみたい。


この後ちゃんと撫でると本当に嬉しそうに表情を緩めるから、つい意地悪したくなってしまう。

ちょっとクセになってる。


私も眠くなっちゃった……

まぁ、いっか、きっと瑠璃ちゃんが起こして……


そのまま私は有宇くんが寂しくならないように頭をぎゅっと抱きしめて夢の世界に旅立つ。

いい夢が見れそう。

その夢に有宇くんは出てくるかな。


◇◆◆◇


どうしてこうなった?

夢と現を彷徨っていた俺が重い瞼を開けたら桃源郷が広がっていた。

綺麗な、薄い桃色がかった触り心地の良い肌。

女の子の太ももだった。


「…………」


冷静に瞳を閉じた。

うん、冷静じゃなかった。

状況はこうだ。

俺は絶賛膝枕され中。

相手は倒れている向き的に葵。


鼻先が擽ったい。

寝てしまっているのか近くで感じる吐息。

甘い匂いが頭をくらくらさせる。

時折鼻を撫でる髪の毛が背中をぞわぞわさせる。

そして何より……

右頬の感触……ま、まさか……


葵が舟を漕ぐたびに、ふにゃんふにゃんと押し付けられる二つの果実。

押しては引いて押しては引いて……そしてガクンと葵は前のめりになる。


「っふが……」


圧死する……太ももと胸に挟まれて死ぬとか秀だったら羨ま死とか言うな。

まぁ、ある意味天国に強制連行なのは変わらないが……


「っん……」


どうやら今ので起きたようだ。

頭から離れていく。

今起きたら葵が起きるまで太ももを堪能していたど変態野郎になってしまう。

ここは流れが来るまで待つしか。


というか……素肌に密着させて嫌ではないのだろうか?


「……ふふ、まだ寝てる」


ぼそっと呟くと、俺を起こす事なく、また眠ってしまった!?


「すぴーすぴー」


絶対狸寝入りだろ!こうなったら欠伸しながら身体を起こしてーー


「およ?……おやおやー?ねぇねぇ!2人が面白い事になってるよ!」


前席からの朝日奈さんの声。

顔を見なくても分かる。

絶対ニヤニヤしてる。

最高の玩具を見つけた時の声だ。


「ほーん……爆発しねぇですかね?」


「ん、どうしたんだ?膝枕の何が面白いんだ?」


秀と俊が俺たちを眺めながら感想を漏らす。

精神年齢が見て取れる、瞳閉じてるけど。


完全に起きるタイミングを見失った。

かといって熱くなっていく顔に気づかれてもアウトだ。


「はは、仲良しだね〜微笑ましいばかりだよ」


「ね!……瑠璃さんも可愛い〜!写メ撮っちゃお」


シャッター音。


「お、そだね!起こすのは後でもいいよねー」


シャッター音。


「こうして見ると、案外絵になるよなぁ……有宇は絶対認めないだろうけどな」


シャッター音。


これはマズイ。これ以上はーー


「う、う〜ん」


「あ、あお起きたみたい!おはよ!」


「ん……おはよ、ひかりちゃん」


うなり声を上げて起きる葵……起きてたの知ってるからな。


「それでそれで?なんで、あおはあおっちを膝枕してたのかな〜?」


「えっと〜その……えへへ?」


そこでなんで意味深に笑うんですか!?

俺が倒れ込んだならそう言えば……そうじゃないのか?

いや、葵の事だから俺の事を考えて伏せてくれたのだろう。


「いいなぁ〜俺も膝枕してほしい」


「え……や、やらないよ?」


「有宇だけかー羨ましいっ!俺よりも青春しやがって!」


「は?膝枕の何がいいんだよ?……あとで写真撮ろ」


「まぁ確かに膝枕は憧れのシュチュエーションだよね。でもそろそろ起こしてあげないと」


どんどん盛り上がっていくのを赤井が宥める。

そのまま赤井の気配が近づいて来る。


「おーい、もうそろそろ着陸だぞ?…………皆からは見えないから大丈夫だよ」


……バレてたか。


「……ふぁーん、ん」


自然を装って身体を起こし、瞼を擦りながら周囲を確認する。

案の定、皆に囲まれていた。

それだけでなく、通路を挟んだ隣のクラスの人達も生温かい視線を送ってくる。


「な、なんだよ……」


「ほほー?不機嫌そうだな!こっちには面白いのがーー」


切り札を見せるように携帯を高らかに掲げる。

さっき撮った写真だろうが。

そこで遮られるのが秀だった。


「なぁ?なんで2人とも顔赤いんだ?」


無知というか無邪気というか、不自然だと顔に出して俺と葵を見つめる。


「は、はぁ?いつも通りだっつの……」


わざとらしく頭を掻いて視線を落とすと葵と目が合う。


「……おはよ」


「……おはよ」


葵は耳まで真っ赤にさせながらニコッと笑う。

つい視線が下に下がる。

さっきまでこの柔肌に顔を……

それを周りに見られた……


恥ずかしすぎるっ!?


その後、赤井が先生のように皆を席に着かせた。

戻る時にアイコンタクトされた……後でジュース奢ろう。


◇◆◆◇


無事に着陸した。

あの後、葵とは話せなかった。

やっぱり膝枕は恥ずかしかったみたいだ……後で謝らないと。


ここからは宿泊施設までバス移動だ。

距離は時間にして2時間程あるからスキー体験は明日からだ。

今日はゲレンデをぐるりと観光するぐらいだろうか。


外に出ると凍える風が吹いていた。

……ミニスカートだった葵は大丈夫だろうか?


「やっふー!!着いたぁ!!」


赤井は外に出ると突然絶叫した。


「お、おう?」


「あれ?変だった?」


「いーや、ちょっと意外だっただけだよ」


「まぁーね?俺も結構はしゃいでるって事だよ!蒼井もやってみな?気持ちいいよ!」


「え?お、おう…………や、やっほー?」


ノリに乗れないまま中途半端に声を上げる。

1番恥ずかしいやつだ、やるならもっと大きな声でやるべきだった。


「あはは!有宇くん、まだ山じゃないよ?」


先に行った筈の葵が中から出てくる。

どうやら寒さ対策をしていたようだ。

素肌だったミニスカートの中にタイツを履いていた。


「……似合ってる」


「ん?どうかしたの?」


「いや……寒くないかなって。上着貸そうか?」


「大丈夫だよー!まだ防寒具あるから。先行ってるね!」


見送ると赤井が俺の横に立つ。


「ぼぉーとしてたから元気を分けようと思ってたけど、心配いらなかったみたいだね?さっきも石川の事気にしてたんでしょ?」



「……さぁな?」


ぽんぽんと赤井の肩を叩いて俺もバスに向かう。


後から秀と俊が追いかけてくる……何故こんな寒い時にソフトクリーム食べてんだよ?

寒い所のアイスは格別だからだそう。


◇◆◆◇


バスに乗り、席を探す。

バスの座席は予めくじで決めていた。


「あ、有宇くん、こっちこっち」


相澤京が小さく手を振る。

中学生の頃に世話になった子だ。


「……」


「……」


気まずくはないが、お互い話を振るタイプじゃないから沈黙が生まれる。

この雰囲気も嫌じゃない。


「有宇くんってスキー経験者だったんだね。少し意外」


「昔、連れてってもらったんだ。引きこもってばかりいると心まで燻っちまうって月に何回か森とか海とか山とか……そのうちの一つがスキー」


「そうなんだ。やっぱり最初は有宇くんも難しかった?」


「コツを掴むまでは難しかったな……でも京も運動神経悪くないしペアは赤井だろ。あいつなら優しいし教え方も上手そうだしな。教える人が上手いとすぐに上達するよ。俺もそうだった」


不安そうな表情をする京に安心させるように話す。


「そっか……楽しみだな」


緩やかに時間は流れていく。

バスガイドさんの説明や元気良く答える生徒。

騒がしいけど温かな空間を皆で作っていた。

それを何処か遠くから眺めるように見つめていた。


「有宇くん、最近変わったよね」


ふと京に尋ねられる。


「そうか?……自覚はないんだけどな」


「うん、瞳がね……初めて会った時はむき出しの刀みたいだったから。それが眠そうな瞳になって、今は誰かを想ってる瞳をしてるの」


「誰かを思ってる?……中学の時は色々迷惑かけたとは反省してるよ」


口を尖らせている。


「本当に、あの時は命が何個もあっても足りないって思ったよ……でも怖がらせる事はしても傷つける事はしないって気づいたから」


ふぅっと息をつく。


「……あの時は結構人間不信極まってたんだよ。こんな話は置いておいて……京は最近興味ある事ないのか?」


「凄い話のズラし方だね?……興味かぁーうーん……う、うん。あるよ?」


「何故に疑問系?」


「だって、言ったら笑うから」


「生まれてこの方、秀以外で人を笑った事ないな」


「それはそれで可哀想だよ?……まぁ、有宇くんならいいかな」


もじもじと手を弄りながらこちらを向く。


「その、ね?……恋、愛に興味あるの」


「ほぅ、恋愛ねぇ?……それで、何処に笑う所あったんだ?」


「だ、だって……昔、恋に恋してたから。またそうなんじゃないかって」


「……いや、あれは皮肉で言っただけだよ。あの言葉が京を苦しめてたのなら謝るよ。ごめん」


詳細は省くが、転校生の俺を世話する係に京はなった、押し付けられたと言ってもいい。

そのクラスで1番人気のある男が京に頼んだからだ。

京自身はまた断りづらい状況で押し付けられてしまったと頭を抱えていた。

断ったら絶対面倒な事になるー!?と。

そんな困った様に笑う顔を俺は人気者に頼まれて満更でもない顔をしているのだと思った。

そんないつまでも構ってくる京に苛ついて言った言葉だった。


「ううん、事実だったよ、でもあの人じゃないからね……上流学校からの転校生の男の子となんの取り柄もない女の子……憧れるシチュエーションだったから。感謝する事はあっても気に病んだ事はないよ」


「何の取り柄もないってそんな事ないだろ」


認められない事に、自然と声が少し低くなる。


「お前は何度でも立ち向かってくれただろ。普通はそこまでできないよ……そうさせた俺が言うのも何だけどな?」


「ほんとそれだよね、あはは……でもありがと」



「どういたしまして?…………んで、気になるお相手は?」


「え、言わないとダメ、かな?」


恥ずかしそうに揺れる瞳で頬を赤らめながら首を傾げる。

普段見せる事のない優等生で、小動物みたいな表情とは違う。

何割増しにも可愛く見える。

恋する乙女……だからなのだろう。


そういうのは意中の相手だけに見せろっての。

勘違いさせたりしたら可哀想だよな。

現に京の姿と雰囲気に瞳を奪われてるのが数名。

俺たちの班の赤井もその1人だ……ほほう、ピュアだな。

俊は周囲の雰囲気が変わったのだけ分かるのかキョロキョロし始める、相変わらずだった。


「まぁ、言いたくないなら言わないてもいいさ。なんだか小さい子苛めてるみたいになってるし」


「んな!失礼なっ……もう教えてあげないもん」


プイッと窓に顔を逸らす。

年相応の少女のような可愛らしい仕草に悪戯心に火がつく。


「教えてくれればキューピット紛いな事はしてやらんでもないよ」


ピクッと震える。


「男子だったら顔も広いしな。そいつがどんなタイプだとか好きなお弁当のおかずとか色々聞けると思うな?」


「……それほんと?」


「ああ、あと、こっち見んな。そういう顔は好きな男にだけ見せてやれっつの」


「……どんな顔さ?」


呆れた顔をする。


「好きで好きで堪らないって感じの可愛い顔だよ。……そういう大切な表情は自分と好きな相手だけにしな」


「あははは。有宇くんって案外ピュアだよね?」


京は心当たりがあるようにニマニマ笑う。


「……自分の好きな人が恋する表情を他の奴に向けて欲しくないって思うだろ?だから好きになってもらう為に必死に追いかけて背伸びして振り向かせて……」


熱くなる頭の片隅に冷たいものが刺さる。

強引に首に繋がれた鎖に引っ張られるよう。

すぅっといつもの自分に戻る。


「……そんな事書いてあった本があったのを思い出しただけだ。本音は周りがそわそわし始めて変な噂が立つのが嫌だったからだよ。京が言う気がないなら無理には聞かないよ……」


背を向けて、逃げるように瞼を閉じる。

少し浮かれてるのだろう。

ちょっとした拍子に奥底のモノが出てきてしまう。

丸くなった事で強度も下がってしまったみたいだ。

それに危機感を感じながらも同時にそれもまた一興と思っている自分がいる事に驚く。


「……もう寝ちゃった?」


「…………返事できるぐらいには寝てる」


「懐かしいね、その返事」


「そうだな」


机に俯したり、壁を寄りかかって瞳を閉じている俺に毎時間話しかけてきた彼女。

それを面倒臭そうな声で返事をしていた。


「周り、もう大丈夫かな?」


「ああ、落ち着いたと思う」


見惚れていた人達も気のせいだと決めつけて車窓から見える何処までも続く雪原に夢中になっていた。


「……あのね、有宇くんから見て、赤井くんってどんな人?」


赤井か……さっき赤くなってたな。

今は俊の面倒を見ているようだ。


「誰にでも優しいし、気配り上手だな……意外とピュアでいい奴だよ」


「あ……私もね、そう思うんだ……赤井くんって好きな人いるのかな?」


瞼を薄く開いて、ちらりと京を見る。

恥ずかしそうに顔を赤くしながら俯いている。

なるほど、謎は解けた。

脳内人間関係図を更新させる。


「その手の話は聞いた事ないな」


「だよね。赤井くんの好きな人だったらやっぱり可愛くて優しい子なんだろうなぁ」


裾を硬く握りしめて泣きそうになっている。


「……勝手に決めつけてんだよ。中学の時のメンタルの強さは何処行った?」


「だって……有宇くんの言う通り、好きな人に好きな人がいたら苦しいよ。お似合いでもチクチクするのはしょうがないよ」


「お前も充分可愛いと思うけどな」


「じゃあ葵ちゃんと瑠璃ちゃんと比べたら?」


落ち込んでいく彼女を励ませればと思ってのことだったが予想外の2人が出てくる。


「何故その2人なんだ?」


「有宇くんが関わってる女の子ってその2人がいつもだから」


ナチュラルに朝日奈さんが入っていないのはどうしてだ?


「……今の京ならあの2人より可愛いよ。恋する乙女の可愛さってのは最強だからな……俺に向いてなくて良かったよ。平然と喋ってる余裕なくなるんじゃないか?」


拗ねていた口をぽかんと開いて見つめてくる。

有宇は瞳を除けば、整っている顔をしている。

怖い瞳が台無しにしているのだが、もしそれを怖いと感じていなければ。

真剣な表情で、可愛いと言われれば顔が真っ赤になっても仕方ない。


「……ほんとに変わったね。前ならそんな事言わなかった」


すぐに冷静になれたのは想い人がいるおかげか、有宇の事を少なからず知っているせいなのだろう。


「事実を言っただけで言う機会がなかっただけだ」


「あはは、漸く室井くんみたいに軽口をたたいてくれる仲になったってわけだね」


それは果たしていいのか?……俺が言うのもなんだが。


「じゃあキューピッド役もお願いね?」


楽しそうに笑う彼女。

こんな間柄も悪くないのかもな。

俺と京はバスに揺られながら、今後の予定を立てるのであった。

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