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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
出会い
4/43

それぞれの家庭

遡る事30分前……


珍しく学校が終わっても教室にいた。

秀に相談に乗ってもらっていたのもあるが、


「今日は紅葉が料理作る!」


小学3年生になった俺の妹の紅葉がパンケーキを焼いてくれる。

なんでも、今度友達の家で一緒に作るみたいで練習したいとの事。


火の扱いは危ないとも思った。

けどその時に怪我されても嫌だなと思い、

長袖、ホットケーキプレートを使う事、

火事になったら消そうとせずに家から出る事、

それを約束させた。


「お買い物も料理も私1人でするからー!」


何故か俺に見せたがらない。

兄離れかな?と悲しくなりながらも、

何か事情があるんだろうと目を瞑った。

カメラでもセットしておこうかなと本気で思ったけど、

嫌われそうだから思い止まった。



「……訳あって、教室で暇を潰してたんだ。」


石川さんに妹の事は話さなくてもいいかな、と話を飛ばす。


「それで携帯弄ってたら秀に盗られて……取り返そうとしたら押し倒しててさ」


「……そこに石川さんが」


「え?……」


「つまり……石川さんが期待してた事じゃないんだよ?」


「え??って事は……ああ!!」


石川さんは自分の勘違いに気がついてみるみる顔を赤くしていく。


「ごめんなさい!」


と赤くなった顔を手で覆いながら頭を下げる石川さん。

あたふたしている様子にまた笑みを浮かべる。


「いいよ。俺が怖くて怯えられてた訳じゃなさそうだし。」


「う……うん!今日一緒に帰ってみたら蒼井くん優しくて面白い人だなぁって」


華やかに笑う石川さんに安心してほっと一息吐く。


「って!失礼だよねこんな事言って……ごめんね?」


「いや、いいよ。いつも怖い顔してるって秀に言われるから」


またおろおろする彼女を見て、

喜怒哀楽がはっきりしているなと微笑ましくなる。


夏の夕日も秋になり、そろそろ短くなってくる。

気づけば6時前……さすがに帰った方がいいな。


「じゃあ。帰るよ。ちゃんとおでこ冷やすんだよ?」


「うん、今日はありがと……ま」


ま?

言葉が喉まで出かかってるようなもどかしい雰囲気。

俺は言いかけた言葉に耳を傾ける。


「ま、また……明日ね?」


「え?……う……うん。また、明日」


石川さんの頼りなさげに振る手。

それに倣って俺も胸の前に手を出し振る。


その時胸に感じたあのもどかしくて温かい感覚は、

家に着いても冷めてはくれなかった。


◇◆◆◇


「あ、お姉ちゃんおかえり!ーーってどしたの?顔赤いよ」


「え?……そうかな?何でもにゃいよ?」


勘違いに気づいて火照ってしまった顔をそのまま家に帰ってしまって、

結衣に気づかれてしまった。


「何でもにゃいよ?って明らかなんかあったでしょ……まぁいいや!そんな事より残念王子様とは挨拶できた?」


あっさりと興味を失ったと思ったら、どうやら結衣の関心は最初からそっちにあったみたい。

だけど、それで蒼井くんを思い出してさらに顔を赤くしてしまう。


「およ?……顔が赤かったのと残念王子様って同一人物?」


首を傾げた結衣は私が何も言い返せない事に

確信を持ってニヤニヤしている。

昔から妹には隠し事ができない。

お姉ちゃんは顔に出やすいからね、それだけ正直者ってことだね!

と馬鹿にされたのか褒められたのか、そう言われた事があった。


結局話す事になっちゃうなら……と正直に話すと、


「あはは!!ほんとに聞いちゃうなんて!っはは!お姉ちゃん最高だよ!っふふ!」


「もう!そんな笑わないでよ〜」


結衣はお腹を抱えて泣きながら笑っていた。

そんな姿に口を尖らせていると、

涙を拭きながら、


「でも、良かったね?お姉ちゃん」


「え?なんでよ!」


良かったねなんて言われるから不貞腐れてしまう。

全然良くない。

だってあのなんとも言えない微妙そうな顔が頭から離れない。

今度こそ、絶対怒ってると思う。


「だって、全部誤解だったんでしょ?怖い事も男好きって事も。」


確かに……

最後までおでこの事心配していた。

道路を並んで歩く時も、

私を内側にしたり、時折様子を観察していたのも分かった。


そしてなりより……話してみると楽しかったな。

こんな事なら席も近かったし、最初から話してれば良かった。


「そうだね。優しかったかな?」


結衣は満足したようにニヤニヤしながら腕を組んでいる。


「そ、れ、に……相手はお姉ちゃんの事面白い奴って今回はっきりと覚えたと思うよ!」


結衣はビシッと指を天井に指す。

そうだ……絶対変な奴って思われたよね?

だって、その……男好きって直接聞いちゃったみたいなんだもん。


「だ、大丈夫かな?どうしよう?」


焦る私に、結衣は携帯片手に、


「ま、大丈夫でしょ。さっき怒られなかったんだから……そういえば押し倒してでも見られたくなかった携帯の中身ってなんだったんだろうね」


結衣は私の心配なんてどこ吹く風でまた話を転々とさせる。

いつもの事だから今さら何か言うことはないけど。

もしかしたら、単に私と結衣の見ている点が違うだけなのかもだけど。


「……もしかしたら彼女さんとか?」


「うーん。それはないんじゃないかな?だって女子からは男好きかもしれないって噂されてたんでしょ?」


確かに……でも他校の子という線だってある。

その子と付き合ってるから別の女の子と関わりを絶っていた、

みたいな事情があったとしても不思議じゃない。


「もしかしたらエッチな画像を見てたのかもよ?」


結衣はこんな感じのと、

浜辺に寝転んで日焼け止めを塗られている水着姿の女の人の写真を見せてくる。

それが結衣本人で思わず、咳き込んでしまう。


「っこほ!変なの見せないでよ!」


「あは!変なのなんて心外だな〜冗談だってば!あったとしても学校では見ないでしょ?」


全くもう!

事実じゃなくてもイメージでそんな風に勝手に思っちゃったらどうすんのさ!

どんな顔して蒼井くんと話せばいいか分からなくなるよ。


そんな私の内心をよそに


「まぁ話のネタはできたわけじゃん?明日も頑張ってねお姉ちゃん!」


得意げにサムズアップする結衣。

挨拶するよりハードル高いよ!

けど、嫌われていて不機嫌なのかと思ったらそれは勘違いだったんだよね。

挨拶くらいならできそうかも。

それに助けてもらった事と家まで送ってもらった事のお礼もちゃんと言わなきゃだし。


「うん!頑張るよー」


「お姉ちゃんの事応援してるからね!」


ぐっと胸の前で握り拳をした私に元気を渡すように手を添える結衣。

お姉ちゃん思いのいい子だなぁって思ってたんだけど……


「……これで将来はイケメンの義妹だ……うしし」


聞こえないと思ってるんだろうけど、こんなに近くなら聞こえるからね?

あと企んでいる顔を隠そうとしないのも酷い。


昨日よりも不安が消え期待が高まる。

早く学校にならないかな?

呑気な私はそう思っていた。最大の敵を忘れて……


◇◆◆◇


モヤモヤを抱えたまま家の前まで来てしまう。

ここは気持ちを落ち着かせる為に深呼吸。

……が、やっても意味がなかった。

ひと息吐けばその頃には落ち着いているだろう。

そう思い、俺はドアに手をかけた。


「お帰りなさい……お兄ちゃん」


玄関には今にも泣きそうな紅葉。

服と顔は粉だらけ。

頑張っていたのが見てとれる。


「ただいま、紅葉。ふふ……粉だらけだ。」


洗面所から濡らしたタオルを持って来て、

リビングに紅葉と戻る。

しゃがみ込んで視線を合わせながら、粉を拭いていく。

拭いていく中で怪我がないか見てみるが、

どうやらその心配はないみたいだ。


「……っ全然上手くいかないの……全部失敗しちゃった。ごめんなさい」


紅葉はぎゅっと手足を胸に寄せる。

堪えていた瞳からぽろぽろと涙が流れていく。

テーブルを見てみると黒焦げになったパンケーキが4つ。


「そっか……よしよし、まだ1人ではちょっと早かったな?」


頭を撫でながら、まだボールに材料が残っていることに気づく。


「一緒に作ろっか?」


紅葉は横に強く首を振る。


「あれはお兄ちゃんの分」


「俺の?」


え?作ってくれないの?お兄ちゃん悲しいんだけど……


「……これ以上無駄にしたくないよ。ゴミになっちゃうの、ヤっ!」


なるほど、せめて食べれるように残しておいたのか。

真面目で可愛い子だ。


「ゴミって……焦げがついてるだけで食べられなくはないぞ」


俺は黒焦げのパンケーキを一切れ口に入れる。


焦げのジャリっとした食感と苦味が口に広がる。中はドロドロ。


「ん?紅葉、これ……」


「うん。強くすれば早く焼けるかなって……」


だから焦げるのが早かったのか……

もんじゃ焼を食べているようだが、まだいける。

他のも半生ではないが、引っくり返すタイミングが分からなくなって焦がしたようだ。


「ちゃんとじっくり焼けば大丈夫!お兄ちゃんが教えてあげるよ。な?」


「でも……」


失敗続きで自信を喪失している。

でもここで諦めるのは教育上よろしくない。

たった一度でもいいから成功体験をさせてやりたい。

そうすれば次に繋げることはできる。

そう思い、頬に伝う涙を親指の腹で拭ってやる。


「お兄ちゃんさ、作ってあげるって言ってくれて嬉しかったんだ。」


たとえ、練習だったとしてもだ。


「だからさ、お兄ちゃんの為にもう一度だけ作ってくれないか?」


頭を撫でる。


「お兄ちゃんの為に?」


「ああ、練習じゃなくてお兄ちゃんの為にさ」


「そっか……練習って事に…………うん!私がんばる!」


最初、何を言ってるか聞き取れなかったが、

ぐっと握り拳をした紅葉。

どうやら大丈夫なようだ。

もう一度パンケーキ作りを再開する。


結果は成功。

その後どっちがこのパンケーキを食べるのか揉め、

半分こする事にした。

でも俺は、俺の為に1人で一生懸命に作ってくれた黒焦げのパンケーキの方が美味しい、

そう思った。


しばらくの昼食のおかずはパンケーキかな?

お読みいただきありがとうございます。


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