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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
文化祭
34/43

雨降って地固まる

学祭も終わり、片付けや振替休日明けの朝。



「……っ?」


いつものように起きようと瞳を開けるようとするが、瞼が重い。

……と言うか、身体全身が重い感覚に陥っている。


学祭もあって叔父さんとこの手伝い出来ていなく、久々だった。

それでも睡眠時間はそれなりに取ったつもりなんだけどな?


「っうわ……なんか天井がぼやけるな?」


中々言う事を聞かない身体に発破をかけながらベットから抜けて、朝食を作りに部屋から出る。

動く度、関節に痛みを感じる。

ぼやける、身体は重い、節々に痛み……


嫌な予感にゾクッとするが、学校を休むわけにもいかないし、紅葉の為にも朝食は作らないといけないから身体を引きずってでも動く。

身体が目覚めれば大丈夫だろと楽観して……


◇◆◆◇


「おはよ!あお!具合はもう大丈夫?」


「おはよ!お医者さんも心労からじゃないかって言ってたから1日寝たらスッキリ!」


あれから学校側からも安静にするようにと、1週間の休みが特例で出された。

しかし、翌週から中間試験がある事と、有宇に罪悪感を持ってほしくなかったという理由で、振替休日が明けた日に登校していた。


ひかりも瑠璃も葵なら心配させまいと無理してでも来るだろうと心配していたが、すっかり良くなってる姿を見て、安心する。


「良かったよぉ。あおっちも片付けの時凄い心配してたからね?」


「……連絡すればいいのに、起こしたら悪いからって言いながらソワソワしてた」


揶揄うように笑うひかりちゃんにむくれていると、

楽しそうに微笑む瑠璃ちゃんがその時の事を教えてくれた。

携帯を開いたり、閉じたり。

ひかりちゃんに連絡が来てないか聞いたりしてたみたいだ。

いつもの有宇くんからは想像できないけど……

頭の中で思い描いてみると、ギャップがあるって可愛いなとくすりと笑う。


チャイムが鳴って暫くすると、室井くんが教室に滑り込んでくる。


「セーフセーフ……この時間の電車でも間に合うもんだね〜」


爽やかに汗を拭っていていた。

顔は爽やかそうなのに、肩がゼェゼェ上下に揺れている辺り、相当ダッシュで走って来たみたい。


「秀!アウトー!」


皆に揶揄われながら頭をへこへこしながら席に着く。

先生も教室に入ってきて、その後の言葉に言葉を失った。


「あー今日の欠席は蒼井だけかー」


◇◆◆◇


「……秀。有宇が欠席ってどういう事?」


「ん、紅葉ちゃんのが移ったか、心労じゃね?後者だと思うけどね」


「……寒くて、暗くて、閉じ切って……うん、有宇にとって最悪な環境」


「それを分かって助けようとしたわけだしね。葵ちゃんの所為じゃないよ」


「……そんなの当たり前。悪いのは閉じ込めた奴……絶対ユルサナイ」


憤怒を通り越して憎悪に燃え上がる瑠璃をドオドオと制止する。

有宇の事になるとやる事が2、3手飛ぶから怖いのである。


「そんな事より看病が先だろ?……先ですよね?」


若干瞳のハイライトが消えていて、秀は涙目で震えていた。


「……うん。でも、私は行けない……分かってるでしょ?」


「そう、だな。行かない方がいいと思うよ。風邪で参ってるなら尚更ね」


瑠璃の事情に加えて、有宇も風邪を引いているから心に余裕がない。

取り返しのつかない事を起こしたくないし、有宇に起こさせて罪悪感を感じてほしくない。

そういった理由で瑠璃は遠慮していた。

秀としてはこういう時にこそ行ってあげた方がいいのでは?と思う心とこれ以上複雑に絡み合わないように慎重になるべきという心に板挟みになっていた。

だから、秀は瑠璃が決めた事を尊重した。


「行った所で料理とか出来ないんだよな……うーん」


「……なら、葵に行ってもらえばいい。葵もさっきから心配そうにチラチラ扉の方見てるし」


「え?いいのか?」


秀は驚きを隠せないでいた。

日頃から有宇に好意的な瑠璃が他の女生徒を牽制するのは当然だ。

と言っても、何か直接言うほど器用ではないから、有宇に対する態度を示す事で表している。

纏う雰囲気も相まって、好きな物に匂いをつけて自分のものだと主張する猫みたいだな、クラスの女生徒達はほんわかしている。

取られたくないと頑張る姿は普段の大人しく、眠たげで感情の乏しい彼女とギャップがあり、男女問わず悶えさせている。

それでも適当に遇らう有宇を皆、こいつツイテないだろと呆れ目と瑠璃に同情の目を向けていた。そんな彼女が女の子に有宇を頼もうとしているのだ。

秀の反応は間違っていない。

寧ろ、小中も同じだったのだから、驚きは計り知れない。


「……今大切なのは有宇が元気になる事。それにきっと有宇が風邪引いたって葵が聞いたら自分の所為にする。それは2人とも可哀想だから……それだけ」


助けた有宇もごめんじゃなくて、ありがとうと言われた方がいいはずだ。

助けられた葵もごめんじゃなくて、ありがとうと看病した方がいいはずだ。


「そっか……そうだなぁ。そうしてみよっか!きっと有宇も喜ぶだろうしな」


秀はしまったと思った時にはもう遅かった。

ギィギィギィと錆びた扉のようにぎごちなく瑠璃と視線が合う。

無言の圧力がぎしぎしと伝わってくる。


「あ、い、いや!その、あれだ?男の作った料理より、女の子が作った料理の方が美味しそうだろ!な?」


背中に冷や汗を感じながら、必死に弁解する。


「……どの女の子のよりも有宇の料理の方が美味しい」


「有宇が作ったら看病の意味ないでしょ?上がり込んで飯まで頂戴するとか、トンデモナイ奴らだよ!!」


「……冗談。面白かった?」


「生きた心地がしなかったんで勘弁してください……」


悪戯が成功した子供のように瞳を輝かせながら首を傾げる。

ほっと一息ついて汗を拭う。

本当にこの女の子は分からないなと視線を向ける。

何事にも興味なさそうだが、誰よりも好奇心旺盛。

大人しく、真面目そうだが、飛び抜けた事や鋭い冗談で周りをあっと驚かせたり、案外子供っぽかったり。

そんな彼女が全幅の信頼を寄せる有宇はやはり大物なのだなと遠い所から尊敬の意を込める。


「……間違った方へ行かないでね?」


「……それも冗談ですかね?」


「……さぁ?」


「ハハハ、ソウデスヨネー……善処します」


どっちにしろ秀には荷が重たいことには変わらないようだ。



◇◆◆◇


「え?ゆ、有宇くんのお見舞い?」


お昼休み、上の空でお弁当を食べていたから室井くんに誘われて驚いていた。

妹さんの夕飯を作ってほしいとの事。

妹さんも最近まで風邪をひいていて、お粥ばかりだったから今日は好きな物を食べさせたかったらしい。

自分の心配よりも妹さんの事を優先する有宇くんを相変わらずな奴だと室井くんは笑っていた。


「学祭の忙しさに身体が弱って移ったのかもって有宇と妹は連絡してきたよ……っくく」


きっと私に気を使ってくれたのだろう。

でも私の所為だって謝っても言っても有宇くんは頷かないだろう。

むしろ、罪悪感を与えてしまってすまないと言いそうだ。

きっとお互いいつまでも謝り続ける事になる。

だから有宇くんにはお礼を言おう。


そう心に決めてお見舞いに行く事を決意したのだけど、室井くんはさっきからお腹を抱えて笑っていた。

「どしたの?そんなに笑って。あおが変なことしたの?」


用事から帰ってきたひかりちゃんがジト目で私を見る。


「ち、違うよ!まだ何もしてないよ!」


それを手を振って違うと主張する。

本当?と疑う視線をひかりちゃんと困った私に笑いが収まった室井くんが携帯を開き、弁明する。


『風邪引いた』ーー6:50


『無理して学校行こうとしたら靴隠された……」ーー7:40


『テストの日程教えてくれ。暇つぶしに勉強する……」ーー8:45


『本格的に怠くなってきたから夕飯の材料も頼む」ーー10:36


その後には材料が書かれていた。


「靴隠されたって……凄い止め方だね」


「隠されたって言っても探そうと思えば見つけられるんだろうけどね。妹の努力と心配を無駄にするような奴じゃないからね。諦めて休んだんと思うよ。」


「なるほどね。それでお見舞いにって事かー」


「そゆこと。買い出しは任せてくれ。葵ちゃんは先に有宇の様子を見に行ってほしいんだ。追加で買う物が出てくるかもしれないしね」


そういう事なら任せてと胸を張る。

ひかりちゃんも学校の用事が終わったら向かうという事で。

室井くんに有宇くんの家の場所を教えてもらって、

私は放課後に有宇くんの家を訪ねるのに、胸を弾ませる。


◇◆◆◇


放課後になると季節外れの台風の影響で雨脚が強まっていた。

朝のニュースだと、進路は日本海側と言われていたのに今は太平洋側を進行中。

絶賛直撃中だ。

取り敢えず、駅に向かうまでが戦いかなぁ?と靴を履き替えていると……


「「あ……」」


誰かと待ち合わせしている如月くんと目が合う。

気不味い気持ちになった葵は視線を逸らしていた。

葵は見えていないが立ち上がった浩介は若干青ざめていた。


「石川さん、話が……「あ!浩介くん一緒に帰ろー?」」


浩介の声は後ろから声をかけた女生徒の声にかき消されて葵に届く事はなかった。

浩介が断りを入れて葵に向き返った時にはもう校舎を出てしまっていた。


「……ちゃんと謝らなきゃいけなかったのに。今言えばよかった……」


憂鬱な気分のまま、校門を潜ろうとしたその時、豪風が傘を襲い掛かり次の瞬間、バキバキとあっちこっちに骨組みが折れてしまった。

冷たい雨が身体を叩く。

あの日。

咄嗟にとはいえ叩いてしまった事に罪悪感を抱いていた。

ただ、他の女の子とも仲睦まじく接している所を見ると、みんなにしている事なのかな?と関わりたくなくなってしまう。

ため息が溢れるのを堪えながら、まだ傘がさせる部分で雨を凌ごうとすると、不意に後ろから傘をさされる。


「え、如月くん?」


「濡れたら風邪引いちゃうし!」


「い、いいよ……これあるし」


ふるふると横に振って壊れかけの傘を見せる。

ニコッと笑う如月くんが困った顔をしていた。


「あの……この間はごめんなさい。叩いてしまって……痛かったよね?」


「いや!あれは俺が悪くて!石川さんは何も……」


如月くんは直角に頭を下げる。


「それに痛かったのは石川さんの方だよ……俺は自分勝手に……本当にあの時はごめんなさい!」


頭を上げた如月くんは不意に手を傘に握らせるように渡してくる。


「使ってくれ……じゃあね」


「え?ええ!?ちょっとー!」


力なく笑う如月くんは走るように去って行くのを慌てて追いかける。


私が追いつく頃には如月くんはかなり濡れてしまっていた。


慌てて背伸びをして如月くんに傘をさす。


「え?何で?」


「なんでって……たしかに怒ってるよ?いきなりされた事も、気不味くて視線離しちゃった後に後悔して謝ろうと声かけようと思ったら女の子といつもいたから、あれは日常なのかなって思ったり……でもね!だからってこんな雨の日に気不味いからって1人でさせるわけないじゃん。私の為ならなおさらね?」


「それに……ちゃんと謝れたし、如月くんも謝ってくれたから……すぐには無理でも、またお喋りできると思うよ?」


「ほ、本当!!」


如月くんは嬉しそうに笑う。

その喜ぶ姿は犬が尻尾をブンブン振っているみたいだ。


「う、うん。それにした事は消せないんだから!」


その姿に若干びっくりしながらそういうと、少し如月くんが気を落としていた。

少し強く言いすぎたかな?

反省しないと……如月くんは距離が近いからびっくりしてしまう。

私は如月くんの瞳を見つめる。

如月くんも私の瞳を見つめて言葉を待っているようだ。


「だから……ちゃんと責任とってね?それでおあいこだから」


少し緊張していて固かった表情も自然と笑顔になる。

如月くんは顔から湯気が出る程赤くなっていた。

もしかして……風邪かな?

だったら早く帰らないと!


「いこっ!このままじゃ本当に風邪引いちゃうからー!」


「え!ちょっ、石川さん!待ってってばー!!」


腕を引いて駅に向かう。

慌てたような様子で腕を引かれる如月くんは新鮮で、久しぶりに如月くんと楽しく笑えたのかもしれない。


その後、私を送る送らないで少し揉めた。

もし送れないのなら傘を渡すと譲らなかった。

それだと如月くんがずぶ濡れになってしまうから私が折れる事になった。

お礼や服を乾かす為に家に入ってもらおうと思ったけど、如月くんはまた今度ね?と顔を赤くして駆け足で帰ってしまった。

何か気に触る事しちゃったかな?

でもまた今度って言ってくれたし……何だっただろ?


「うわぁ……お姉ちゃんどうやって建てたの?」


と如月くんとすれ違った結衣が呆れた目で見つめてきたけど……何の話だろ?

首を傾げる私にさらにため息をつく結衣だった。


お読みいただきありがとうございます。


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