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芹内愛莉3

 AM12:52


 若いホームレスの男が連れてきたのは、大通公園から徒歩十分ほどの場所にある中華料理屋だった。

 どう見ても、客が入っているようには見えない。外装はすっかり塗装が剥げているし、ガラスも見るからに汚れており、ガラスに張られたメニュー表も黄ばみ、セロテープも乾いて剥がれかかっている。

 内装も外から見えるだけでもかなり悲惨なもので、衛生的とはとてもいえないほどに床も掃除されておらず、愛莉は溜息をついた。

「もしかしてここの人が慈善家で、あなたに無料でご飯でも恵んでくれてたってわけ?」

 だが、男はそれには答えない。

「付いてこい」

 そう言うなり、店に入ろうとする。

 一切この男がやろうとする行動の意味がわからない。質問は黙殺されるし、ペースは狂わされるし、最悪だ。

 そうは思いつつも、ここで逃げ帰るというのも、いったい何をしに来たかわからない。

 もしかすると、外装も内装も最悪で客も入らないが、知る人ぞ知る名店、なのかもしれない。

 まあ、それならそれでアリだろう。

 店内に入ると、これまた掃除の行き届いていない埃っぽさと、なんともいえない変な匂いが立ちこめている。

 靴を通してもわかる、埃の感覚。

 月面を踏みしめたように足跡が付くんじゃないか、と思えるほどに汚れている。

 これはどう見ても客商売をしている場所じゃない、これは客が来ることを拒んでいる場所に違いない、と愛莉は思った。

 そして、入ると無愛想な声が聞こえる。

「……いらっしゃい」

 投げやりな態度。客を見ようともせず、カウンターであぐらをかき、奥に備え付けたテレビをぼうっと見ている。

 万に一つも、ここが名店であろうはずがなかった。

 もちろん店内はがらがらで、客は一人もいない。テーブル席も当然空いており、愛莉は念入りに椅子を手で払ってから、座った。

 しかし、テーブルに肘を置いてから気付いた。テーブルも埃まみれだった。失敗した。おまけにもちろん綺麗に拭かれてはおらず、肘に油っぽい何かがこびり付く。最悪だ。最悪すぎる。

 ホームレスの男と二人きりで、今にも潰れそうな中華料理屋に来る。

 ……容易に百年の恋も冷めそうな最悪の状態だ。

 そこで男は突然、言葉を発した。

「オヤジ、炒飯を頼む」

 ハゲ頭の店主は、え? という顔を一瞬すると、愛莉の方を向いた。

「お代は、貰えるんだろうね?」

 この店構えで一丁前に何を言い出すのかと思えば、つまりどうやら愛莉は、ホームレスを連れてきた迷惑な客だと見られ、代金を払えるかどうか怪しいと思われたようだ。

 もっとも店主の立場に立てば、当然の疑問ではあるだろう。だが、それでも愛莉はむっとした。

「当然! きっちり払うわよ!」

 店主は、怒気混じりの愛莉の返答に、にやっと笑うなり厨房に入った。

 非常に感じが悪い。これでまともな料理が出て来なかったら、いったい自分はどうしてここに来たのか微塵もわからなくなる。

 そう思って、愛莉は男に聞いてみた。

「このお店、料理の腕は確かなの?」

「いや、初めて入る店だ」

 けろり、と男は言った。

 あまりにも驚いたので、愛莉は思わず立ち上がって驚いた。

 いや、それはいくらなんでもないだろう。付いて来いとだけ言って、付いて来てみると何かの算段があってここに来たわけではないというのだから。

 ではいったい、どうして話しかけ、ここに誘ったのだろう。

 もう考えるだけ疲れるので、愛莉は料理が出て来るまでじっと待つことにした。

 やることもないので、やはり生気の感じられない、正面の椅子に座る男を見た。

 よく見ればこのホームレスの男は、聡明そうな顔をしている。無精髭を剃り、それなりの服を着せれば、それなりに見栄えするのではないだろうか。

 まあ、顔立ちが多少整っていたからと言って、それだけで食えるほどこの世は甘くはない。だが、ホームレスの地位に身をやつすまで、転落することもあまりないようにも思えた。

 飯の一杯も奢る羽目になっている以上、少し身の上を聞いても罰は当たらないだろう。愛莉は男に、色々と聞いてみることにした。

「あなた、名前はなんて言うの?」

「人に名前を聞く際は、自分の名前を名乗るのが先と母親に習わなかったのか」

 唖然としてしまった。二の句も告げない。だが、一応愛莉は歩み寄りを見せようと、さらに言葉を続けた。

「私は芹内愛莉。あなたは?」

 さすがに言葉は投げやりではあったものの、最低限の礼儀は守ったつもりだ。

「俺はさざなみ哲弥だ。見ての通り、職にあぶれている」

 そんなことは百も承知である。わざわざ言わなくてもわかる。

「そうみたいね」

 興味なさげに愛莉が言ったのを意に介したのか、介していないのか。漣は、笑顔を浮かべ、言った。

「お前は俺にどうやら飯を食べさせてくれるようだな。だから俺はお前にお礼をしよう」

 傲岸不遜な物言いだ。

「お礼って、いったい何を?」

「巨万の富だ」

 愛莉は吹き出してしまった。よりにもよって、富を一切持たない人から、その人にとってもっとも縁遠い存在である巨万の富をお礼されるとは、冗談としてもタチが悪すぎる。

 しかも、漣は平然と大まじめに言ってのけた。それがたまらなくおかしかった。

「それはどうも。お気持ちだけ受け取っておく」

「なんだ、疑っているのか。まあいい、とりあえずはお前の空いた腹を満たしてやろう」

 そう言って、漣は自信満々に微笑んだ。

 この漣という男は病的な嘘つきか、さもなくば正気を失った男に違いない。

 いったい、何を企んでいるのだろうか。その企みがどれだけくだらないものだろうと、何かくらいは見てみたい。愛莉はそう思った。

 そして、その時、厨房から店主が現われた。

「はいよ、炒飯、あがったよ」

 そう言って料理をテーブルに運んで来た。取り皿も二つ用意しており、仲良く分けろとでも言うつもりらしい。

 炒飯は、まあ見た目上はよく知る炒飯と大差なく、可もなく不可もない、あまりにも普通然とした、何の変哲もない炒飯そのものだった。

 しかし、漣はそんなことは一切気にせず、テーブルに炒飯が運ばれてくるなり、即座にそれを口に運んだ。取り皿も用意されているのに、お構いなしだ。

 そして、一口頬張るなり、紙ナプキンで口を拭いた。もう食事は終わり、とでも言うかのようだ。

 彼は飢えていたのではないのか? それとも、極限の飢餓を耐え抜いてきたような人間でさえ、一口で食べることを諦めるような凄まじい出来だったのだろうか?

 どちらにせよ、漣は一口で食事を終えてしまった。そして、それが何を意味するか、愛莉は理解しがたかった。

 そして次の瞬間、漣は大声を張り上げた。

「店主!」

 店主もぽかん、としている。言いがかりでもつけるつもりなのだろうか?

 しかし、ホームレスに味で言いがかりをつけられても、何一つとして困ることはない。追い出せばいい、ただそれだけだ。

 しかし、店主の微妙な表情を気にすることなく、漣は続けた。

「店主、厨房を明け渡せ」

 驚くよりも、店主も愛莉も呆れてしまった。

 漣はいったい、何を言っているのか。何がどう飛躍すれば、そんな言葉になるのか。理解ができない。

「なに言ってるんだ兄ちゃん。そんなナリのアンタに、どうして俺が厨房を明け渡す必要があるってんだ」

 至極もっともな話である。しかし、漣はとんでもないことを切り出した。

「こんな炒飯を作るようなアンタに、あの厨房は相応しくない。俺はアンタが作った炒飯より、確実においしい炒飯を作ってみせよう」

 店主は頭に血を上らせた。これも当然だろう。どうして突然やって来たホームレスの男に、料理人であることを全否定されなくてはいけないのか。

「ふざけんな! そんな話に応じるバカがどこにいるんだよ!」

 店主が怒って怒鳴りつけると、漣は大事そうに抱えていたバッグの中身を探し始めた。

 そして、一枚の紙切れを見せつけた。

「俺の生命保険だ。加入後十年経過していて、五千万円の価値がある。もしアンタが作った炒飯の方が、俺の作った炒飯より美味しかったら、俺はアンタにこの全額を払おう。悪いが芹内愛莉。アンタが証人だ。俺が死んだ後、確実にこの男に金が渡るよう、親族に話を付けてくれ」

 話が飛躍しすぎていて、店主も愛莉も呆然としてしまった。

 つまり、簡単に言えば、漣は文字通り命を賭けて炒飯を作る、そう言っているのだ。

「……しかし、兄ちゃん、突然そんなこと言われたってなあ。おい、姉ちゃん! アンタの連れなんだろ! なんとか言ってやってくれよ!」

「ちょい待ち。私もついさっき知り合ったばかりで、混乱してんの」

 愛莉は頭を抱えた。そんな重い話を突然切り出すなんて、考えもしなかった。

 しかし、漣は平然と言葉を続ける。

「なあ店主、アンタが気に病むことはない。何よりアンタが負けても一切失うものはない。ただ厨房を俺に貸すだけが条件の、極めて分のいい賭けと考えてくれ。どうだ?」

 どうだ、と言われても、店主も困ってしまう。

「……わかったよ。ただなあ、こっちからも条件がある」

「なんだ、言ってみろ」

 漣の偉そうな態度に店主は舌打ちしながらも、続けた。

「風呂と服を貸してやるからよ、体を洗って、キレイな服に着替えてから厨房に入れ。それが条件だ」

「了解だ店主。感謝する」

 そう言って、漣は店主に案内され、風呂に入りに行った。

 そして、店主と愛莉はその場に取り残された。まるで、嵐が去ったような感覚を二人とも覚えたのか、奇妙な仲間意識が芽生えつつあった。

 店主が口を開く。

「あんな男と知り合いになる手順を是非知りたいね」

「企業秘密です」

「ふうん。アンタも相当な美人のくせに、物好きだよなあ」

 愛莉は、茶色い背中まで伸びた髪を後ろに束ねており、猫のような目を持つ、顔立ちの整った女性で、その上格好もシャープな印象を受けるグレーのパンツルックという出で立ちだったため、より一層ホームレスそのものという漣との差異が際立っていた。

 だが、それを指摘されることは愛莉にとって、腹立たしいことだった。

「も、物好きですって……」

 愛莉は怒りのあまり、店主に詰め寄り、胸ぐらを掴もうとした。

 確かに物好き、かもしれない。だが、あんまりな物言いだ。ひどすぎる。

 しかし店主は、猛然と詰め寄ってきた愛莉を見て、頭を下げた。

「いや、言い過ぎたな。何か事情があるんだろう」

「特にないの!」

 店主は、愛莉の言葉にきょとんとした。

「特にない? じゃあアンタは理由もなく、行きずりの誰でもいい男と飯を食う畑の人間なのか?」

 まさしくその通りなのだが、客観的に聞くと、とてつもなく奇怪な行動に思えてきた。いったい、自分は何をしているのだろう。

「そんなつもりはなかったけれどね……。たった今自己嫌悪に悩み始めたところ」

 愛莉は頭を抱えた。

「つまり、あの男がなんであんなに自信過剰で、かつ突然自分の命を賭けるなんて奇怪な行動に出たかなんて、アンタも知らないわけだ」

「知らない。変わった男とは思ったけど、あそこまでの変わり者、見たことない」

「俺もない。でもまあ、これは勝手な俺の考えだけどな、ああいう張り方をする奴は、負けのジレンマに囚れないはずなんだがな」

「どういうこと?」

 愛莉の疑問に、店主は冷蔵庫からウーロン茶を出して、愛莉に出しつつ答えた。

「サービスだ。そんなのでお代は取らねぇよ」

「で、どういうこと?」

「簡単な話さ。賭けってのは、負けるから中毒性があるんだ。一万円を負けるとするだろ、その後に、仮に二万を儲けるとする。すると、普通の人はどう考える?」

「一万儲けた、って考えるんじゃないの?」

 ギャンブラーを数多く見てきた愛莉にとって、その模範解答が正しくないのは百も承知である。しかし、敢えて言ってあげる。

「違うね。二万儲けたって考えるんだ。それじゃあ、そのあと三万負けると、どう考える?」

「三万負けた、って考えるんじゃない?」

 店主は首を振る。

「四万負けた、って考える。差し引きじゃなく、その時々の額に一喜一憂して、負けたら過去の負け額にプラスして考えるんだ。こんだけ投資したんだから、こんだけは儲けないと損だ、ってな」

 愛莉は腑に落ちず、眉を顰めた。

「それがあの男とに何の関係があるの?」

「負けを知ってる人間は、負けた分だけ儲けようとする。わかるか? たかだか炒飯を作ることだけになけなしの金を賭けられる人間が、人生是全て負債というホームレスであるわけがない。もしそうなら、儲けがバカみたいにデカい、今まで負けた分全てを取り返せるような賭けをしたいと思っているはずだ」

 愛莉は知っている。賭け事に生活の全てを賭け、結果今までの負け全てを取り返そうとして、今もっている全てを失い続ける人間が数多くいることを。

 彼らは自分が陥った状況に対し、冷静になったり客観視なんてまったくできはしない。何故なら途方もない負けに支配されているからだ。

 そして、負けのジレンマに支配されていない人間は、ほとんどいない。

 漣は、やはり変わり者なのである。

「つまり、あの男はこの勝負に勝つつもりでいるんだな。どうやって勝つかはさっぱりわからねぇが。アンタもあの男がどんな男か、よくは知らないんだろう?」

 もちろん、愛莉はほとんど漣という男がどういう男かを知らない。

 底知れない変わり者であること以上は知らないのだ。

「でも、面白いでしょ?」

 愛莉は微笑んだ。

「それは確かにな」

 店主もにやりと笑った。

 すると、奥から歩いてくる音が聞こえる。おそらくは漣だろう。そして、出てきた男を見て、二人は唖然とした。

 そこには、腐った魚のような目をし、無精髭を生やしていた男の影はなく、自信に満ち、生気濫れる姿の精悍な男がいた。

「さあ、始めようか」

 自信ありげな笑みを浮かべた途端、漣は厨房に入った。先ほどまで背を丸めて、宙をぼうっと見つめていた人間とは同じとは思えないほどに、動作もきびきびとし、覇気が見える。

 そして、料理を作る動作も非常にスピーディーだった。手早く食材を切り分け、しかも切り方も極めて鮮やかであり、長年この厨房を取り仕切っていたかのように滑らかな動きで中華鍋を振る。

 一切の食材の場所や、食材があるかどうかを店主に尋ねることもなく、まるで最初からどこに何があるかを把握しているかのように、流れるように動く。

 そして、瞬く間に炒飯を作り上げてしまった。

「何者だアンタ……」

 店主と愛莉は唖然とした。

 しかし、漣は二人の様子に一切動じることなく、皿を差し出す。

「食べてみろ」

 愛莉と店主は差し出された炒飯を食べてみる。

 店主が作ったものと、ほとんど同じ食材を使ったものなのだろう。だが、その味の感じ方は天と地、月とすっぽんほど違う。

 ふわっとした食感、滑らかな舌触り、そして食材のうまみを引き出した絶妙の味加減。

 店主は絶句した。まさか、正攻法で正面から叩き潰されるとは思っていなかったからだ。

「芹内愛莉、勝敗の判定を頼む」

 漣は、結果など聞く必要もないとばかりににやりと笑った。

 しかし、店主は漣に対し、握手を申し出た。

「こんなにうまい炒飯は初めて食べた。ここに店を構えてもう何十年も経つが、初心に返らせてもらった。そうだよな、客に出すならここまでの物を作らないとダメだよな。アンタに教えられたよ。ありがとう」

 漣は力強く握手した。

 そして、愛莉に話しかける。

「腹は満たされそうか?」

 この男は最初から、初めて入る店でこんなことを起こせるように考え、自分に話しかけたのか。

 愛莉はそら恐ろしくなった。この男はいったい、何者なのだろう。

「では、これでお前の『救いたがり』も満足したな」

 愛莉はその言葉に驚きを隠せなかった。この男は何を言っているのか。

「芹内愛莉、お前は気付いていなかったのか。お前、俺が声を掛けた時、まるで自分が救われたような顔をしていたぞ[#「まるで自分が救われたような顔をしていたぞ」に傍点]。お前が俺を救おうとしていたというのにな」

 店主も愛莉と同じく絶句した。つまり、漣は、愛莉が漣を救うことにより、自分が救われると感じるだろうと見越したために救いに乗ったと、そう言っているのだ。

「バカなこと言わないで! そんなあべこべな話、あるわけがないでしょ!」

「あまりに不可思議だったから、何故かを問うてみたかったのだ。興味本位だった以上、俺の言葉に傷ついたのなら謝る。すまなかった」

 まるで愛莉は、自分が偽善者だと冷水を浴びせられたような気分になった。だが、根底では違う。

 ずうっと癒えない、じくじくといつまでも愛莉の心の中で痛み続ける古傷が、人を救わずにはいられないのだ。

 漣の言った通り、愛莉は『救いたがり』なのかもしれなかった。

「……そうね。ただの興味本位だけであなたに声を掛けようとしたわけじゃないのは、そうかもしれない。

 私、年の離れた妹が、五年前に行方不明になったの。方々手を尽くしても、手がかりの一つも得られなくて。そんな一番苦しいときに差し出された手は、何よりも暖かく感じた。だから……」

「悪かった。そんな古傷を無神経に抉るような真似をするつもりではなかった。これは、お詫びだ」

 そう言って、漣は生命保険の紙を手渡そうとした。

「そんなもの、もらえないって! 貴方が自分の生活を良くするために使えばいいでしょう?」

 だが、そう言われた途端、漣は言い返した。

「芹内愛莉。お前はバカなのか?」

「バカとは失礼ね!」

 すると店主が呆れ顔で言った。

「芹内さんよぅ、生命保険は本人が生きてる間は金が出ねぇ代物だ。つまり、本人にその金を使えったって、そりゃあ無理ってモンだぜ」

 あ。そうか。愛莉は赤面した。

「でも、貰えないってそんな大事なもの!」

 漣は、わかってないなとばかりに頭を大袈裟に振った。

「芹内愛莉、恩に対し、礼が常に生じることなど、求めないだろう? 同じことだ。少しばかり過剰な礼があったところで、個性と考えろ」

「ちょっと個性的すぎるから言ってんの!」

「物わかりの悪い女だな」

 やれやれ、と漣は身を竦めた。

 さて、この厄介な男をどうしよう。埒が明かない。暇つぶしにしても、少しばかり荷が重くなってきている。

 しかし、はたとそこで愛莉は思い直した。三人寄れば文殊の知恵と言うではないか。ちょうど今日、三人のささやかな同窓会を開く。そこでこの男の処遇を決めればいいではないか。

 それに、いい酒のつまみになりそうだ。

「漣くん、これから友達と遊ぶ用事があるんだけれど、付き合ってくれないかしら」

 漣は、恭しく礼をした。

「喜んで」

 店主は、あんぐりと口を広げ、破天荒な愛莉の言動と、漣の対応に驚きを隠せなかった。

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