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最終話 愛知編ボス登場。最終決戦へ

みんなは茶臼山高原へ移動後、長袖を羽織って防御力をさらに高めた。

レストハウスで早めの昼食を取った後、リフトを乗り継いで訪れた芝桜の丘付近の人気の少ない所を散策していく。

「リアル芝桜の丘もでれいい眺めだのん♪ 咲いてる時期にまた訪れたいだに。信晴様、琴実様。ぜひごいっしょに恋人の聖地『砂の泉』にローズクォーツを」

 にやけ顔の菊恵にローズクォーツをかざされお願いされ、

「やらないから。っていうか、いつの間に買ってたの?」

 信晴は呆れ顔で、

「あれはカップル同士でやるものだし、恥ずかしいよ。やるならみんなでやろう」

 琴実はちょっぴり照れくさそうに主張する。

「砂の泉、今日は閉鎖するみたいですよ。怪我をしたカップル続出ということで。ローズクォーツを投げたらすごい勢いで跳ね返って来たとか」

 眞由乃は携帯をネットに繋いで調べた。

「そりゃあ残念だに。ゲーム上ではボスもその辺りで出ることになってるけど、茶臼山の山頂付近へ移動しちゃってるかものん」

「ローズクォーツもモンスター化してるようだな」

「ゲーム上でも茶臼山高原ではローズクォーツがモンスターになってるだに。皆様、さっそく襲い掛かって来ただに」

 ピンクに輝く長さ二〇センチくらいの水晶が数個、信晴達の方目掛けて飛んで来た。

「あれ当たったらすごく痛そう」

 琴実はとっさに信晴の背後へ。

「あまり痛くないな」

 信晴は顔面に直撃したものの、ほぼノーダメージ。

「レベル1状態なら骨が砕けて、頭に当たったら意識が飛ぶくらいの威力はあるけどのん。今の皆様ならケッタ乗ってる時にカナブンが当たったくらいのダメージにしかならんずら。茶臼山高原ではどべ雑魚だに。犬山のげんこつ飴くんよりもへぼいだに」

 菊恵はやはり狙われず。

「でも動きは速いな」

 信晴は竹刀をブンブン振るも、全て空振り。

「わたしも当てられそうにありません」

 眞由乃の扇子攻撃も同じく。

「ホームラン打ったるがや」

 碧衣はバットを見事命中させ遠くへ飛ばしたが、また戻ってくる。

「あたしはこれでやるぅ」

 空葉はそれをメガホンでぶっ叩いて消滅させた。

 天使のハートタルトを残していく。

「ぃやぁーん、このヤギさん、エッチだよ」

 琴実はまた新たな敵に背後から襲われスカートを捲られてしまった。

 メェェェェェェェ~、メェェェェェ~とリアルヤギそっくりな鳴き声を上げながら琴実のスカートをむしゃむしゃ齧る。体高は1.5メートルくらいでリアルヤギより大柄だ。

「茶臼山高原のヤギさんは体力91。角攻撃は会心食らったらレベル7以下なら体力全快でも一撃で体力0になっちゃう威力があるだに」

「こらエロヤギ」

 信晴が竹刀でぶっ叩こうとしたら、

「ぐぉっ!」

 強烈な角突進攻撃を食らわされた。信晴は数メートル弾き飛ばされる。

「琴実様、やぎさんゆうびんを弾きりん。この敵はその歌の演奏を聞かせると、皆様をお友達と思ってくれるだに。信晴様、しっかりしりん」

 菊恵は重傷を負いうずくまる信晴に長篠陣太鼓と鳳来寺山ごまだんごを与えながら伝える。

「そうなの?」

 琴実はさっそくヴァイオリンで演奏。

 メェェェェェェェ~、メッメェェェェェ~。

「あれ? なんか、怒ったような」

「あらら。失敗しちゃったようだに」

 菊恵はてへっと笑う。

「ヤギさん、くらえーっ!」

 空葉は手裏剣で茶臼山高原のヤギさんの顔を攻撃。一撃では倒せず。

「とりゃぁっ!」 

 碧衣もバットで胴体に攻撃を加える。

 メェェェ、メェェェ。

 茶臼山高原のヤギさんの鳴き声はどんどんか細くなっていった。

「まだ倒せんかぁ」

 碧衣はちょっぴり残念がる。

「毛で覆われとるから防御力高いけど、早く仕留めんと草を食って体力回復しちゃうだに。ほらっ」

 メェェェェェ、メェェェェェッ!

 茶臼山高原の羊さんは元気な鳴き声を上げる。

 全快してしまったようだ。すぐに碧衣の方へ角を向けて突進してくる。

「ラムステーキになりゃあ」

 碧衣は冷静にマッチ火で攻撃。

 メェェェェェェェェェェェェェェェェェーッ!

 かなり効いたようだ。茶臼山高原のヤギさんは全身ボワァッと炎に包まれる。

「ごめんねヤギさん。ラムステーキ残していったら美味しく食べるから」

空葉が容赦なく手裏剣でさらに攻撃を三回与えて消滅させた。

 ラムステーキ、ではなく茶臼山高原バタークッキーと、ホワイトチョコとクッキーのコラボ【白い針葉樹】を残していく。

 ほどなく、

 ンモゥゥゥゥゥゥゥ!

 体高二メートル以上はあるホルスタイン型モンスターがみんなに向かって突進して来た。

「牛の化け物だぁぁぁ~」

 琴実はとっさに信晴の背後へ。

「体力96の茶臼山高原の乳牛さんもダメージ受けたら草食って回復するだで一気に倒しちゃって」

 菊恵はすぐにアドバイス。

「この大きい牛さん、怒ってるみたいだね」

 空葉は手裏剣、

「ミルクがいっぱいとれそうだわ。うひゃっ、ぶっかけやがった」

乳房から突如噴き出た牛乳を顔面にたっぷりぶっかけられた碧衣も手裏剣、

「突進されたら間違いなく大ダメージ食らいそうですね」

 眞由乃はマッチ火で、続けざまに攻撃を与えた。

 ンモゥゥゥゥゥゥゥ! ンモゥゥゥゥゥゥゥゥ!

「燃えながらも草食ってるし」

 茶臼山高原の乳牛さんの命乞いをしているかのような鳴き声にも容赦せず、信晴が竹刀で攻撃して消滅させた。ジャージー牛乳パンを残していく。

 息つく間もなく、白色の花型モンスターが十数本束になって飛び跳ねながら近づいて来た。

「高山植物の一種、ホソバノヤマハハコのモンスターね」

 眞由乃は推測。

「その通りだに。茶臼山高原ホソバノヤマハハコ。体力は78、縛り付け攻撃に気をつけりん」

「切り裂いたるわ~」

碧衣は楽しそうにカッターで茎をズバッと切り付けた。

ホソバノヤマハハコの花びらが何本か落ちる。

「いたたたぁっ!」

 落とされた花は一斉にジャンプして、花びら部分で碧衣の頬を両サイドから思いっ切りビンタした。碧衣の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。

「碧衣、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」

「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったがや」

 琴実から受け取った鳳来寺山ごまだんごを食して、碧衣の頬の傷は瞬く間に消える。 

「お花潰しちゃえ」

 花びら部分を空葉がお玉杓子で、

「きゃっ! 茎だけでも動けるのね。足に絡みついて来たわ。いたぃっ! 離れて下さい」

 茎部分を眞由乃が扇子、

「なかなかしぶといな」

 信晴が竹刀で叩いて消滅させた。

 その直後に、

「きゃっ、きゃあっ! 化け物オオクワガタさんだぁ~」

 琴実は新たな敵を見つけてしまい、悲鳴を上げて反射的に信晴の背後に隠れた。

「でか過ぎ」

 信晴は苦笑いを浮かべる。

「お相撲取ったらリアルな熊にも勝てそうだね」

 空葉は嬉しそうに呟く。

「ほんとどえらいでかいがね。きれいに黒光りしてる。いくらで売れるんかね?」

「これを目の前にしたら、最強クワガタといわれるリアルなパラワンオオヒラタさんも戦意喪失しちゃうわね。味方についてくれたら大きな戦力になってくれそう」

 碧衣と眞由乃はデジカメで撮影し始めた。

 全長1.5メートルはあったのだ。大あごの長さも五〇センチ以上はあるように思えた。

「茶臼山高原オオクワガタ、体力は91。噛み付きと大あご挟みに注意しりん。攻撃力は三河グマよりも高いだに」

「やばっ!」

 茶臼山高原オオクワガタは二本の鋭い大あごを大きく広げ、信晴に襲い掛かって来た。

「クワガタさん、これ召し上がれ」

 空葉はすばやく生クリーム餡を顔にたっぷりぶっかける。

 すると茶臼山高原オオクワガタはぴたりと立ち止まったのち、それを夢中で貪り出したのだ。

「これで食べ切るまで攻撃して来なさそうだ。空葉ちゃん、よくやった」

 信晴はマッチ火を投げつけた。茶臼山高原オオクワガタはボワァァァッと燃えながらも引き続き生クリーム餡を夢中で貪る。

「倒すんは勿体ない気がするけど敵だでしゃあないね」

 碧衣はGペン、

「大きなオオクワガタさん、ごめんね」

 空葉は水鉄砲を食らわし消滅させた。ガーリックバター風味の【牛たん燻】を残していく。

「茶臼山高原オオクワガタさんが消えたのは残念だけど、リアルなオオクワガタさん見つけられてよかった♪」

 すぐ近くの木に止まっているのが目に留まり、眞由乃は和んだ。

引き続き付近を散策していると、

「うわぁっ、おい、やめろっ!」

 信晴が突如、背後から襲われる。

「信晴くぅん!」

 琴実は深刻そうな面持ちで叫んだ。

「おう、信晴お兄さんべとべとプレーされとるがやっ。これは萌えるっ!」

 碧衣は嬉しそうに携帯のカメラに収めた。

「碧衣ちゃん、撮るなよ。名物とはいえこれまでモンスター化されてたとはな」

 みんなの目の前に、高さ三メートルくらいある薄紫色のソフトクリーム型モンスターが現れたのだ。信晴は下半身にクリームをぶっかけられ身動き取れなくされてしまっていた。

「茶臼山高原ブルーベリーソフトくん、体力は89。クリーム絡み付き攻撃が得意だに。皆様、早く倒さないと信晴様完全に埋もれて窒息させられて体力0にされちゃうだに」

「信晴お兄ちゃん、今助けるよ」

 空葉は遠くから手裏剣でコーン部分を攻撃。

 見事命中。

「こりゃあ接近し過ぎたらやばいね。犬山ヒトツバタゴ衛門で学んだよ」

 碧衣も手裏剣でコーン部分を攻撃した。

「信晴さん、お任せ下さい」

 眞由乃は同じ箇所にマッチ火を投げつけた。

 これにてコーンとクリーム共に消滅。

「めっちゃダメージ食らってしまった」

 首の辺りまで埋もれてしまっていた信晴も解放される。彼はこの敵が残していったブルーベリーソフトを食して全快させた。

 直後に、

「きゃぁんっ、ヤマドリさんに襲われちゃいましたぁ」

「信晴くん、碧衣、空葉、助けてぇーっ!」

 眞由乃と琴実の悲鳴。コココ、コココッと鳴き声を上げつつ羽を激しくバタつかせるヤマドリ型モンスターに追いかけられていた。

「茶臼山高原ヤマドリ、体力は82。ここの敵ではへぼい方だに」

 菊恵はそいつに完全スルーされていた。

「でかいな」

 信晴はその敵の姿に驚く。体長二メートルくらいはあったのだ。けれども怯まず竹刀を構えて立ち向かっていく。

「お肉美味しそう♪」

 空葉も楽しそうに立ち向かっていった。

「ワタシも戦うよ。あっ、ちっ、ちっ。上からなんかかけられたがや。これ、カレーがや」

 髪の毛からお顔にかけてぶっかけられた碧衣はとっさに木の上を見る。

 そこにいたのは、カレーライス型モンスターだった。枝にバランス良く乗っかっていた。

 直径一メートルくらいある大きなお皿にグリーンカレーがダム湖を模したかのように浸されていて、ライスは堰堤か山を表すように盛られていた。具には取水設備やエレベーター塔、ローラーゲート、アーチ他を表しているかのような青唐辛子、ウィンナー、ブルーベリー、福神漬け、コーン、コロッケなど。湯気もかなり噴き出ていた。

「茶臼山高原ダムカレーくん、体力は85。皿を高速回転させて具やルーの強烈な散布攻撃してくるだで接近戦は危険だに。豊根村は数種類のダムカレーが名物になってるけど、ミックスしてデザインしたらしいだに」

「木の上からぶっかけ攻撃してくるなんて卑怯過ぎるがや」

 碧衣はすばやく手裏剣を投げつけた。

 命中して、茶臼山高原ダムカレーくんは木の上から落っこちる。

「さっきの仕返しでっ!」

 碧衣は今度は黒インクを投げつけ、休まずマッチ火を投げつけて消滅させた。

 ぶっかけられたルーと具も同時に消滅する。

「碧衣お姉ちゃん、パワーアップしたね」

「一人で圧勝してたな」

 茶臼山高原ヤマドリを協力して倒した空葉と信晴は感心する。

「これはボス戦自信沸いて来たわ~」

碧衣が自信に満ち溢れた笑顔で呟いた直後、

「フフフッ。おまえら、おいらの存在に気付けないなんて灯台下暗しだな。おいら、おまえらが湯谷温泉で榊鬼とかと戦ってた時からすぐ近くで見てたんだぜ」

こんな声と共に、木の裏側から白い布のような物体が現れた。

長さは十メートルくらいはあった。

正体は、一反木綿だった。

「捕獲成功♪ おいらの仲間を退治した仕返しだ」

「みんなぁぁぁ、たーすーけーてー」

「離して! 痛いだに」

「あの、やめて下さい。離して下さい」

琴実と菊恵と眞由乃はあっという間に強く巻き付けられてしまった。

「おい、一反木綿、よくも琴実ちゃんと菊恵ちゃんと百合草さんを」

「一反木綿ちゃん、こっすいことせずに正々堂々ワタシ達と戦いやあーっ!」

「琴実お姉ちゃんと菊恵お姉ちゃんと眞由乃お姉ちゃんを返せーっ!」

 信晴達は急いで駆け寄って行くも、

「返して欲しかったら、ここの町屋まで来いよ。ボスの野間灯台納言といっしょに楽しみに待ってるぞよ」 

 一反木綿はそう伝え、地図が描かれた紙を落として琴実達を巻きつけたまま空高く舞い上がってしまった。

「離して下さい。怖いです。わたし、高い所苦手なんです」

「みんなーっ、絶対助けに来てねーっ!」

「おんし、鹿児島編の敵キャラだら? 愛知編に現れるなんて反則だに」

眞由乃と琴実と菊恵は懸命に叫ぶ。

「本来主人公一人で攻略すべき愛知編を、こんな大人数で攻めてくるおまえらの方がよっぽど反則であろう」

 一反木綿はこう主張して、さらに高く舞い上がりスピードを上げた。

「豊川かよ。ここからけっこう遠いぞ。公共交通機関はまともにないだろうから、タクシー呼んだ方が良さそうだな」

「お稲荷さんのとこだわね。そこ行くの何年か前に初詣行って以来でっ。ワタシますます闘志が湧いて来たわ」

「お姫様の救出劇みたいになるね。急ごう!」

 信晴、碧衣、空葉は最寄りのレストハウスへ向かって走っていく。

 途中、

 メェェェェェ、メッメッメェッ、メェェェン。

茶臼山高原のヤギさん三体に行く手を阻むように遭遇してしまった。

「こんなやつらに時間食ってるわけにはいかない。おっと、危ねっ」

 信晴は突進攻撃をひらりとかわすと、すかさず竹刀でぶっ叩き、一撃で消滅させる。

「空葉、水鉄砲で一蹴しちゃえ」

 碧衣は攻撃される前に手裏剣を二発投げつけ消滅させた。

「うんっ!」

 空葉、狙いをしっかり定めて発射。二発で倒すことが出来た。

信晴達がまた走り出してからすぐに、

「うぉわっ!」

「おう、うさぎちゃんがや。きっとモンスターだわね」

「うさちゃん、あたし達急いでるの。悪いけどのいてね」

 体長五〇センチくらいの野うさぎ型モンスターにちょこまかまとわりつかれ、進みにくくされてしまった。

「菊恵ちゃんいないからどのくらいの強さが分からないけど、風貌的に大したことなさそうだ」

信晴はマッチ火を投げつけ一体を消滅させる。

 次の瞬間、

「ぐわあああっ、いってててぇ!」

 別の一体に足をカブッと噛まれてしまった。信晴はその場に崩れ落ちる。

「攻撃力やばそうがや。茶臼山高原の敵は弱そうに見えても侮れんがや。気を引き締めんと」

 碧衣はGペンとマッチ火を同時に投げつけ、

「慎重に狙わないとかわされちゃうね」

空葉は水鉄砲と手裏剣を何発か食らわし全滅させた。

ほとんど間を置かず、

「今度は芝桜のモンスターか」

「動いとるから間違いなくモンスターだわね」

 高さ十五センチくらい。多数集まって絨毯のようになっていたピンクの芝桜型モンスターが信晴達の足元に絡みついてくる。

「くっそ、粘着力高過ぎだ。異様に疲れて来たし、体力吸い取られてるみたいだな」

 信晴は竹刀で叩いて引き離そうとする。

「弱点は火だろうけど、それ使ったらワタシ達までダメージ食らいそうだわ。こうなりゃあ」

 碧衣は黒インクを芝桜型モンスターにぶっかける。

「おう、効いてるみたいがや」

 するとしおらせることが出来たのだ。

「これもきっと効くね」

 空葉が生クリーム餡をぶっかけると、さらに弱らせることが出来た。

「碧衣ちゃんも空葉ちゃんも見事だな。また花のモンスターが襲って来たぞ。何の花か知らないけど」

「これはきっとトリカブトの一種、カワチブシだね」

 高さ五〇センチくらい。青紫の花を咲かすカワチブシ型モンスターが信晴達の足元に襲い掛かって来た。

「空葉ちゃんよく知ってたね。トリカブト属ってことは有毒植物だし早く倒さないとやばいことになりそうだ。いってぇっ!」

 信晴は絡みつかれる前に竹刀でぶっ叩いたが、花びらで膝をパチンッと叩かれてしまった。

「モンスター芝桜みたくまとめて枯らしたるよ」

 碧衣は黒インクをカワチブシ型モンスターにぶっかけた。

「よぉし、こいつにも効いてるみたいがや」

 芝桜同様、一気にしおらせることが出来た。

「完全に枯れちゃえっ!」

 空葉が生クリームをぶっかけて、カワチブシ型モンスターは消滅する。

「気分悪っ。毒に侵されたみたいだ。やばいなぁ。俺、毒消しの薬草持ってないぞ」

 信晴は顔を少々青ざめさせ、息苦しそうに呟いた。

「ワタシも持ってせんよ」

 碧衣は深刻そうな面持ちで伝える。

「回復役の琴実ちゃんと、菊恵ちゃんがさらわれたのはかなりの痛手だな」

 信晴はさらに状態が悪化したようで、その場に座り込んでしまった。

「大丈夫だよ信晴お兄ちゃん、あたし、湯谷温泉のお湯汲んどいたから。山だから毒持ってる敵も多いと思って」

 空葉は水筒に詰められたそれをリュックから取り出し、信晴の眼前にかざした。

「空葉ちゃん、準備良いな」

信晴はありがたく受け取って足にぶっかけると、瞬時に毒状態から完治。同時に体力も全快する。

 この三人が再び走り出してからすぐに、

「うをあっ!」

「ひゃっ、地面が盛り上がっとるがや。きゃんっ」

「きゃあああっ!」

 今度は下から突き上げられる形で弾き飛ばされ、けっこうダメージを受けてしまった。なんと地面からピンク色の野菜型モンスターが現れたのだ。直径一メートル以上はあり、葉っぱも付いていた。

「桃かぶかよ。こんな登場の仕方までするとはな」

 信晴のマッチ火、

「桃かぶちゃん、芝生破壊したらいかんじゃん」

碧衣の手裏剣、

「美味しそうだけど、あたし達急いでるのっ!」

空葉のヨーヨー攻撃三連発であっさり消滅させた。

 壊された芝生も元に戻る。

 またすぐに、茶臼山高原ヤマドリが三体襲い掛かってくる。

「おう、あっさり倒せたぞ」

「二発で消えるとは思わんかったわ」

「すごく弱く感じるね。あたし達またレベルが上がったんだね」

 信晴の竹刀、碧衣のカッター、空葉のメガホン攻撃で、空振りすることなく全種一撃で倒すことが出来た。

 再び走り出した信晴達、ほどなくまた行く手を阻まれてしまう。

 体長二メートル以上はある、ツキノワグマ型モンスター三頭だ。

「ここに出るってことは、茶臼グマなんだろうな。三河グマより体格良いし。うわっ、あぶねっ。ぐあっ、いってぇぇぇ!」

 鋭い爪を繰り出された。信晴はかわし切れず、頬がスバッと切れてしまう。

「接近すると危ないよね」

「茶臼グマ、ワタシ達急いどるんだわ」

 空葉と碧衣は手裏剣で攻撃を加える。

 一撃では倒せなかった。

「一頭は何とか倒せたけど、強過ぎだ」

 信晴はマッチ火と竹刀で頬を切り付けた一体に対抗し勝利を収めるも、足や腕にもけっこうダメージを食らってしまった。すぐに鹿肉ハムなどを食して体力を全快させる。

「ほんとに三河グマよりも強いがや」

 碧衣は残った二頭に黒インクを投げつけ、目つぶし攻撃を食らわす。

 クゥゥゥオ!

 クァァァッ!

「碧衣お姉ちゃん、けっこう効いてるみたいだよ」

「おう、上手くいったか!」

すばやく空葉と碧衣は手裏剣、

「碧衣ちゃん、ナイスだ。熊怯んでるぞ」

信晴はマッチ火攻撃を休まず何発か食らわし全滅させた。

「天使のハートタルトと白い針葉樹とチーズケーキと、高級で超レアな茶臼山高原MauntainRollまで落してくれるなんてちょうどよかったわ~」

「太っ腹な熊ちゃんだったね」

「やっぱ茶臼グマだったみたいだな。でも圧倒的な強さの差はなくてよかった。移動しながら体力全快させとくか」

 その後は敵に遭遇することなく、レジャー客が多くいたレストハウス前に辿り着くことが出来た。その場所で信晴が代表してタクシーを呼ぶ。

     ※

信晴達がタクシーに乗り込んでから一時間半ちょっとが経った頃、

「でれ痛いだに」

「締め付け弱めて、っていうか、離して下さい」

「私、おしっこしたくなっちゃった」

 眞由乃と菊恵と琴実は豊川市内にあるとある町屋の和室隅で、かずらで全身を拘束されていた。

「縛られた女子おなごを眺めながら飲むリアル西尾産の碾茶はじつに美味いだがや」

「そうですね、野間灯台納言」

 高さ二メートル近くの野間灯台納言と、一反木綿は彼女達のすぐ側で茶を啜っていた。

「きゃっ! パンツ捲って来たよ」

「でれいやらしいだに」

「なんともエッチなかずらさんですね。外れないわっ」

 縛られた三人は必死で振り解こうとするも、なすすべなし。

「この子は徳島編に出る祖谷のかずら衛門だもんでね。犬山ヒトツバタゴ衛門よりも十倍は強いわよ。オホホ、いい肉がとれそうだわ♪」

 野間灯台納言はにやりと微笑む。リアルのものとは違い、壁面の開口部分を変形させて表情を自在に作ることが出来るようだ。

「ぼたん鍋といっしょに煮込むとより美味しくなりそうですね」

 一反木綿も微笑む。

「私達、食べられちゃうの? 私、脂肪と贅肉だらけだからすごく不味いよ」

「わたしも同じく大変不味いです。ムダ毛も多いですよ。食べないで下さい」

 琴実と眞由乃の顔が青ざめる。

「琴実様、眞由乃様。冗談で言っとるんずら」

 菊恵は笑っていたが、やはり恐怖心を感じていた。

「さてと、そろそろ調理を始めましょっか」

「野間灯台納言、出刃包丁持って来ましたぜ。まずは一番美味そうな太ももから裂いていきましょうや」

 一反木綿は自身に巻き付けて運んで来た。

「いやぁぁぁ~、やめてぇぇぇーっ!」

 琴実は恐怖心で目から涙からこぼれ出た。

「本当に、やる気なのですか?」

 眞由乃の表情も引き攣る。

そんな時、

「みんなーっ、助けに来たよ」

「おっ待たせーっ! ボスバトル、どえらい張り切るよ。おう、野間灯台納言、リアル野間灯台にそっくりだわ。高さは十分の一くらいしかないけど」

「みんな無事か?」

 信晴達、到着。

「信晴くん、空葉、碧衣。来てくれてよかったぁぁぁぁぁ~」

「信晴さん、空葉さん、碧衣さん、わたし達が犠牲になるまでに間に合うと信じていましたよ」

 琴実と眞由乃は嬉し涙をぽろりと流す。

「信晴様、空葉様、碧衣様。健闘を祈るだに」

 菊恵はホッとした笑顔で伝えた。

「オホホ、よく来たわね」

「おまえらに勝てるかな?」

「野間灯台納言って、女なのかよ? とにかくみんなを早く解放してやれ」

 信晴は険しい表情で訴える。

「わらわらに勝てたら解放してやろう。わらわが出る幕もないと思うがね」

 野間灯台納言がそう言うや、後ろの襖がガラリと開かれた。

「おまえらがおれっちに勝つのは絶対無理だろうな」

 そして別の敵キャラが登場する。

「おう、きみは昨日の男の娘! 今日は服装もかわいいがや♪ なんか酒臭いけど」

 碧衣は満面の笑みを浮かべた。

「根暗っぽい姉ちゃん、昨日はよくもやってくれたな。今日のおれっちは酒も入って本気モードだぜ。仕返しだぁーっ!」

 花柄チュニックに水玉ミニスカートを穿いた男の娘姿ののた坊主はそう言うや、碧衣に飛びかかり、両おっぱいを服越しに鷲掴みしてくる。

「こっ、こら。おっぱい揉まんといて。力抜けちゃうから」

 予想以上のすばやい動きだったため、碧衣はちょっぴり動揺してしまった。

「それそれそれーっ」

「あぁっん、もうやめて欲しいわ~」

 優しく揉まれるごとに、碧衣のお顔はだんだん赤みを増していく。

「おいっ、やめろっ!」

 信晴はのた坊主の後ろ首襟を掴んで引き離そうとした。

「動き遅過ぎ♪」

 しかし余裕でかわされた。

「きゃんっ!」

 弾みで信晴の右手が碧衣の胸に服越しだがしっかり触れてしまう。

「ごっ、ごめん碧衣ちゃん」

 信晴は反射的に右手を引っ込めた。

「いや、べつにええよ」

 碧衣は照れ笑いする。

「みんな頑張れーっ!」

「うち、期待しとるだに」

「信晴さん達なら絶対勝てると信じてますよ」

 琴実と菊恵と眞由乃はきつく縛られて苦しそうにしつつも、温かいエールを送ってくれた。

「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、くらえっ! フラーッシュッ!」

 空葉はポケットからデジカメを取り出し、のた坊主の写真を撮った。

「ぎゃっ、目がくらんだ。卑怯だぞおまえ」

 怯むのた坊主。

「卑怯じゃないもん」

 空葉は続いて水鉄砲を取出し、のた坊主の顔面目掛けて連射。

「うひゃぁぁぁっ!」

 けっこう効いたようだ。

「のた坊主、動き鈍ったな」

 信晴はすかさず竹刀でのた坊主の腹をぶっ叩く。

「いってぇぇぇ。こうなったら……」

 のた坊主は本来の姿に戻るや、口から糸を吐き出した。

「ん? うわっ!」

 信晴は体中を巻きつけられてしまった。

「どうよ、奥義、のた坊主の糸車♪」

 のた坊主は得意げに笑う。

「身動きとれねえ。うわっ」

 信晴、体を揺さぶってみたらバランスを崩して地面に転がってしまった。

「信晴お兄さん、ワタシがほどくよ」

「あたしも手伝うぅ」

 碧衣と空葉は信晴の側へ駆け寄っていくが、

「おまえら油断し過ぎ。それぇっ!」

「うわっ、引っかかっちゃった!」

「しもた。油断したわ~」

 のた坊主に信晴と同じようにされてしまった。二人とももう一歩動こうとしたらバランスを崩し、地面に転がってしまう。

「ホホホ、いい気味ね」

「これで攻撃し放題だな」 

 野間灯台納言と一反木綿はにやりと笑う。

「おれっち、碧衣っていう腐女子っぽい子、ボコボコに痛めつけたい。おれっちに猥褻なことした仕返ししちゃるぅっ!」

 のた坊主は男の娘姿に戻り、にやにや笑いながら碧衣の方へ近づいていく。

「くっそ、糸さえほどければ」

「ワタシ達、大ピンチになっちゃったよ」 

「ほどけないよぅーっ」

 信晴、碧衣、空葉。自分で糸をほどこうとするがほどけず。

「信晴くぅん、空葉、碧衣ぃ。助けてあげられなくてごめんねー」

「うち、何も出来ないのが甚だ悔しいだに」

「わたしも同じく」

 琴実と菊恵と眞由乃は心配そうに見守る。

「姉ちゃんのお尻警策で十発くらい叩こうかな?」

 のた坊主はにやにやしながら碧衣の側でしゃがみ込む。

「あーん、屈辱だがやぁ」

 碧衣は頬を火照らせ照れ笑いする。

「そう言いながらやけに嬉しそうにしてるじゃないか。ひょっとして姉ちゃん、マゾ?」

「いやぁ、嬉しくはないって」

「本当かよ? さてと、まず手始めに姉ちゃんのパンツの柄を拝見……あっ、しまった。こんなに縛り付けたらスカート捲れないがや」

 のた坊主はそのことにたった今気付いたようだ。

「のた坊主ちゃんったら、ドジッ娘だわね」

 碧衣はくすっと笑った。

「こうなったら、スカートの周りだけ糸外してやるぅっ!」

 のた坊主はむきになってスカートポケットから鎌を取り出した。

「きさまの生尻とくと拝見してから、次はそっちのお兄さんの生尻を」

「おーい、俺の尻見たって何も得しないぞ」

 信晴は呆れた表情で主張した。

「ワタシも信晴お兄さんの生尻見たい! のた坊主ちゃん、ワタシにも見せてやあ」

「いいぜ。まずおれっちが拝見してからね」

「よっしゃぁ!」

「二人とも、何打ち合わせしてんだよ」

 信晴はいらっとした表情を浮かべていた。

「あたしは信晴お兄ちゃんのお尻、昨日見たばっかりだよ。いっしょにお風呂入ったもん」

 空葉はにこにこ顔で伝える。

「空葉ちゃん、そんなこと伝えなくていいから」

 信晴は穴があったら入りたい気分だった。

「羨ましい! どんな感じだった?」

 のた坊主は興奮気味に質問する。

「パパのお尻よりは小さかった」

 空葉はにこにこ顔のまま答えた。

「そっか。まだ成長途中だもんな」

「ワタシが最後に信晴お兄さんの生尻見たのは、もう五年以上は前になるかね?」

 碧衣はにやついた表情で呟く。

「おまえら、いい加減にしてくれ」

 信晴、ますます居た堪れない気分に陥る。

「姉ちゃんも見たことあるのかよ。ますます許せなくなったぜ。こちらの空葉っていう女の子はかわいいから、足の裏こちょこちょ攻撃で許してあげるよ」

 のた坊主はそう伝えてパチッとウィンクした。

「ええーっ、それは嫌だなぁ」

 空葉は苦笑い。

「碧衣ってやつ、大人しくしてやあっ! 動くと肌までブシュッて切れちゃうよ。この鎌はどえらい切れ味良いからね」

 のた坊主は碧衣のスカートに接している糸の結び目部分をスパッ、スパッ、スパッと三箇所切る。

「これでスカートずらせる」

 のた坊主がにやついた表情でそう呟くや、

「スカートずらせるだけじゃないんだわ、のた坊主ちゃん」

 碧衣はガバッと立ち上がった。

「あれ? 今ので全部ほどけちゃった?」

 唖然とするのた坊主。

「そうみたいだわ。のた坊主ちゃん、やっぱドジッ娘ね」

 碧衣はにっこり微笑む。

「碧衣お姉ちゃん、自由になれたね」

「のた坊主、自滅したな」

 信晴と空葉は安堵の表情を浮かべた。

「こうなったら、実力で」

 のた坊主はまた本来の姿に戻り、碧衣に果敢に立ち向かっていく。手をグーにして碧衣のお腹にパンチを食らわそうとしたが、

「ワタシ、昨晩よりはレベル上がってるからそう上手くはいかんよ」

 碧衣は余裕でのた坊主の体にガバッと抱きついた。

「あれ? なんでそんなに動きいいの?」

「さっきのは演技でっ。よっと」

「わーん、おーろーしーてー」

 そして両手で抱き上げたのち片手で肩に担ぎ上げ、そのまま空葉のもとへ。

「空葉、じっとしててね」

「うん」

もう片方の手で地面に落ちた鎌を拾い、空葉の体に接している糸の結び目を何箇所か切る。

これで空葉の体は自由になった。

碧衣は同じ要領で信晴の体に絡み付いている糸も、

「この格好のままの信晴お兄さんもなんか萌えるから、そのままに」

「こらこら碧衣ちゃん。早く切れって」

「碧衣、信晴くんで遊んじゃダメだよ」

「碧衣お姉ちゃん、いじわるしないで早く切ってあげて」

「冗談、冗談。ごめんね信晴お兄さん」

 一回躊躇ったがすぐに切って、自由にしてあげた。

「碧衣ちゃん、ありがとな」

「どういたしまして」

「さてと、こいつをなんとかしないとな」

 信晴は竹刀を持って、のた坊主の側へにじり寄る。

「やめて下さい。おれっち、深く反省してます」

 うるうるした瞳で言われるが、

「許さない」

 信晴は容赦なくぽっこりふくれた腹を竹刀でぶっ叩き、消滅させた。

「やったね信晴くん」

 琴実は嬉しそうに微笑んだ。

「やるわね」

 野間灯台納言はちょっぴり感心しているようだ。

 のた坊主が消えた後には、柄の違う水玉ショーツが二枚残されていた。

「琴実お姉ちゃん、これ、昨日盗まれたやつでしょ?」

「うん、それだよ。戻って来て良かった♪」

「よかったね琴実お姉さん。なんか、よだれでべっとりしとるがや」

 碧衣は手で掴もうとしたが、思わず引っ込めた。

「じゃあ、もういらなーい。捨てといて」

 琴実は嬉しそうな笑顔から悲しげな表情へと変わった。

「変態狸だな」

 信晴は呆れ笑いする。

「あいつはゲームの中でも人間の女によくエロいイタズラしてるぞよ。妖怪のくせに妖怪の女には全く興味ないそうだ。さて、おまえら、次はおいらと勝負だっ!」

 一反木綿は信晴達に立ち向かって来た。

「一反木綿なんて所詮布だろ?」

「うわっ、しまった」

 碧衣はカッターで一反木綿をズバッと切り付けた。一反木綿の体に切れ目が入る。

「べとべとびちょびちょにしたら弱りそうだね」

 空葉は生クリーム餡と水鉄砲を命中させた。

「ぬぉぉぉっ」

 一反木綿、ぐっちょり濡れて弱る。

「俺が戦うまでもなく勝てそうだな」

 そんな無様な姿を見て信晴はにこっと笑った。

「こいつ、思ったより弱いじゃん」

「碧衣お姉ちゃん、いっしょにとどめ刺そう」

 碧衣はバット、空葉はお玉杓子を一反木綿に向けた。

「こうなったら」

 一反木綿は目をきらっと輝かせる。

 するとなんと、

「えっ! 嘘?」

「ありゃ? 足が……」

 深刻な事態へ。

空葉と碧衣はあっという間に石化されてしまったのだ。

「あっ、空葉っ! 碧衣ぃ!」

「空葉さん、碧衣さん!」

 琴実と眞由乃、予想外の光景に思わず叫んだ。

「魔法は、使えないはずじゃ」

 唖然とする信晴に、

「これは妖力だもんでね」

 野間灯台納言は得意げに言う。

「碧衣と空葉が、石になっちゃったぁぁぁ~」

 琴実は嘆きの声を漏らし、悲し涙をこぼす。

「心配しないで琴実様。石化を解く粉を使えば、つまり一反木綿を倒せば、手に入って元に戻せるだで」

「本当?」 

「はい。一反木綿、愛知編の敵では使ってこない妖力使うなんてますます反則だに」

「反則なのはおまえらの方もだろう」

 一反木綿はフフフッと笑って得意げに反論する。

「なんだ。急に体に異様な疲労感が」

 信晴はハァハァ息を切らす。

「おいらの妖力できみの体力吸い取っちゃった♪」

一反木綿は完全復活してしまった。

「そんな技まで使えるのかよ」

 信晴は白い針葉樹を食して、体力を八割方回復させた。

「おいらじゃ男には石化攻撃は効かんっていう設定は納得いかんがのう」

 一反木綿は少しやさぐれた表情で言う。

「ほほほ、わらわとこいつ、おみゃぁ一人で倒すしかないわよ」

 野間灯台納言は勝ち誇ったようにフフフッと微笑む。

「本気で行くぞっ!」

 信晴は怒りに満ちた表情を浮かべ、竹刀を野間灯台納言目掛けてすばやく思いっ切り振りかざす。

「きゃんっ、いっ、痛ぁい」

 見事直撃し、野間灯台納言は甘い声を漏らした。

「信晴様、いい振りだのん。乗り気なようででれ嬉しいだに」

「みんなを救うために、本気になってくれてるね」

「信晴さん、主人公らしい活躍振りですね」

 菊恵と琴実と眞由乃は苦しそうにしながらも笑みを浮かべて賞賛する。

「大丈夫か?」

 信晴はにっこり笑い、心配してあげた。

「敵に情けをかけるなんて、勇者らしくないわね。これでもくらいなさい坊や」

野間灯台納言は上部分をピカッと光らせる。

「うわっ! とてつもない眩しさだ。足助たんころりんの比じゃないぞ」

 信晴は目がくらんでしまった。

「ここからは相撲勝負よ。はっけよぉい、のこった!」

 野間灯台納言はその隙に信晴に寄りかかって体勢を崩させ、馬乗りになった。

「しまった。うっ、動けねえ。重いっ。なんてパワーだ」

「どんどん重くなってくるわよ♪」

「ぐあぁっ!」

 信晴は必死に振り解こうとするが、どうにもならず。

「ただいまの決まり手は、寄り倒しだな」

 一反木綿はにこにこ顔で呟いた。

「信晴くーん、頑張ってー」

「信晴様、早くやっつけちゃいりん。長引くとまずいだに」

 琴実と菊恵からそう言われるも、

「そうは、言ってもな……」

 信晴は何も活路を見い出せなかった。

「それっ、縦四方固よ♪」

 野間灯台納言は柔道の技を用いてさらに強く圧し掛かってくる。

「いってててぇーっ!」

 痛苦しがる信晴。

「そろそろ参ったって言った方がいいんじゃないかしら? おみゃぁの体、一反木綿みたいにぺっちゃんこになっちゃうわよ♪」

 野間灯台納言は嘲笑う。

「まだ降参はしない。振り解いてやるっ!」

「信晴様ぁ、もう降参しりん。体力が0になっちゃうだに」

「信晴さん、もう無理はしないで。これはゲームなんだから」

「そういうわけにはいかない。俺は、主人公、だから」

 信晴は非常に苦しそうな表情で伝える。

「わらわはまだまだ本気で圧し掛かってないのよ。体をもっともっと大きく重くすることが出来るだでね」

 野間灯台納言はにっこり笑っていた。余裕の表情だ。

「関係ない。俺は、全力を、尽くす、だけだ」

「ほほほ、起き上がれるものなら起き上がってみやあ」

「ぐぁっ、ダメだ。こいつ強過ぎる。くっそ。もう少し、レベルを、上げて、いれば……」

 信晴の意識は徐々に薄れゆく。

「信晴くぅん、しっかりしてーっ」

「申し訳ないです信晴さん、わたし達は無力でした」

「信晴様、今のレベルじゃ勝ち目はないだに。降参して、もっとレベルを上げて再チャレンジしよまい」

 琴実、眞由乃、菊恵の三人は涙をぽろりと流しながら伝えた。

「いや、それは……」

 信晴は朦朧とした意識の中で懸命に呟く。

「わらわの勝利ってことでオーケイ?」

 野間灯台納言は満面の笑みで勝利宣言。

「主人公もまだまだレベルが足りんな」

 一反木綿も嘲笑う。

その直後だった。

驚くべきことが起きた。

「あれ? ワタシ、どうなってたんかや?」

「あたし、動けるようになってる」

 碧衣と空葉が石化から元の状態へ回復したのだ。

「碧衣、空葉。よかったぁぁぁ~っ!」

「二人とも、戻ってくれてよかったです」

「おう、奇跡だに。あっ、あれ?」

 さらに琴実、眞由乃、菊恵も絡み付いたかずらが解かれ自由の身になった。

「なっ、何ゆえ?」

「そんな、バカな。なぜなの?」

 一反木綿と野間灯台納言も思わぬ事態にあっと驚く。

「野間灯台納言、軽くなったな」

「きゃぁんっ! しまった。つい力抜いてしもうたわ」

 信晴は野間灯台納言を突き飛ばし、すっくと立ち上がった。

「信晴様も完全復活だのん」

「信晴くん、よかったぁぁぁっ!」

 琴実は歓喜の叫びを上げ嬉し涙を流した。

「どういうわけか、体力も全快したみたいだ」

 信晴は元気溌剌とした声で伝えた。

「なぜよ? あり得せん」

 野間灯台納言が呆気に取られた表情で呟いた。

 その矢先、

「こりゃぁっ! 一反木綿、野間灯台納言!」

 老婆の怒鳴り声がこだました。

「この声は、雪オンバ様?」

「雪オンバ。なっ、なぜここにいるの?」

一反木綿と野間灯台納言はびくりと反応した。

「ゲームの外に飛び出して何やってんだい?」

 声の主はみんなの目の前についに姿を現す。

「おう、なんかイメージのより若くて美人だわ。声はしっかり老婆だけど」

「本当に雪オンバなの? 顔が全然怖くない」

「雪女の長野県伊那地方での呼び名、雪オンバさんは言い伝えでは山姥の姿をされているそうですが、少女ですね」

 碧衣と空葉と眞由乃は不思議そうにじっと見つめる。

 長い白髪、白装束姿なのは一般的なイメージ通りだったが、老婆には全く見えず十代半ばの少女のようなお顔で、穏やかそうな雰囲気を醸し出していた。

「雪オンバは姿形は諸説あるだで、どんな風にデザインしてもいいだろうという製作者の考えでこんな萌え系のデザインになったみたいだに」

「それは初耳だな。お主ら、おらの妖力で石化を解除して、かずら衛門も瞬殺しておいたぞ。あと信晴とかいう男の体力も全回復させておいた」

 雪オンバはハキハキした声で得意げに伝える。

「そんな能力が使えるとは、相当強い敵なのでしょうね」

 眞由乃は感服したようだ。

「最強の妖怪じゃないけど、長野編の中ボスで体力は二千以上あるだに」

「愛知の次に進むべきステージが、隣の長野じゃないってことは確かだな」

「あれー? 痺れて動けないわ。リアル野間灯台のごとく」

「おいらもだ」

「おらが痺れの妖力をかけておいた。お主ら、今のうちに倒しておけ」

 雪オンバはほんわかした表情で勧めてくる。

「それじゃ、遠慮なく。野間灯台納言、覚悟しろっ!」

「きゃあぁぁんっ!」

 信晴は野間灯台納言を竹刀で何度も攻撃しまくる。

「一反木綿、ワタシを石化した仕返しでっ!」

「一反木綿のおじちゃん、覚悟してね」

 碧衣は黒インク、空葉は生クリーム餡と水鉄砲を用いて攻撃する。

「うぎゃぁぁぁっ!」

 インクと生クリームと粒餡まみれでふやけて一部破けてしまった一反木綿に、

「ボスの野間灯台納言さんは、主人公の信晴さんが一人で倒した方が良さそうですね。わたしが一反木綿さんにとどめを刺すわ」

 眞由乃はマッチ火を投げつけた。

「ぐげぇぇぇ。あっ、ちっ、ちぃっ」

 一反木綿、苦しそうに跳ね回る。

「なんか、かわいそうになって来た」

 心優しい琴実は同情してあげた。

「もう、やめてくれ。おいら、ゲームの中に戻るから」

「わらわもじゃ。降参じゃ、降参。わらわを痛めつけるのはやめて、お願いじゃ」

 一反木綿と野間灯台納言は怯えた様子で懇願してくる。

「ワタシ、もう満足したからええよ」

「あたしも許してあげるよ」

「わたしも、許しますよ」

「皆様心優し過ぎるだに」

「俺は許したくないけど、これで俺達の勝ちってことでいいな?」

 信晴が確認を取ると、

「うむ、わらわらの負けじゃ」

「おいら達の負けでいいよ」

 野間灯台納言と一反木綿はあっさり負けを認めた。

「信晴様、最後は主人公らしく締めましたのん」

 菊恵は満面の笑みを浮かべる。

「信晴くん、ありがとう。すごく格好良かったよ」

「信晴さん、無力なわたし達を救って下さり、誠にありがとうございました」

 琴実と眞由乃は信晴の手をぎゅっと握り締めた。

「いや、べつに当たり前のことをしただけだから。礼なら碧衣ちゃんと空葉ちゃんと雪オンバの方に言って」

 信晴はかなり照れてしまう。マシュマロのようにふわふわ柔らかい感触が、信晴の両手のひらにじかに伝わって来たのだ。

「信晴お兄さん照れてる照れてる。ともあれワタシ達の勝ち決定だわね」

「これでリアルな愛知編クリアだね」

 碧衣と空葉は満面の笑みを浮かべる。

「お主ら、一反木綿と野間灯台納言が多大なご迷惑をおかけして本当にすまんのう。二度とリアル世界に飛び出て悪さしないよう、しっかり懲らしめときますので。一反木綿、野間灯台納言、みんなに謝りな」

「いっ、て、て、てぇ。ごめん」

「ごめんなさーい」

 雪オンバはみんなに向かって深々と頭を下げて謝罪。一反木綿と野間灯台納言も無理やり下げさせられていた。

「いえいえ。うち全然気にしてないだで」

 菊恵は苦笑いを浮かべる。一反木綿と野間灯台納言のことを少しかわいそうに思ったようだ。

「信晴というお方、おら達、ゲーム内に帰るから、今から出すテレビにゲーム機を繋いで例のゲームを起動させてくれんかのう」

 雪オンバはそう言って畳に冷たい息をふぅっと吹きかけると、四八インチ液晶テレビが現れた。

「おう、魔法だわっ!」

「雪オンバのおばちゃん、すごーい」

 碧衣と空葉はパチパチ拍手する。

「碧衣という子、これは魔法ではなく妖力なのじゃよ」

 雪オンバはホホホッと笑った。

「あの、俺の部屋のテレビじゃないと、飛び込めないと思いますけど」

「そこはおらの妖力で何とかする。野間灯台納言をゲーム内に戻せば、残る雑魚敵達も皆二、三日中には現実世界から完全消滅して、ゲーム内に戻るようになっておるぞ」

「そうなんですか。じゃあ繋げますね」

 信晴は準備が整うと菊恵が飛び出て来た続きからのデータを選択。菊恵のいない茶店内部の画面が映る。

「ほら一反木綿、野間灯台納言、帰るよ」

「嫌だぁぁぁ~」

「痛いよ雪オンバ様、頬引っ張るなって」

 野間灯台納言と一反木綿は雪オンバに無理やり引き摺られていく。

「お主達、もっともっとレベルを上げて、ゲーム上でいつかおらに挑んで来い。長野編で待っておるぞよ」

雪オンバはどや顔でこう言い残し、野間灯台納言と一反木綿を掴んだまま画面に入り込んでいく。

「リアル愛知県巡りもなかなか楽しかったがや。リアル野間灯台とも対面出来て嬉しかったよ。ゲームの中に帰りたくないよぅぅぅ」

 野間灯台納言は名残惜しそうに、悲しげな表情で捨て台詞を吐いた。

 テレビもその約三秒後に消滅した。畳に付いた黒インクなどの汚れもきれいに消える。

「あの雪オンバちゃん、どえりゃあかわいかったがや。敵キャラはまだリアルにおるってことだわね。帰りも倒しながら進もまい! まだ四時ちょっと過ぎだし」

「賛成! あたしもまだまだ敵と戦いたぁーいっ!」

「わたしも同じく」

「俺も、もう少し戦い楽しみたい」

「みんなぁ、タクシーここに呼んでなるべく外出歩かないようにして帰ろう」

「ご安心しりん琴実様。皆様の今の力なら愛知編の雑魚敵はどれも楽勝だで。あのう、じつは、敵キャラ、うちがわざと飛び出させたんだに。皆様にリアルRPGを体験してもらおうと思って。愛知編の敵なら、ごく普通のリアル世界の高校生以下の子でも何とか出来るずらと見込んでただに。それにうち、リアル愛知も旅したかったし」

 菊恵はえへっと笑って唐突に打ち明けた。

「えっ! 本当なの? 菊恵ちゃん」

「そうだったのですかっ!」

「菊恵お姉ちゃんが仕掛けたんだね」

「菊恵ちゃんもなかなかのエンターテイナーだわね」

「おいおい、俺のせいじゃなかったわけか」

 他のみんなは当然のように面食らったようだ。

「一昨日の夜に伝えた時は、じつはまだ敵キャラ飛び出してなかったんだに。信晴様がぐっすり眠っておられた真夜中にこっそり飛び出させただに」

 菊恵はさらにこんな秘密も打ち明け、てへっと笑う。

「電源切ってたのに、出れたのか?」

 信晴は驚き顔だ。

「テレビの電源切られてても、ゲーム機が繋がれてあのゲームが中に入ったままだったもんで」

「……そうか」

「それもまた不思議な仕組みですね」

「菊恵お姉ちゃんは、敵キャラとお友達なの?」

「一部はそうだに」

「菊恵ちゃん、また新しい敵、どんどん飛び出させてやあ。今度はのちの敵からの援助なくワタシ達だけの力でボス倒したいわ~」

「碧衣、私はもう戦いには絶対参加しないよ」

「琴実お姉さんは今回ほとんど戦ってせんかったじゃん」

「痛い思いしたくなかったんだもん。結果的に何度もしちゃったけど。私、おトイレ行ってくる」

 先ほどから尿意を感じていた琴実は、玄関横のトイレに駆け込んだ。

「……えっ! 和式の、ぼっとん!?」

          ※

結局みんなは帰り、豊川のいなり寿司、お稲荷様像、バラ。豊橋の手筒花火、カレーうどん、豊橋筆など、違うコースを通って新しいご当地敵キャラとも出遭い、楽しく戦闘をしながらそれぞれのおウチを目指して進んでいったのであった。

          ☆

 みんなが帰宅したのは午後八時半過ぎ。

「リアル愛知土産、どさまく買えてよかっただに。ほんじゃあ信晴様、おやすみー。また近いうちに出してのん」

「おやすみ菊恵ちゃん」

 信晴は玄関を抜けると母に見つからないよう注意して菊恵を自室に連れて行き、あのゲームを起動させて菊恵をゲーム内に戻してあげた。

 同じ頃、蟹江宅では夕食の団欒中。

「愛知県内で多発してる怪奇現象、みんなは遭遇せんかった? 夕方のニュースで特集やってたわよ。今日のお昼過ぎからはだいぶ目撃情報が減ってるみたいだけど」

 母のこんな質問に、

「そんなのがあったの?」

「ワタシ全然知らせんよ」

「あたしもーっ」

 三姉妹は一応知らないふりをしておいた。

「そっか。母さんも遭遇してせんけど、空飛ぶシャチを見たとか、凶暴な鹿を撃ったら姿が消滅したとか、茶運び人形が目の前で突然消えたとか、野間灯台が二つ向かい合ってたって目撃情報もあったみたいよ」

     ※

 翌日の敬老の日、信晴と三姉妹は旅の疲れを癒すため、一日中家でゴロゴロしてしっかり休養を取った。

 眞由乃はその日、午前中は名古屋市内のゲーム販売店であのゲームを探し回ったが見つからず、午後から母といっしょに豊田市内まで遠征して、

「やっと見つけたぁっ! 家帰ったらやりまくるよっ!」

「そんなにはしゃぎ回る眞由乃、久し振りに見たわ」

日も暮れて来た頃に一本だけ投売りされていたのをやっと見つけて購入したのであった。


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