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殺人探偵 act.1

作者: kokuto-

数年前に書いていた作品が掘り上がりましたので投稿させて頂きます。楽しんで頂ければ幸いです。

『殺人探偵』.1

僕は人間で。

彼女は殺人鬼だ。

僕は彼女に何故殺すか問うた事がある。

彼女は知らないと答えた。

目的を、見失ったようだ。

何故僕を殺さないのか問うた事がある。

彼女は解らないと答えた。

理由を、見失ったようだ。

彼女は僕に目的はあるか問うた事がある。

僕はそんなもの殺したと答えた。

殺害してきたかのように。

何故殺してしまったのか問われた事がある。

僕はそんなこと忘れたと答えた。

忘却したかのように。

目的を見失った殺人鬼と。

目的を殺害した人間は。

意外に馬が合い。

友達になった。



僕は、山にある別荘に呼ばれていた。

山は山でも深い山。

森林というか山岳地帯。

その中ほどに、その別荘はあった。

途中から雨が降って来て、僕の着てきたスーツは濡れていた。

ちなみに、徒歩。

標高もそれなりに高かったので、道路を歩くのに苦労した。

別荘の玄関まで辿り着き、インターホンを鳴らす。これまでの鬱憤を込めて、

連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打

「うるっさぁーい!!このピンポン小僧!!」

玄関から女性が飛び出て来た。

飛び蹴りで。

あいにくインターホンの近くにいた僕は左側。ドアは右側に開き、蹴りが入ったのは真正面。

その女性は着ていたTシャツとジーンズ、それから肩まである長い黒髪を水溜まりにこれでもかと叩き込んだ。

「なっんっじゃっこりゃーーー!?」

さらに怒ったようで、僕に詰め寄るその人は泥だらけでこう名乗った。

「このはもの 波佐見はさみ様を泥だらけにするとは、どういう了見よ!」

彼女がそう言った時にはもう、僕は別荘の中に入っていた。

「あっ!ちょっとちょっと君!ピンポン小僧!あんた、勝手に入らないでくれる?」

中は外の鬱蒼とした森と比べ、豪華だった。

一階の天井にはシャンデリアが吊ってある。

そこで、泥に手を−−−もとい、波佐見さんに手を掴まれた。

「勝手に入るなって言ってんでしょうが!」

そのまま手首を捩られ関節を決められる。

「あんた何処の何様?あたしはこんな鬱になりそうな奴呼んだ覚え、ないんだけど」

酷い言われようだ。

僕は左の胸ポケットから自由な手で招待状を取り出した。それを波佐見さんに渡す。

「ん?これ…」

器用に片手で封を開け、中身を見る波佐見さん。

「ああ、あんたが探偵の檻口おりぐち 解定かいていさん?」

「正確には助手ですけどね」

やっと解放してくれた波佐見さんを警戒しつつ、立ち上がる僕。

「ふうん、じゃあご本人は?」

「仕事で忙しくて来れなくなりました。なので、僕が代わりに」

まあ、解定先生は家にいること自体が稀なのだが。

「へえん。あんた、名前は?」

「えっと……」

扉に目をやり、続いて高い窓から差し込む光に目をやる。

扉窓とびらまど ひかるです」

「ふうん、へえん。変な名前ね。まあ、いっか」

と言い、

「とにかく、この一週間よろしくね」

と、笑顔で、そう、言っ、た。



前の言動で解るように、僕はこの別荘に一週間滞在しなければならない。

なぜなら、この別荘に脅迫状が送り付けられたからである。

『この一週間で●●別荘の持ち主を殺す。防げるものなら防いでみろ。 by刃畜じんちく 霧害むがい

こんな内容。

名前と裏腹に危ない思想の持ち主のようだ。ちなみに、この別荘の持ち主ははもの 法帳ほうちょうさんで、波佐見さん、法帳さんは3姉妹だ。あと一人ははもの 無不ないふさんで、主に自室に篭りっぱなしらしい。法帳さん→無不さん→波佐見さんの順である。

とりあえず、リビングに落ち着かせて貰って、温かいココアを頂いていたら、着替えたらしい波佐見さんが2階から降りて来た。

「さっきはどうも」

「………」

返事がない。どうやら嫌われてしまったらしい。

「皆さん、こんにちは。私がこの館の当主の妹の釖 波佐見です」

波佐見さんは優雅に挨拶した。

皆さん、の言葉どうり、ここにいるのは僕だけではない。このリビングには今、4人の人間がいる。

まず、僕。次に、向かいのソファーに自称名探偵 紀佐他きさた 佐奈さなさん。年齢は僕より2歳くらい年上みたいだ。昔の探偵が着ていたようなコートを着て、長い髪を後ろで無造作に縛っている。眼鏡をかけているが、それが全く似合っていない。これだけ眼鏡が似合わない人、初めて見た。女の人なのに。

波佐見さんから正面、つまり僕の左側には刑事の 可加かな 佐原さはらさんがいる。彼は細身で、どんな隙間(勿論常識の範囲内のもの)にも入れそうだ。何故かいつもそわそわしている。神経質そうに見える。

僕、波佐見さん、紀佐他さん、可加さん。これで4人だ。

「では、早速ですが、3人には姉の部屋の警護をしてもらいます。紀佐他さんは扉を、可加さんは外のベランダを、扉窓さんは玄関をお願いします」

「了解です」

「了解」

「りょーかい」

三者三用の返事で承諾。

そして、移動を開始した。

皆、それぞれの持ち場へ行く。と、その前に

「すいません」

波佐見は「何か?」と言いながら物凄い不機嫌そうな顔で振り返る。

うわあ。

「えっと、姉妹の方々の現在の状況を詳しく教えて頂けませんか?…もう一度」

彼女は「はぁ」とため息を大袈裟にふりまでつけてつき、喋りだした。

「現在、長姉の法帳は手紙がきてから部屋に篭りっきりです。食事は私が運んでいます。次姉は…多分まだ寝ているでしょう」

「ありがとうございます」

僕はそう言って持ち場についた。

僕の持ち場は玄関だ。そこで

「トゥルルル。トゥルルル」

僕の携帯電話が鳴った。

否、正確には喋った。

「…………………………………………………………………」

「トゥルルル。トゥルルル。アレ?オカシイナ。トゥルルル。トゥルルル」

「先生、勝手に人の携帯の通話回線を開かないで下さい」

その携帯から聞こえてくる、幼い、子供のような、舌足らずの、

合成音声。

「イヤイヤ、ダッテ君ゼンゼンデテクレナインダモノ。コッチガコマッチャッテサァ。トコロデ、ドウ?シュビハ?」

「まあ、今の所何もおこっていませんよ。今の所は」

「フーン。ソウ。マ、ガンバッテネ。モトモト私ノエモノナンダカラ」

「はい。分かりました」

「ホントカナ?マ、イイヤ。ソレジャ、テイキツウシンワスレナイデネ」

「わかってますって。解定先生」

「オイ。私ノコトハミョウジデヨベトナンドモナンド」

ぷつり。

電話を切った。

さあ、鬼が出るか蛇が出るか。



死体が出た。

扉を開けたら死体が出た。

死体だった。

死体の胸にナイフがどう刺さっていたとか、血のシミがどうベッドに広がっていたとか、最期の表情がどう絶望的だったかとか、あえて言わない。

ベッドの上には死体が二つで、

両者がナイフで刺されていても、

僕はその描写を許さない。

窓が開いていて犯人は外から来てそこから逃げていったとしても、

僕は追わない。

もう、放っといておこう。

僕にそんな趣味はない。

ちなみに死体は


法帳さんと紀佐他さんだった。



初め、

食事を持っていった波佐見さんの悲鳴。

次、

僕と可加さん部屋に到着。

最後、

現状把握。その後、無不さん到着。

余談、

無不さんは悲鳴を上げ、その場にへたりこんだ。服装は今がた起きてきたような上下ジャージ。部屋はほぼ密室。可加さんがトイレに行った時に行われた犯行だった。

僕は、犯人を探す事にした。



まずは警察に電話しようと携帯を開けた所、

「…アンテナが、ない」

ああそうか、ここ山だった。

ならなんで先生は電話してこれたんだ?

…衛星?

まあいいや。

とりあえず固定電話で済ませようかと思い、1階のリビングへ、

『ツーツーツーツー』

…?

かけ直し。

受話器を持ち上げ耳に当てる。

『ツーツーツーツー』

…??

何とは無しに電話の後ろを見る。

電話線が、ぷっつりと、鋭く、まるで、ナイフかなんかで切られたように、

切られていた。

連絡ができない。

外部との遮断。

つまり、犯人は僕達をここから出したくないらしい。

ということは、

内部犯。

僕は、状況の整理に勤めた。

法帳さんの部屋には法帳さんしかいなく、ベランダには可加さん。扉の前には紀佐他さん。そして、玄関に僕。

波佐見さんはキッチンにいて、無不さんは部屋にいた。

ちなみに全員アリバイはない。

自己申告だ。

刑事の可加さんによると、死因はナイフによるショック死。両者共々だ。死亡推定時刻はわからないそうだ。

って、こんな事件、推理するまでもなく、簡単なんだけどね。

1 部屋には法帳さんがいて。

2 ベランダの可加さんはトイレにいっていなくて。

3 扉には紀佐他さんがいて。

4 波佐見さんが食事を持って来ていて。

5 死体発見。

4〜5に入る所が問題点だ。

僕の推理では犯人は波佐見さんだ。だって犯行に及べるのが二人いて、そのうち一人は動機がないんだもの。

さて、解決編でも行きますか。



波佐見さんが死んでいた。

あれ?犯人は波佐見さんで犯行したのも波佐見さんで、

結局犯人は波佐見さんのはずなのに。

僕は死体があったリビングから飛び出し、玄関まで走った。

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでだ?

何故波佐見さんが死んでいる!

何故犯人が死んでいる!!

「うわあぁっ!」

玄関で可加さんも死んでいた。

じゃあ犯人は!?

背中に深い痛みと多分出血。

そして玄関の向こうに

解定先生を見た……気がした。

そこで、僕の意、識は、と、切、れ、る。



「サア、カタリベモ脱落シテシマッタカラ、私ガコノ事件ノ説明ヲシヨウカ」

私は驚いて立ち止まった。

そこに人がいたからではない。

そこに人がいなかたったからだ。

話声は何処から聞こえる?

「マアマア、オチツキナサイッテノ。アア、コノ声ガフマンカイ?ナラ、・・・コれでどうかな?」

急に耳障りな合成音声が変声期を迎えた女の子の声に!?

私は驚きを隠せない。

「ふむ。私はこの声は嫌いなんだけれども、まあ仕方ないか。さあさあここでお待ちかね!解決編の始まりだよ!」

なんだこの声は?

解決編?何、それ?

私の知らない所で話が進む。

「まず、そうだな。この事件の概要からいこうか。

まあ、おおざっぱに言うと、これは衝動殺人だね。

刃畜さんから来た手紙に便乗した波佐見さんが法帳さんを殺害、その後部屋に入って来た紀佐他さんも殺害。

それを後悔した波佐見さんからの自白が君に来た。

そこで、殺人は悪いことだと信じている君は波佐見さんを衝動的に殺害した。波佐見さんの背中にナイフが刺さっていたからね、背後を不意打ちだろう。

それを見た可加さんはあろうことか通報しようとした。だが、電話は使えない。山から降りようとしたところ、君に見つかりまた刺された。今度も背中だ。

そこでしばらくこの私の助手に逃げられないように見張っていたら、逃げてきたこの猿に出くわした。ああ、猿というのはこの助手の比喩だよ。比喩、わかるかい?」

私は首を縦にふる。

「そうか。まあいいだろう。及第点だ。そこで、事件に必然的に必要なもの、つまり動機だが…?」

私は駆け出した。

声は後ろで停まっている。

このまま町まで降りれば私は助かる!

助かると!そう、信じて…。



「アア、ニゲテシマッタカ。マア、イイダロウ。ドウセソノウチツカマルサ。トコロデダ、コイツ、ドウシヨウ?アノコニタスケテモラウテハズダッタノニ…。フン、ミステルカ、ドウセツカイステダ」

「…誰が使い捨てですか。誰が」

僕は渾身の力をこめて背中のナイフを抜き、胡座をかいた。

「ふ、まさか先生に助けられるとは、驚きましたよ」

そういいながら、背中の傷の辺りに手をやる。

「それにしても、この服、高性能ですね。いくらしたんですか?」

「50万円」

「高い!」

「アア、ヨカッタヨカッタ。アノママオキテコナカッタラミステル所ダッタヨ。ソレヨリ、出血多量で失血死シタクナカッタラハヤメニビョウインニイクコトヲオススメスルヨ」

「分かりました。よっと、…痛っ」

「大丈夫カイ?」

「ええ、まあ」

そのまま立ち上がった僕は山を降りていった。

彼女とは逆方向の道で………。



『お昼のニュースです。今日正午頃、●●山のふもとで、血まみれの服を着た、65歳の釖 無不さんが発見されました。発見当初、彼女は酷い衰弱症状を示していてすぐに病院に搬送されました。病状が回復次第、取り調べが行われる予定です。

続いてのニュースです。

先日、国道に血まみれで倒れていた所を保護された自称 扉窓 光 19歳が正午、病院を抜けだしました。警察は今だ行方を掴めていません。続いては天気予報・・・』

「ふん」

今までテレビに見入っていた15歳くらいの体格の少女が、テレビを消し、回転椅子から立ち上がった。

「今回も、殺しそびれてしまった」

少女は落胆した様子でため息をつき、キッチンにコーヒーを飲みに向かった。

だだっ広い部屋、薄暗い照明。

茶色のコートを纏った少女はその部屋から出て行った。

表札には「檻口探偵事務所」の文字。

そして、少女は

「次は何して遊ぼうか」

と言い、

ひそかに、

壮絶に、

歳相応に可愛らしく、

肩までの黒髪を翻し、

笑った。

−−−−−−−−−−−−−END

どうでしたでしょうか。『殺人探偵act.1 〜山奥の別荘と消えた犯人、少女の笑みは何を意味する〜』は。え?タイトルが長い?気のせいじゃありませんかねぇ。

いかんせん未熟な頃の作品ですので、拙い所も沢山見られますし、とある作品に強く影響を受けておりますが、生暖かい目で見てやって下さい。

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