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星空の記憶  作者: 柳瀬亮
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第16話『夜明けまでの時間』

(ったく、重いんだよ…)


 克哉は泥酔して眠り姫となっている恵をおんぶしながら、すれ違う人達の視線が恥ずかしいからと、裏道を使って夜中の街を歩いていた。


(女を酔わせて持ち帰るような男に見られてねーだろうな?クソ…)


 意外と世間の目を気にする克哉は、ヘトヘトになりながらも目的地へと一歩一歩進んでいた。


(マングースマンションってコレか?)


 ようやく恵が生息しているマンションにたどり着き、エレベーターで三階へと上がった克哉は、和沙に言われた部屋番号の前で恵をおろした。


「ふぅ~…、ったく…。迷惑ばっかかけやがって…」


 克哉は片膝を立てながら、ドアの前に座り込んだ。

 マンションの廊下は、玄関の対面側がすべて吹き抜けになっていて、夜風がビュービューと肌に染みる。


「ほら、起きろよ!ついたぞ!早く鍵開けて部屋ん中で寝ろよ…」


「…グースカピー、…グースカプー」


 克哉は周りの住人に気遣いながら、何度も恵を揺すったが、まったく反応が無かった。


「…俺はもう帰るからな」


 地べたに座り、ドアに寄り掛かりながら眠っている恵を、置き去りにして廊下を歩き出した克哉。

 エレベーターの"下"ボタンを押したが、やっぱり一人にはできないと、克哉はまた恵の前へと戻った。


「クソ、明日からもっとコキ使ってやるからな!」


 克哉は眠っている恵のおでこに"ツンッ"とデコピンをし、羽織っているコートを恵にかけた。




 数時間後、空が明るくなり、吹き抜けの廊下に日が射すと、恵はまぶしさからうめき声をあげた。


「うう~ん…」


 恵は薄っすらと目を開けたが、日の光が直接飛び込んできて、思いっきりしかめ面をしてしまった。


「ううう~ん……まぶしい……ムニャムニャ………」


 何度も目をこする仕草をした恵。何故か一瞬開いた目から、克哉の姿をとらえたような気がした。


「うう…ん?」


 再び目を開けると、恵の隣で不機嫌そうな顔をしたまま眠っている克哉の姿が映った。


「オーナー!」


 恵が馬鹿デカイ驚愕の声をあげると、克哉は"パッ"と目を開き…。


「…チッ、やっと起きたか…」


 と、恵に対し舌打ちをした。


「あ…あの…私…」


 克哉は立ち上がり、恵にかけていたコートを"バッ"と素早く取り、そのまま羽織った。


「いいか?今度迷惑かけたら置き去りにするからな?」


 そう言い残し、終始不機嫌なまま恵のマンションを後にした。


「え…え…??」


 泥酔後の起き立てだった恵は、一瞬の出来事にまったく理解ができず、ただ去って行く克哉の背中をボーッと見つめるしかなかった。




「アンタをおんぶして帰ったのよ、哀れね~」


 目を覚ました恵は、自分の部屋へと入り、和沙に電話をしていた。


「じゃあ…オーナーが私を?」


「放っておけなかったんでしょ。それより聞いてよ、アタシは支配人さんに送って貰ったんだけどさ、マンションの下まで来た癖に、部屋に来なかったのよ?何度もお茶してってって誘ったのに!ヒドイと思わない?もう脈なしだわ。紳士のフリしてんのかしら?食べたかったのに~。男って綺麗な女を見たら性欲が沸いて来るんじゃないの?雑誌のアアンアアンで誘い方勉強したのに…」


 和沙の愚痴は一切頭に入ってこず、恵はただただ"オーナーに大迷惑をかけた"ということに後悔をしていた。


「ちょっと恵聞いてんの?ええ?」




 昼になり、恵がレストランプレアデスに出勤すると、厨房にいつも通り克哉がやって来た。


「…おす」


 現れた克哉は、若干鼻声で、いかにも調子が悪そうな顔をしていた。


「オーナー…ごめんなさい!私…、すごく迷惑かけちゃったみたいで…」


「ああ、そうだな…」


 克哉は否定せず、そのまま厨房を去って行った。


(なんだか調子悪そうだな…。私にコートかけて、スーツだけであんな所で寝たら誰でも風邪ひくよね…)


 恵は知っていた。克哉がおぶって自宅まで運んでくれたこと、朝まで一人にしなかったこと、コートをかけてくれたこと…。

 無愛想で感じの悪いオーナーだけど、本当は優しくて思いやりのある人だと…。だからこそ、また迷惑をかけてしまったことが悔しくてたまらない。


 そんなモヤモヤした思いを持ちつつ、せっせと仕込みを終え、忙しい営業時間となった。

 営業中は克哉のことを考える余裕もなかったが、営業が終わると、やっぱり克哉のことを考えてしまう。


 洗い物をしていると、進次郎が挨拶回りに来た。


「御影くん、今日もお疲れ」


「お疲れ様です支配人…。あの、オーナーまだ居ますか?」


 恵はキチンと克哉に謝りたくて、営業が終わるタイミングをずっと待っていた。


「ああ、克哉なら帰ったよ。今日調子悪かったみたいで…、途中で熱が酷くなったみたいだな。これから俺がオリオンに行くんだ」


「ええっ?」


 体調の悪かった克哉は、無理をして店に出たせいで、熱を出してしまったようだ。そして体調を悪くした原因を作ったのは恵本人である。


「……支配人、オーナーの自宅、ご存知ですか?」




 恵は進次郎に克哉の自宅を聞きだして、レストランプレアデスから近い克哉が住んでいるマンションへと向かった。

 迷惑になるかもしれない…と言うのは分かっていた。そして、自分のモヤモヤを消すために、克哉の自宅へ行くのもワガママだと分かっていた。

 だけど、今の恵は何より、克哉の体調が心配だった。

 いつも肝心な時に自分を支えてくれた克哉を、今度は自分が支えたいという衝動に駆られてしまった。溢れ出した感情を抑えることができなかった。


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