#9
「うーん……」
まあまあかな、と言いたげな顔をしているな。でも母さんの前でもしそんな事を言ってしまえば、
『しょんぼりしそうだ』と思ったルミは――。
「どうしたの~?」
「い、いや、何でもない。楽しいよ、吹奏楽部!」
ウソが下手だなー。なんていう俺の呟きがウソだ。
ややこしいが、要は俺が今ルミの言葉に対して呟いた一言がウソだったのだよ。
え? 余計に分からない? そりゃあ、失敬でござんしたねぇ。
「あらあら~、そうなのぉ~。ルミが楽しそうで、お母さん安心したわ~」
「エヘヘ~♪」
「うんうん。微笑ましい光景だぁ、これが母と子の愛情ってヤツなんだなあ。しくしく……」
――吹奏楽部を嗜む一方で、
高校に進学したらけいおん部か文化部に入部するつもりだとルミは話している。
あちゃー、ルミ。俺の影響でそんな事に――。
やめとけー、リアルけいおん部は放課後ティータイムみたいに優しくはないぞぅ――……。
お兄ちゃんはなー、お前を心配してダナ――。
まあいっか! ナニ部に入ろうがそこでナニをしようが、ルミが決めることだしな。
俺があーだこーだ言ったって無駄だよな。
―という事で翌日―
「……でさー、昨日ヒロユキたちとさ。あのあとゲーセン行ってたんだよ」
俺がリョウやレンと話していたのは、いつものように昼休みのことだった。
リョウはあのあとダチとゲーセンに行き、レンは全力で家まで自転車を漕いだという。
あ、そうそう。リョウが言っていた『ヒロユキ』というヤツのことなんだけど、
そいつは1年B組の『寺辺ヒロユキ』の事だ。髪染めててさ、少しはっちゃけてるヤツなんだよ。
「クラス違うのによく仲良くできるねぇ、チミたち」
「それはー、僕に対するイヤミですかー」
棒読み調の抑揚がない口調でレンがそう言ってきた。
「いや、そんなつもりで言ったんではないんだ。許しておくれェ……」
「うわーんひどいよマサキぃー」
まだ棒読みを続けるか!
やめてくれ。俺の腹筋が、フッキンガム宮殿が崩れてゆく!