#72
さて、どこで食べようか――。出来れば三ノ宮さんとの間に良い思い出を作りたいんだよな。何か良さそうなところはないか、街の中を散策してみる。
「三ノ宮さん、どこでもいいんですよね?」
「はい。私はどこでも構いませんよ」
「ハンバーガーとかでもいいですか?」
「いえ、ファーストフードはたまに友人と食べに行きますので。嫌いというわけではないです」
「そっかあ。じゃあラーメン屋さんとかはいかがですか? 餃子とかチャーハンとか食べられますよ」
「中華料理も良さそうですね」
「ご自宅では何をお召し上がりになられているんで?」
「和食が中心ですね。こぞって高級なものが多くて」
歩いている途中で何が食べたいか、自宅では何を食べているのか聞いてみたところ、なかなか面白い解答が聞けた。やっぱりその辺はお嬢様なんだな。
「……ですので、出来れば洋食か質素なものが食べてみたいとは思っていますわ」
「高級食材は食傷気味……ってことですか?」
「はい♪」
三ノ宮さんがニッコリと笑う。もう何度目だろうか、三ノ宮さんの素敵な笑顔を見ていると俺の中で何かが弾け飛びそうになってしまう。――俺も、男だ。ここは一肌脱いでみようじゃないの!
「――三ノ宮さん! もう一度確認取らせてください! 本当にどこ行ってもいいんですよね!?」
「え? 刃野さんがお好きなようにしてくださっても構いませんが……」
「よし、じゃあ行きましょう!」
ノープランだけど別にいい。ガイドブックに載っていたレストランが何となく良さそうだから、そこに行ってみよう。そう思った俺は三ノ宮さんと手を繋ぐ。
「あの、行くってどこへ?」
「いいからついてきてくださいっ!」
「じ、刃野さーん!」
◎◎◎◎◎◎◎◎
そこは多くのお客さんで賑わうレストラン。中は広くて、とても大きい。くどいようだけどここでもクリスマスっぽい飾りつけが施されている。お客さんは親子連れとカップルが多かったかな、ひとりで入ってきている人はそんなにいないや。
「――刃野さんは普段こういうところまで食べに行きますか?」
「いいや、俺も家族と一緒じゃなきゃあんまりいかないかなぁ」
「そうでしたか。私も友達と一緒のときぐらいにしか寄りませんね」
「ひとりじゃつまんないからですか?」
「そんなところかしら」
窓辺から真冬の街の景色を一望しながらの昼食。清々しい青空ときらびやかなクリスマスの飾り付けが目にしみるぜ――。食事の方は、俺はミックスグリルのスープセットで三ノ宮さんは煮込みハンバーグの野菜サラダセット。ちゃんと野菜を取る辺り、健康と栄養のこと考えてるんだなあ。俺も栄養に気を遣わないと。
「ところで刃野さんはなぜお野菜を摂らなかったんですか?」
「何となく食べたい気分じゃないかなーって思いまして」
ハンバーグをフォークで刺して口へ運ぶ。むしゃむしゃしている最中に三ノ宮さんからサラダをつけなかったことについて訊かれたので、とりあえずそう答える。
「それはいけませんね。野菜は摂っておいた方がいいと思います」
「ひっ! じゃ、じゃあ、あとで野菜ジュースでも……」
眉をひそめた顔でそんなこと聞かれたからちょっと怖かった……。真面目な人って怖い。
「いい考えですね! 野菜ジュース一本飲むだけでもバランスが良くなりますから」
「ですよねー! やっぱりそう思いますよねー!」
三ノ宮さんに野菜ジュースのこと話したら喜んでもらえた。野菜が不足しがちだから、野菜ジュースは本当にありがたい。スーパーとかで良く売ってる生野菜もウマいよな。
「そういう三ノ宮さんは何が好きなんですか?」
「私、何でも食べれますわ。お魚が一番好きですけど、他には果物やケーキも好きですよ」
「お〜、いいな〜! 俺、お肉とかみかんが好きです」
「やだ、やっぱり肉食だったのね!」
「いえ雑食です! それに唐揚げ大好きですから!」
「もうっ」
やべえ――楽しい。適当に選んだお店でお昼食べてるだけなのに、こんなに盛り上がっちゃうなんて。しかし三ノ宮さん、第一印象はキツい人だったけどそこまでキツくはないし、綺麗だし――エリカもいいけど三ノ宮さんも悪くないかな。
「ごちそうさまでした」
「ふー、おなかいっぱい」
――てなわけで、完食。このお店の料理は最高だね。あの肉汁とかソースの利いたハンバーグとかたまらん。腹が減ってるときって何でもおいしく感じるらしいけど、今回はファミレスだからなおさらそうだな。リョウやレンと一緒のときはほとんどファーストフードだし、家族以外とファミレス入るっていう貴重な経験もできた。これがリア充の気分なんだな――俺はなんて幸福者なんだろう。
「三ノ宮さーん、次はどこ行く?」
「次ですか? あの、マップ見せてもらってもよろしいでしょうか」
「どうぞ♪」
食後の運動……ということで、レストランから出たあとはまた散歩。どうやら三ノ宮さんには行きたいところがあるみたいなので、ガイドブックを渡してみる。――驚いたことに、ここまで一度も他のリア充ごっこ中のカップルとは出会っていない。みんな街中あちこちに散らばって楽しんでるんだろうなあ。
「……刃野さん」
ガイドブックを渡してからしばらく歩いていると、三ノ宮さんが俺に声をかけてきた。
「どうしました?」
「次、佐伯神社行ってみませんか?」
――佐伯さん!? 佐伯さんっていやあこの辺のデートスポットの定番じゃないか。まさか、三ノ宮さんは本気で俺に――!?
「刃野さん?」
「さ、佐伯さんですよね!? い、いいですよもちろん!」
「本当ですか? ありがとうございます、では早速!」
「はっはいっ!!」
あんな真剣な顔で言われちゃ断るに断れないよな――OK出したら満面の笑みで喜んでくれたし。こりゃあ期待を裏切ったら気分悪いな。かくして、次の行き先は佐伯さんこと、佐伯神社に決まった。