#70
そして迎えたクリスマスイブ――。三人の女と四人の男が集った。女は学級委員のエリカと、スーパー長髪美少女の神永さん、そして忙しい中で無理して来てくれた生徒会が誇る高嶺の華・三ノ宮お嬢様――。素晴らしい面々だ。男はリョウと若干空気気味のレンと、二年が誇る熱血番長(?)である朝霧先輩、そして俺。
「――そろったのはこんだけか。みんな、お忙しい中わざわざ来てくれてありがとうございます」
「わりぃ、もっとサーチかけて連れてきた方が良かったかな」
「いいのいいの。さ、とりあえず始めようや」
リョウにフォローを入れた俺は、咳払いしてルールの説明を開始する。
「まず男がじゃんけんをします。で、勝った人から好きな女の子を選んでクリスマスが終わるまでお付き合いをします。逆に、女の子のほうがじゃんけんをして好きな男の子を選んでくれてもいいよ」
「刃野さん、人数が足りませんがもし負けた人はどうなるのかしら?」
「三ノ宮さん、その場合は一人だけ寂しい思いをしながらクリスマスを過ごすハメになります」
「それは……キツいわね。何とかならない?」
「なりません!」
「そう……でしたか。それなら仕方がないですね」
リア充ごっこの非情なルールを聞いて三ノ宮さんが苦い顔を浮かべる。許してください、そういうルールなんだ。今さら変更は利かないんだ――。
「だが刃野、お前仕切ってるけどもしお前がジャンケンで負けたらどうすんだ?」
――と朝霧マナブ先輩から訊かれちゃったので、俺はこう答える。ちょっとふざけた仕草を取りながら、「街中で暴れてクリスマスを台無しにします!」、ってね。
「わかった、お前やっぱりバカだろ! それは一番やっちゃいけねえことだぞ。リア充への嫉妬とか憎しみとか、そーいうのを抑えながら過ごすのが男ってもんだろ」
「うるさーい! さあ、じゃんけん始めますよ」
「え、今のスルー!? そりゃねえだろぉ〜〜!!」
朝霧先輩がすげえ良いこと言った気がしたが、今はそれどころではない。じゃんけんだ。じゃんけんで雌雄を決するのだ。
「最初はグー、ジャンケン……ポン!」
「ポン!」
「ポポポーン!!」
「ぽ、ポン!」
俺はチョキ、リョウはパー、レンはチョキで朝霧先輩はグーだ。ピカピカ、ピカリン……なんて言ってないからな。別に心の中で言ってないんだからな。
「……えっと、もっかいやりたい?」
「やろう、やろう! なんかしっくり来ないんだよなぁ」
リョウから仕切り直しをしたいと頼まれたので、仕方なくもう一回やることとなった。ま、しょうがないよな。
「じゃーんけーん、ポンッ!!」
さあリベンジだ! 今度は俺がパーでリョウがパー、レンはグーで朝霧先輩がチョキだ。あとだしはやってないし、「アヘッ」てしながらのダブルピースも、ピカリンじゃんけんもやっちゃいないぞ。これ、ホントな。
「チョキの勝ちー!」
「負けたー! てなわけで、朝霧先輩から先どうぞ」
「おっしゃー!」
――ということでみんなは順番に好きな女の子を選んで、その人とクリスマスを過ごすこととなった。朝霧先輩はエリカを選んで、リョウは神永さんを選んだ。え、俺? 俺はね――高嶺の華。そう、あの人だ。まさかの、まさかの! 三ノ宮お嬢様だー!
「ぃやったぁーい!!」
「何が『ぃいいいやったぁぁぁぁ!!』なんでしょうか、刃野さん?」
「いえ、前から一緒に遊んでみたいと思っていたんです。まさか夢が実現するなんて思ってもみませんでしたよ!」
俺のシャウトを真似しちゃうなんて、三ノ宮さんかわいい。三ノ宮マジプリンセス!
「へへ、三ノ宮さんマジ天使!」
「そ、そんな。私が天使だなんて大げさな〜……」
「そのくらい三ノ宮さんは綺麗でかわいいじゃないですか!」
「ま、まあとにかく……クリスマスが終わるまでよろしくお願いしますね」
「ハイ! 不躾で恐縮ですが、こちらこそ!」
こうして、俺と三ノ宮お嬢様との楽しいクリスマスが始まった。レンはどうしたか? ――彼はそっとしておいてあげて。